Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/4bfc8d24dcbefea46dbb364ab3ab04a0f676f432
増えつつあるアフリカ系登山家、「きっと社会に良い影響があると思います」
1953年にエドモンド・ヒラリーとテンジン・ノルゲイが初登頂して以来、世界最高峰のエベレストに登頂した人は少なくとも4000人いる。しかし、このうち黒人はわずか10人しかいない。 写真:「コロナ前」のエベレスト頂上付近はこんなに混みあっていた 写真6点 2022年、その数は倍増するかもしれない。黒人登山家だけで構成される「フル・サークル・エベレスト・エクスペディション・チーム」がエベレストに挑むからだ。 これまで、黒人だけのチームがエベレスト、またの名をチベット語で「世界の母たる女神」を意味するチョモランマの頂上に到達したことはない。彼らは、新しい世代の探検家が勇気や自信を持つことにつながればと願いながら、先人たちの挑戦の足跡をたどっている。 「エベレストは象徴的な存在です」と語るのは、チームリーダーのフィリップ・ヘンダーソン氏だ。世界最高の登山家たちを育成するネパールの「クーンブ・クライミング・センター(KCC)」で数少ない黒人の指導員の1人でもある。「いつ私がそれをやろうと言い出したか、はっきりとは覚えていません。少しずつ考えがまとまっていったんです」 メンバーの中には、すでに様々な「初」を達成している人がいる。アビー・ディオンヌ氏は、米国の黒人女性として初めてクライミングジムの経営者となった。ジェームズ・“KG”・カガンビ氏は、アフリカの黒人として初めて米アラスカ州のデナリとアルゼンチンのアコンカグアに登頂した。チームは女性3人、男性8人で構成され、年齢も29~60歳と幅広い。職業もデータサイエンティスト、社会学の大学教員、高校の化学教師、海洋電子工学技術者など様々だ。 3月下旬、ネパールの首都カトマンズで合流した一行は、飛行機でルクラの町へ。そこからクーンブ谷を毎日約300メートルずつ登り、サウス・エベレスト・ベースキャンプ(標高5364メートル)に到着して、登頂を目指す最終アタックに最適な天候を待っているところだ。ほとんどの遠征隊は、吹雪の可能性が低く、風速が通常秒速22.4メートル以下(安全な風速は一般に秒速13.4メートル以下とされる)になる5月の第1週から第3週にかけて登頂を果たす。 チームは何年もかけて準備を整えた。自分たちの成功によって、登山というスポーツがインクルーシブ(包摂的)でないという認識が変わり、より多くの黒人が野外での冒険を楽しむようになることを望んでいる。
白人ばかりの登山を変える
毎年、何百人もの登山家が世界最高峰を目指すものの、リスクは高く、成功は決して確実ではない。標高8000メートルを超える場所は、酸素の欠乏、判断力の低下、予測不可能な気象条件を伴う「死の領域」と呼ばれ、欧米の登山家やシェルパを含めて何百人もの人々が命を落としている。 アメリカン・アルパイン・クラブ(米国山岳会、AAC)の2019年の報告書によると、自分は黒人だとする登山家は全体のわずか1%だ。南アフリカのシブシソ・ビラネ氏が黒人として初めてエベレストに登頂したのは2003年のことだった。その3年後、ソフィア・ダネンバーグ氏が最初かつ唯一の米国の黒人および黒人女性としてエベレストに登頂したが、この出来事は数年前まで広く知られることはなかった。 しかし、事態は徐々に進展している。ヘンダーソン氏がここ4年間で登山やクライミングのイベントで見かけた黒人の数は、それまでの20年間を合わせたよりも多いという。 氏は、ソーシャルメディアによって有色人種の存在がより見えやすくなったことや、アウトドアアドベンチャー業界がダイバーシティー(多様性)を推進するようになったことが功を奏しているとみている。「業界は努力していると思います。『私たちは有色人種の人たちのストーリーを語っておらず、彼らを真剣に招き入れていない』と気付き始めているのです」 データサイエンティストで、フル・サークル・エベレストのメンバーでもあるフレッド・キャンベル氏は、知名度の向上には責任が伴うことを認める。「(エベレストを)登るだけならいいのですが、私たちは黒人の代表なのです」と氏は語る。「背負うものは増えますが、きっと社会に良い影響があると思います」 プロの登山家であり、クーンブ・クライミング・センターの創設者でもあるコンラッド・アンカー氏は、「世界中の子どもたちが黒人だけのチームに自分を投影することができれば、彼らも登山という価値を体験し、その一部となってくれるはずです」と付け加える。
チームワークの重要性
登山はチームスポーツであり、強いリーダーシップとメンバー間の信頼関係が必要だという認識が、昨今は次第に高まっている。エベレストのベースキャンプで初めて顔を合わせるグループとは異なり、フル・サークル・エベレストのメンバーは米ワシントン州のレーニア山やモンタナ州ボーズマン近郊の山で、ともにトレーニングを重ね、様々な事態に備えてきた。 ヘンダーソン氏は、容姿が自分と似ていて、同じジョークで笑い合えるメンバーがいるチームであれば、安心感がさらに増すと言う。「山頂を目指すという大きな挑戦には、そのような心のサポートが重要です」と氏は話す。「単に山に登るのではなく、そうした旅をすることに意味があるのです」 チームは4月17日にサウス・エベレスト・ベースキャンプに到着、登頂を目指す何百人もの人々と合流した。2カ月にわたる旅の一日一日が、徐々に高度に順応し、メンバーの健康と結束力を最大限に高めるために計画されている。 この数週間で、食事、休息、高度順応、軽い登山をこなし、それから今後の物資調達について考えるという日課にも慣れた。待つことが一番難しい、とヘンダーソン氏は言う。 ヘンダーソン氏が10年前に初めてエベレストに挑戦したときは、危険なほどの低酸素状態になり、キャンプII(標高6400メートル)で終了となった。つらい経験から学んだ忍耐の大切さを、今度はチームメイトに伝えようとしている。「エベレストは危険な場所であり、高いリスクがあります。ゆっくり進むしかないんです」
文=MELBA NEWSOME/訳=桜木敬子
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