中国、韓国、フィリピン、ベトナム、ネパール……。2019年10月末時点で日本の外国人労働者は165万人と7年連続で増加している。ただ、このような社会情勢にも関わらず不動産業界では「外国人・高齢者の入居は難しい」という認識が依然スタンダードだ。 6月15日、このような「借りられない人たち」と「借りられにくい物件」をマッチングする日本初のサービス「高齢者と外国人と事故物件オーナーのための賃貸MATCHING」がスタートした。実施するのは、日本で唯一・最大の事故物件サイト「成仏不動産」を運営する横浜の不動産会社、株式会社NIKKEI MARKSだ。 外国人労働者とオーナーの双方の間で調整を担っている金周瑢さん(44歳)と、顧詩韻さん(25歳)に、事故物件のリアルな環境や海外との違いについて話を聞いた。
事故物件は借りられにくい
――なぜ事故物件と外国人のマッチングサービスを始めたのでしょうか。 顧詩韻さん(以下、顧):貸し手の課題と、借り手の課題を同時に解決できると考えたからです。私たちが運営する「成仏不動産」では、累計1000件の事故物件を殺人・自殺・事故といった死亡理由や発見までの時間などで7区分しています。 そのなかでも殺人・自殺物件は不人気で1年以上、入居が決まらないものもあります。入居率の低下は、オーナーさんにとっては死活問題。そのひとつの解決策として外国人とマッチングすることで、事故物件でも入居できる人の母数を増やそうと考えました。 ――一方の外国人は物件を借りにくい。というのは本当でしょうか? 金周瑢さん(以下、金):それは間違いありません。直近に案内した案件では、審査までいけたのは50件中3件程度です。私は小学生のころから日本にいて、ビジネス会話レベルの日本語も話せますが、契約直前まで話が進んでいたにも関わらず外国人ということが分かった途端、入居を断られた経験もあります。 ですから通常の物件と比べると、少しでも入居のハードルが低い事故物件は外国人入居者にとって、もっと需要があるのではないかと考え、マッチングサービスが始まったのです。
外国人が日本で物件を借りづらい理由
――賃貸物件のオーナーが外国人入居者を拒否する理由とは? 金:帰国や支払遅延などのリスクが挙げられますが、最大の理由は「文化の違い」だと思います。フローリングに靴をはいたまま上がってしまうなどの国の文化はもちろん、ゴミ出しといった地域独自の文化、あるいは近隣住民とのやりとりが、クレームに発展する可能性が高いとオーナーさんは考えているようです。 韓国人の場合、キムチの匂いを気にされることも多いですね。同じ隣人でも日本語と外国語が聞こえるのでは、受け取られ方も異なりますから。外国人の入居が日本人よりも厳しいのは、通常の物件であっても、事故物件であっても基本的には変わりません。 ――事故物件と知らずに、事故物件を借りてしまう外国人もいるとか。 顧:これは私も経験があります(笑)。2年前に大学院に入るために来日したとき、入居直前まで話が進んだ物件があったのですが、そこが事故物件だったのです。たまたま契約直前で「大島てる」(事故物件公示サイト)を見て気付いたのですが、本来あるべき事前の告知はもちろんなく、問い合わせてもそのことは教えてもらえませんでした。 結局、その部屋に住むことはあきらめました。また、私は海外の交流アプリ「ZHIHU」などを使って、日本に住む外国人とコミュニケーションを取っているのですが、「隣の部屋で自殺者があったが、事故物件になるのか」とか「大島てるに載っていたけど告知は受けていない」という相談は少なくありません。特に、来日して日が浅い留学生の相談が多いですね。
事故物件の告知義務がないことも
――日本人と同じように事故物件を気にする人も多いんですね。 顧:基本的には「人が死んだ部屋」に対するイメージは、日本人も外国人も同じだと思います。「外国人はドライ」という印象のお持ちの人も多いと思いますが、若干臭いが残っている部屋でも価格を重視して気にせずに住んでしまう日本人の若者もいましたし、事故物件を選択肢に入れるか否かは、あくまで個人の考え方次第です。 ただ、日本では心理的瑕疵物件の告知義務がある分、自国よりも事故物件だと分かりやすいという環境の違いはありますね。 ――他国では事故物件の告知義務はないのですか? 金:少なくとも韓国にはありません。「大島てる」のようなサイトもないので、事故物件を意識する機会事態がそこまで多くないと思います。SNS経由で後日炎上するケースもありますが、日本の怪談やホラー映画のように、事故物件に関わるコンテンツもたくさんあるわけではないですし(笑)。 そもそも韓国の賃貸物件は、日本のように退去者が掃除するのではなく、入居者がお金を出して清掃するなど仕組み自体が異なるのです。だから、来日して初めて事故物件を意識する外国人も少なくないと思います。2020年4月には、民法が改正されて事故物件を含む「心理的瑕疵物件」の売主への規定が強化されるなど、日本は世界でも有数の事故物件に関わる法整備が進んでいる国だと思います。
外国人とオーナー両方の意見が分かる
――ここまでいろいろとお話を聞きましたが、やっぱり一般の感覚からすると事故物件に住むのは抵抗感があります。外国人にとって事故物件の魅力とは? 金:入居のしやすさはもちろん、最大の理由は日本のお客様と同じく「価格」です。家賃が通常の1~5割安くなる事故物件は外国人労働者の生活向上にも役立つと考えています。 例えば、最近では千葉県の一戸建て(3階)の賃貸物件が家族連れの外国人労働者に5万2000円で契約されました。通常は8万円以上の物件なので、子連れの家族にとっては日本での生活をより快適に過ごす助けになったと思っています。 ――事故物件と外国人をマッチングする役割として重要なことは? 顧:私たちは外国人であると同時に、事故物件専門サイトのスタッフでもあります。外国人とオーナーさんの両方の立場が分かるので、それぞれの文化的な意識の違いや条件などを上手に調整することが求められます。審査や保証などの問題を含めて、それぞれの課題を理解し、解決していきたいですね。 私も事故物件に関心を持ったのは、来日してからなので多くの外国人労働者が「事故物件」を意識した際に、正しい知識を提供したり、困っていたりするオーナーさんにつなげられる手助けになれたらと考えています。 <取材・文・撮影/藤広冨之>
bizSPA!フレッシュ 編集部
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