最近、インドと中国の緊張が高まっている。 6月15日夜から16日未明にかけ、中印国境の北部ラダック地方にある中国との係争地域で両国軍が衝突し、インド軍の兵士20人が死亡した。死者が出るのは45年ぶりだという。
インド各地で激しい反中デモ
中国側にも死傷者が出たというが、パンゴン・ツォなど実効支配線付近では5月から両軍がにらみ合い、小競り合いが起きていた。両軍は5月5日にも衝突し、双方で多数の負傷者が出たが、それ以降、中国は国境付近に兵士5000人あまりを増強した。 それに伴い、インドでは反中感情が高まり、習近平氏のポスターが燃やされるなど市民による激しい反中デモが各地で発生。モディ首相も断固とした措置で対応すると厳しい姿勢を示している。 そして、6月29日、インド政府はティックトック(Tiktok)やウェイボー(Weibo)など中国企業が運営する59のアプリ使用を国内で禁止すると発表した。同発表の直後、インドのモディ首相が2015年4月から使用してきたウェイボーのアカウントも削除された。 ウェイボーやティックトックはインドでも日常的に使用されており、インド国民にとっては通信手段が大きく制限されることになるが、それに不満を覚える市民は少ないという。 また、6月下旬に撮影された人工衛星による写真によると、中国は係争地帯であるガルワン渓谷に倉庫などを設置するだけでなく、実効支配線のインド支配側で基地を建設しているとインドの安全保障専門家は主張した。 こういった状況がどこまで進んでいるかは不明だが、インドと中国の係争地域は高地という立地上、大量に積もる雪などの影響で実効支配線が長年曖昧なままであり、それが中国による過度な行動を許しているという現実もある。
インド封じ込めを狙う中国
これまで、中国はインドを囲むかのような “真珠の首飾り戦略”を進めてきた。中国は、モルディブのアブドラ・ヤミーン大統領の時、同国へ多額の経済支援を行い、橋や道路、住宅などを次々に建設し、首都と国際空港を結ぶ立派な橋も建設した。 そして、2017年7月、スリランカ南部に建設されたハンバントタ港の利用権が99年間にわたり、2013年1月にはパキスタン南部グアダル港の利用権が43年間にわたり中国へ明け渡された。 そして、中国はミャンマーやネパールなどにも莫大な経済援助を行い、南アジアでの影響力を高めている。 昨年春のインド総選挙で勝利したモディ首相は、第2次政権初の外遊先としてモルディブとスリランカを訪問し、両国へ政治経済的な支援を強化する意志を示したが、そこに対中けん制の意味があったことは間違いない。 そして、南アジアの覇権を巡る中印の争いは、両国の国境で激しくなろうとしている。現在、ラダック地方で起きていることは両国の領土紛争という枠に収まるものでなく、インド洋や南アジアにおける中印の覇権争いという現実を内包している。
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