Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/f2c03b6aad28ff86b5dd2255916a12ca74b315f7
配信、ヤフーニュースより
【東京エイリアンズ】ベトナム技能実習生(1) 関東一円に雪が降り積もった1月6日の夜、ベトナム出身のフンさん(24)は、背中に黒い大型リュックを背負い、凍結寸前の都内の路上で自転車のペダルを踏み続けていた。 自宅に帰るための終電時刻ギリギリの午後11時までの約4時間で、15件の配達をこなしたこの日の稼ぎは約9000円。「雪のおかげでいつもより多かった」(フンさん)とのことだったが、彼が受け取るのはこのうち5500円ほど。4割は「カイシャ」にピンハネされるのだという。 コロナ禍に突入する直前に技能実習生として来日したフンさんは、千葉県の農業関連企業に派遣されている。そこでの仕事を午後5時に終えると寮を抜け出し、電車で1時間の距離にある都心の某ターミナル駅周辺で、ウーバーイーツの配達員として働いているのだ。 こちらが用意したベトナム人通訳を介し、フンさんはこう明かした。 「以前は実習先での仕事の後、ベトナム人が経営しているレストランで皿洗いのバイトをしていた。時給は600円。でもコロナが流行してお客さんがいなくなったので、雇ってくれなくなった。それで、友人の紹介でウーバーイーツを始めた」 技能実習生の副業は、不法就労にほかならない。しかしフンさんは副業をせざるを得ない実情についてこう話す。 「技能実習生になるために、ベトナムでは仲介者にお金を払わないといけない。私はそのお金や来日のための費用として100万円以上を銀行や親戚に借りて支払っていて、その借金がまだ30万円近くある。家族も私の仕送りで生活しているし、日給3000円ちょっとの実習先からの手取りだけでは厳しい。来日前に聞いていたほど残業もないし、ベトナムの物価がどんどん上がっていることも原因だ。最近は、どんどん円安になっていることも心配。技能実習にくれば3年後にはベトナムで家が建つと聞いて日本に来たのに…」 とはいえ、ウーバーイーツをはじめとするフードデリバリーサービスでは、有効な滞在資格を持たない外国人は、配達員としての登録が不可能なはずだ。だが、フンさんが明かす。 「技能実習生でも、配達員として雇ってくれるカイシャがいくつもある。カイシャは、日本人や永住権のあるベトナム人の名義で作ったアカウントをたくさん持っていて、スマホごと貸してもらえる。自転車と配達バッグも借りられるので、われわれは何も用意しなくていい。儲けの4割はとられるし、家からの往復で電車代が1500円かかるけど、その日のうちにお金をもらえるし、とても助かっている」 実習先の仕事と副業を合わせ、休みなしに毎日10時間以上働いているフンさんだが、残り1年の実習期間に加え、2年の実習延長を希望している。 「せめてベトナムで家が建てられる、250万円くらいは貯金しないと帰れない」(フンさん) これでは、技能実習制度の建前である「技能の習得」について考える余裕など、まったくなさそうだ。 ■奥窪優木(おくくぼ・ゆうき) 1980年、愛媛県出身。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退後、中国で現地取材。2008年に帰国後、「国家の政策や国際的事象が、末端の生活者やアングラ社会に与える影響」をテーマに取材活動。16年「週刊SPA!」で問題提起した「外国人による公的医療保険の悪用問題」は国会でも議論され、健康保険法等の改正につながった。著書に「ルポ 新型コロナ詐欺」(扶桑社)など。 ■1都3県に住む外国人は120万人とも言われ、東京は文字通りの多民族都市だ。ところが、多文化共生が進むロンドンやニューヨークと比べると、東京在住外国人たちはそれぞれ出身地別のコミュニティーのなかで生活していることが多い。中韓はもとより、ベトナム、ネパール、クルド系など無数の「異邦」が形成されているイメージだ。その境界をまたぎ歩き、東京に散在する異邦を垣間見ていく。境界の向こうでは、われわれもまたエイリアン(異邦人)という意味を込めて。
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