Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/3ad320ce68b9dd6bde3ba076ce46d53a750f22f8
「『にぎやか』って意味分かる?」。教諭の松下太(59)が質問すると、生徒たちは眉間にしわを寄せた。すかさず教室のモニターにイラストを映し出す松下。両側に露店が並ぶ通りを多くの人々が行き交う縁日のスケッチ画。「こういう感じだよ」。うなずく生徒にも笑みがこぼれる。 2月中旬、関東地方は強い寒気で積雪に見舞われた。だが、夕方から始まる東京都葛飾区立双葉中の夜間中学の教室は温かい空気に包まれていた。学んでいた中国人やネパール人5人が懸命にテキストを読み上げている。「『分からない』という表情は見逃せない」と松下も気を配る。 隣の教室をのぞくと、こちらは日本人の生徒。といっても10代後半から60代までさまざまな年代だった。
双葉中では「夜間学級」と呼ばれる夜間中。今年で69周年を迎える。当初は貧困家庭などの子どもたちを支える場だったが、対象は学齢期を超えた幅広い世代へと広がり、1998年には外国人のための日本語学級も開設。現在の生徒数は43人(3月末現在)だ。 通常と日本語の計8クラスにそれぞれ5、6人。授業は午後5時半開始で、同9時ごろまでの4時限制。義務教育で授業料は無料。給食や遠足、修学旅行もある。都内在住か在勤なら国籍を問わず入学でき、今では生徒の約8割が外国人。形だけ卒業したが、不登校や引きこもりなどでほとんど授業を受けられなかった若者も多い。文部科学省は2015年、入学希望する既卒者も受け入れるよう通知を出している。 多様化する状況に、教える側の適応力も試される。「いろんな生徒がいる。生徒に合わせて学ばないと」。夜間中で教えて23年目の菊池和子(61)は担当の数学以外に日本語学級も兼任する。合間に勉強して中国語の通訳の資格も取得したという。
春から2年生となる上原京子は長野県出身の64歳だ。6人きょうだいの3番目で、7歳下の妹の世話に追われ「学校には1カ月も通えなかった」。英語検定の準2級は独学で取得した。20歳で結婚し、子どもが独立した頃にテレビで夜間中の存在を知る。「我慢していた『学びたい』という気持ちが湧き出てきた」 今、国籍も年齢も違う仲間と共に学ぶ。外国人と話したいという夢は教室でかなえた。海外に行くことが新たな目標だ。「自分の英語が通じるとうれしい。勉強が楽しくて仕方がない」 3月に卒業して念願の高校進学が決まった土屋飛友馬(ひゅうま)(20)は小学6年の時、家族全員でフィリピンに移住した。現地の小中学校に通い、2年前に帰国した。日本の高校にあこがれていた土屋は、中学卒業資格を得るために入学した。「受け入れてくれる場所があって、本当に良かった」 英語は得意だが、漢字は苦手だった。それでも「バイリンガルを仕事にも生かしたい」と、学び直しに取り組んできた。思いは、次の舞台でも変わらない。 =敬称略
■ ■ 九州で唯一の公立夜間中となる「福岡きぼう中学校」が4月、福岡市早良区で開校。人々は何を求めて集まるのか。多様化する学びの今を現場から追う。 (野間あり葉、塩入雄一郎)
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