4月からヒマラヤ遠征を予定していたが、3月中旬以降、全ての外国人のネパール入国が禁じられた。ネパール国内の感染者ゼロの段階でのロックダウン(都市封鎖)には驚かされたが、その後、世界各国で感染が拡大。医療体制が不十分なネパールでは経済よりも命を優先した。娘が留学しているニュージーランドの対応も早かった。感染者が100人前後でのロックダウン。空港も閉鎖し、出入国ができない状況となり、娘も春休みに帰国できなくなったが、徹底した水際作戦により、新型コロナウイルスの押さえ込みに成功した。
水際作戦に多くの課題を残した日本だが、死者数は「奇跡的に押さえ込みに成功している」と海外メディアも驚きの声。諸外国のロックダウンとは違い、日本の場合は政府の要請、つまり強制力を持たない「お願いレベル」でしかない。それにもかかわらず、ゴールデンウイーク(GW)の街や観光地は閑散とした。山小屋を経営する知人も「登山者はゼロの状態。こんなGWは初めて」と驚く。
緊急事態宣言は発令されたが、罰則はなし。世界が驚くのも無理はない。日本は日本のやり方でコロナを乗り越えようとしている。民度の高さを表しているのかもしれない。
例えば、アメリカの国立公園のパークレンジャーには逮捕特権がある。強制力によって自然を守ってきたが、日本のレンジャーにはそのような権限はない。「ゴミの持ち帰りに協力をしてください」と、やはりお願いベースである。
しかし、今や日本中の山々からゴミが消えつつある。規制よりもモラルを重んじるのが日本なのか。2カ月前に、「諸外国並みの強制力を持った法整備を急がなければコロナに太刀打ちできない」と発言した自身の言葉を撤回したいとさえ感じている。
今春、全ての登山隊が入山禁止になったエベレストで、ネパール政府が清掃隊を派遣した。外国人登山者がいないこの期間に国を挙げてエベレストをきれいにしようという前向きな姿勢にハッとさせられた。今夏の富士山も入山禁止。エベレスト同様、富士山への恩返しができないものかと考え始めている。
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【プロフィル】野口健
のぐち・けん アルピニスト。1973年、米ボストン生まれ。亜細亜大卒。25歳で7大陸最高峰最年少登頂の世界記録を達成(当時)。エベレスト・富士山の清掃登山、地球温暖化問題、戦没者遺骨収集など、幅広いジャンルで活躍。著書に『震災が起きた後で死なないために』(PHP新書)。
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