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◇社会学的皇室ウォッチング!/134 これでいいのか「旧宮家養子案」―第36弾― 国連女性差別撤廃委員会(CEDAW〈セダウ〉)が、女子を皇位から排した皇室典範の改正を求めたことに対して、メディア報道は精彩を欠く。保守派の評論ばかりが目立ち、国際機関による勧告をリベラルな立場から取り上げる報道が少ないのだ。日本の言論はいつからこのように貧困になったのだろうか。(一部敬称略) 11月5日付の『読売新聞』社説「皇室典範に勧告 歴史や伝統を無視した発信だ」が象徴的だった。この社説は、「皇位継承のあり方は、国家の基本にかかわる事柄である。見直しを国連の名の下に、付属機関で活動している個人が要求してくるとは、筋違いも甚だしい」で始まる。それこそ筋違いではないか。 CEDAW委員は「徳望が高く」かつ「条約の対象とされる分野において十分な能力を有する23人の専門家」である。国際人権法が専門の亜細亜大教授、秋月弘子も日本政府の推薦で委員となり、副委員長のひとりを務める。 『読売』がCEDAW委員を、国連の名の下に活動する個人と呼ぶのは、活動家集団のようなレッテル張りと言えよう。委員には研究者、弁護士、公務員も少なくない。『読売』社説はまた「今回の勧告は、ネパールの委員がまとめたものだ」と断ずる。委員のひとり、ジャーナリスト出身のバンダナ・ラナを指しているのだろうが、多岐にわたる「最終見解」をひとりでまとめることはないし、そもそも全会一致で決まる。 実は、前回(2016年)勧告の際、皇室典範問題が盛り込まれそうになったとき、『共同通信』は「背後に透けて見えるのは中国の影だ。(略)中国の女性団体『中華全国婦女連合会』の国際部長を務める中国人女性委員(64)が総括役」と書いた(16年3月9日)。鄒暁巧のことを指すのだろう。国際機関の報告書が、特定の国の強い影響下で書かれることはない。委員会を貶(おとし)める印象操作だ。
◇「歴史」「伝統」をもって不平等を正当化できない 『読売』は、「日本の皇室制度は長い歴史の中で培われてきた。男系男子による皇位継承は、今上天皇を含めて126代にわたる」「日本の皇室制度の特徴を何ら理解せず、誤解に基づくもの」とも書く。『産経新聞』(11月1日付)の社説「皇位継承への干渉 政府は国連の暴挙許すな」にも同じような記述がある。「男系男子による継承は皇位の正統性に直結している」「歴史や伝統が異なる他国と比べるのも論外である」とした点だ。 歴史学研究はこれまで主に男性によって担われ、男性中心の視点で描かれた。女性は歴史の周縁に位置付けられてきた。しかし、女性史の分野が進展し、男性中心史観というバイアスを排除する見方が広まった。『日本書紀』『古事記』編纂(へんさん)時の政治的意図を考慮すれば、古代の皇位が決して「男系」の論理だけで繋がれていなかったことは研究者の間では常識である。古代において、天皇の継承は、双系的な親族構造を基にしていた。『読売』『産経』社説は、歴史の構築性を理解せず、浅薄な理解しかできない者の独善的な断定である。 そもそも「歴史」「伝統」をもって、男女不平等を正当化することはできない。前出の秋月の前に、日本政府推薦の委員となった林陽子(弁護士)は、リビアに存在した不貞を疑われた女性が収容される「更生」施設について、同国政府が「社会の価値を擁護するため」の施設と悪びれもなく開き直ったのを見た経験を書いている(日弁連サイト「国際機関就職支援インタビュー林陽子会員」09年3月3日)。皇位継承の男女不平等を、歴史と伝統を理由に正当化する日本の態度を国際社会はどう見るだろうか。 ◇『産経』、条約脱退を主張 戦前の国連離脱を見るよう 『産経』社説は、「(日本政府の)抗議と(皇室典範に関する記述の)削除要請は当然だが、それだけでは不十分だ。削除に至らなければ、国連への資金拠出の停止・凍結に踏み切ってもらいたい。条約脱退も検討すべきである」とまで踏み込んだ。条約は189の国・地域が締約国となり、署名・批准していない主な国連加盟国はイラン、スーダン、ソマリア、そして米国などである。「内政干渉」を嫌うこれらの国々に日本が並ぶ姿は見たくない。
憲法前文に「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」と宣言するこの国にあって国際社会が推進するジェンダー平等の理念と決別するかのような社論を掲げる新聞社が存在するのはどういうことか。 『読売』『産経』を読んで、1932(昭和7)年、満州事変後のリットン調査団報告書が出たときを思い起こした。『東京日日新聞』(10月3日付)は、①報告書は法的束縛力を持たない、②日本の主張が聞かれないなら国際連盟を脱退する――などの政府方針で社会面を埋めた。ジャーナリズムは、国際連盟の横暴や不当干渉を書きたて、結果的に翌年、日本は国際連盟からの脱退を通告する。 今回の勧告は、リットン調査団報告書同様、法的な強制力は持たない。ただ、過去において、CEDAW最終見解が、王位継承ルール変更に繋がったルクセンブルクの例がある。CEDAWは2000年、同国に対し、男子優先だった王位継承ルールの見直しが進んでいないことに懸念を表明した。ルクセンブルク王室は10年、「家憲」を改正し、長男が継承する方式から、男女を問わず長子が継承する方式に変更した。現在の大公、アンリ(69)には、王子ギヨーム(43)がおり、さらに彼には長男、二男がいる。当面「女王」が即位する可能性は少ない。だが男女の平等権に基づいた国際機関の勧告によりルールを変える必要に迫られたのだ。 今回の勧告に対し、保守系以外の論考は少ない。リベラル派が天皇制を語りたがらないことが要因だろうが、保守評論だけがすべてのような印象を与えてしまう。現代日本のジャーナリズムは、世界の潮流を知り、唯我独尊の日本特殊論から脱却する必要がある。 (以下次号) ◇もり・ようへい 成城大文芸学部教授。1964年生まれ。博士。毎日新聞で皇室などを担当。CNN日本語サイト編集長、琉球新報米国駐在を経て、2017年から現職。著書に『天皇家の財布』(新潮新書)、『天皇家の恋愛』(中公新書)など
サンデー毎日12月1日号(11月19日発売)には他にも「佐高信×田原総一朗 再びトランプ時代到来 石破首相は、石橋湛山・田中角栄的な『対米自立』を担えるか!」「大切な人の看取り方 死に向かうサインを知る 『臨死期』の体の症状と家族の心得 大崎百紀」「肉づくし、糖質に配慮、容器ごとレンチン可能、喪中の人向け…2025 おせち商戦 白熱過熱!」などの記事も掲載しています。
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