Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/da53ca13fddbdd5833dee48529ca21100ac0c6e4
公開初日から「ゴールデンカムイ」のファンと見られる若い世代が劇場に殺到
アイヌ民族の幻の祭祀を記録したドキュメンタリー映画「チロンヌプカムイ イオマンテ」が、4月30日の公開後から好評を博している。映画公開直前に完結した人気漫画「ゴールデンカムイ」でアイヌ語の監修を務めた中川裕氏がアイヌ語表記と現代日本語訳を担当、公開初日から漫画のファンと見られる若い世代も劇場に足を運んでいるが、35年前に撮られたという映像はなぜこのタイミングで映画化に至ったのか。これまで50年以上にわたって日本やアジア各地の民族文化をカメラに収めてきた北村皆雄監督に、“アイヌブーム”に沸く今こそ訴えたい思いを聞いた。 【写真】骨となって神の国に送られるチロンヌプカムイ(キツネ)の頭部 アジア各地の民族文化を撮り続ける北村監督のルーツは、長野県伊那市の村で生まれ育った幼少期にさかのぼる。古い風習や折々の通過儀礼が色濃く残る地域で育った経験から民俗学に興味を抱くと、大学時代は自主映画の撮影やテレビ局のアルバイトで映像について学び、卒業後、各地の民族文化を記録する活動を開始する。 日本文化を外側から捉えるため、沖縄の南島文化や韓国、チベット、ネパール、インドなど、主にアジアを中心に各地のシャーマニズムや伝統儀礼を記録。本作の映像である「チロンヌプカムイ イオマンテ(キタキツネの霊送り)」を北海道美幌峠で収録したのは1986年のことだ。35年もの月日が経ってから映画化に至った理由には、アイヌ文化に対するある思いがあるという。 「当時も小さなテレビ番組を作りましたが、あまりに短く『もっとちゃんとしたものを作ってくれ』と言われていた。その後ヒマラヤ遠征があったりして、ずっと約束を果たせずにいたんですが、近年アイヌ文化が再評価される中で、現代に蘇った歌や踊りが、何か僕が見たものとは違って見えたんです。アイヌ本来の歌や踊りはカムイ(神)へ捧げる大切な儀式で、体を張った鬼気迫るものがありました。今はカムイのための歌や踊りが、人へ見せるためのものになっている。これがアイヌの本当の文化だろうかと違和感を抱き、かつてカメラに収めた本物の儀式を見てほしいという思いが沸いたんです」
約50年あまりもの間、「野蛮な風習」として禁止されてきたイオマンテ
本作のタイトルにもあるイオマンテとは、猟で仕留めた動物の子を村へ連れ帰り、人の子同様に乳を含ませて大切に育てた後、葬って神の国に送るアイヌの儀式のこと。1955年から2007年までは「野蛮な風習」として、北海道知事の通達で禁止されてきた歴史がある。民族文化を撮り続ける理由について、北村監督は「失われゆくものを残そうという記録目的というよりも、古いものの中から普遍的なものを見つけ、現代を照らし出すため」と語る。 「簡単に言うとイオマンテとは動物の命をいただくことに感謝を捧げる儀式で、見方によっては残酷な行為です。しかし、そこには動物をカムイの化身と捉え、たくさんの贈り物を持たせて丁重に神の国に帰すことで、また毛皮や肉を携えてこの世界に遊びに来てくれるという考えがある。現代人はたくさんの動物を食べて生活していますが、それを殺す過程は隠されていますよね。狩猟民族であるアイヌは、動物を殺すことを大切な儀式として、大人にも子どもにも見える形で行った。これこそ、民族文化から現代を批判的に捉え直す視点と言えるのではないでしょうか」 今回の映画の公開に伴い、動物愛護の観点から批判的な声が集まることも危惧したという。しかし、ふたを開けてみれば漫画で興味を持った若い世代が涙を流して映像に見入る姿に、大きな驚きを受けたと北村監督は語る。 「私は途中までしか読めていませんが、ゴールデンカムイはアイヌ文化についてかなり本質的に捉えた、大きな功績のある漫画だと思います。そこで興味を持った若い人たちが、今度はリアルなアイヌの姿を見に来てくれれば。現代的な価値観だけでなく、命と向き合って生きた人々の姿を見て、何かを学んでほしいですね」 ドキュメンタリー映画「チロンヌプカムイ イオマンテ」はポレポレ東中野ほかで公開中。 ※「チロンヌプカムイ」の「プ」は小文字 ■北村皆雄(きたむら・みなお)1942年11月30日、長野県伊那市出身。早稲田大学卒業後の65年、記録映画、テレビドキュメンタリーのディレクターとして活動を開始する。78年に日本映像民俗学の会を設立。81年、株式会社ヴィジュアルフォークロア設立し代表に就任。監督作は「ほかいびと-伊那の井月」「修験 羽黒山・秋の峰」「見世物小屋」「アカマタの歌」「クベールの馬」など多数。4月30日より「チロンヌプカムイ イオマンテ」が公開中。
ENCOUNT編集部
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