緑に囲まれた寺の境内にベトナム語が飛び交う。名古屋市天白区の徳林寺。新型コロナウイルス感染拡大の影響で母国に帰れず、行き場を失った40人以上の外国人の「駆け込み寺」となっている。住職の高岡秀暢さん(76)は「困った人を受け入れてくれる場所が増えれば多くの人が救われる。他人に親切をすれば、自分にも戻ってくる」と助け合いの輪が広がることを願っている。 高岡さんは1970年ごろから、語学留学や文化保護活動のため、南アジアのネパールで十数年生活した。ネパールでは、貧しい生活の中で助け合いや思いやりという仏教の精神が根付いていると実感。高岡さんは、自分の部屋に留学生や旅行者たちを寝泊まりさせるようになった。帰国後、40代で父の跡を継いで住職に。その後も、アジアやアフリカの難民、日本人のホームレス、仏教を学びたい留学生などを寺で受け入れてきた。 ベトナム人の受け入れは、親交のあった在東海ベトナム人協会からの相談がきっかけ。受け入れを始めた4月中旬以降、職を失うなどして住む場所がなくなった留学生や技能実習生などが全国から集まっている。口コミで広がり、月内には60人ほどに増える見込みという。 寺での宿泊や光熱費、食費は無料。ベトナム人らは地元の農家や支援者から寄付された米や野菜などの食材を使い、薪で火をおこして自炊している。空いた時間には、これまで培った技術を生かし、寺の配水管の改修をしたり、地元住民らの農作業を手伝ったりする人もいる。 寺が用意した6畳の相部屋に滞在するグエン・タン・タンさん(28)は4年前に技能実習生として来日。愛知県半田市で自動車関係の会社で働いていた。月の給料12万円のうち10万円を両親と兄に仕送りし、残ったお金だけで生活。その後派遣社員として建設現場などで働いてきたが、3月末、人材派遣会社から突然雇い止めに。住んでいた部屋も失い、公園やインターネットカフェなどを転々とした。 1日4個のおにぎりで空腹をしのぎ、ネットカフェのドリンクバーで喉を潤した。「健康保険にも入っていないので病気になったらどうしよう。仕事がないし、そういうことばかり考えちゃう」。その後、寺のことを知り身を寄せた。「ここは寝るところもご飯もある。本当にありがたい」。ほっとした表情を見せるが「お金もないし、いつ帰れるのかも分からない」と見えない将来への不安を募らせる。ボランティアで、体調不良を訴えるベトナム人たちの健康を管理する看護師の松本はるみさん(65)は「帰国しても家族を養えるのか、と先が見えなくてうつっぽい人たちもいる。ほとんどがストレスが原因」と話す。 寺はあくまで一時的な滞在場所だとして帰国を決意していることが前提。査証(ビザ)が切れ、オーバーステイになっている人は、出入国在留管理庁発行の「出頭確認書」取得が条件となっている。しかし国際便の再開時期が不透明なため、多くのベトナム人は帰国のめどが立っていない。高岡さんは「継続的な支援が必要。今まで日本の経済を支えてきた人たちだ。日本にはもっと寛大な支援を考えてほしい」と訴えた。【ガン・クリスティーナ】
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