Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/f27ee3b5f7af5722af36d61ae83c1289bc53a360
「海外出身の同僚から、外国人にとっていかに日本語での手続きが難しいかという話を聞き、仕組みで改善できるはずだと思ったんです」 一人の社員の「気づき」がきっかけとなり、雇用契約や年末調整などをオンラインで行うクラウド人事労務ソフト「SmartHR」に今年、「やさしい日本語」で表示する機能が追加された。 日本で働く外国人が増えている中、SmartHRを使う外国人ユーザーは3万人にも上る。 英語や中国語などの多言語に切り替えて使う既存の機能に、さらに様々な国籍の人にとって使いやすくなるようにと、日本語を勉強中の人にも分かりやすい、やさしい日本語を加えた形だ。
増える外国人ユーザー。どうサポートできる?
誰もが煩わしく難しいと感じてしまう、年末調整や労務関連の各種手続き。 もしそれが母国語でない言語での手続きなら、どれだけ難しいだろうか。 「やさしい日本語」とは、日本語に不慣れな外国人などに対して使われる、シンプルで分かりやすい日本語だ。より簡単な言葉や理解しやすい文法などが用いられる。 日本で暮らし、働く外国人のほとんどは日本語を勉強しているため、基礎的な日本語は理解ができる。そのため、日本各地の自治体や医療機関、外国人向けの採用ページなど様々なシーンで、やさしい日本語の活用が進んでいる。 SmartHRの導入企業を業界別に見ると、宿泊・飲食などのサービス業や卸売・小売業、製造業などが半数以上を占める。それらは、外国人労働者が多く働く業界と一致している。 近年は、特定技能や技能実習生が働く企業による導入も増えているため、外国人へのサポートの需要はさらに増している。 SmartHRでは現在、英語、韓国語、中国語(繁体・簡体)、ベトナム語、ポルトガル語への切り替え機能があるが、近年日本ではミャンマーやネパール出身者も増えており、より多くの言語話者に対応できるよう、やさしい日本語を追加した。
きっかけは外国人の同僚の一言。「仕組みで改善できるはず」
やさしい日本語の切り替え機能導入のきっかけは、同社のアクセシビリティ本部で働く坂巻舞羽さんが、海外出身の同僚から、外国人にとっていかに日本語での手続きが難しいかを聞いていたことだ。やさしい日本語の存在を知った坂巻さんは、「SmartHRにも使えるのでは」とひらめいた。 アクセシビリティ本部では、外国人ユーザーに向けた使いやすさや、障がいがあるユーザーのアクセシビリティの改善などを主に担当している。 多言語チームではメンバーのほとんどが外国出身で、アクセシビリティのチームでは約半数が障がいがあるスタッフだ。 多様な国や地域から集まったメンバーとは、母国語ではない日本語での入社手続きや年末調整の難しさについては、日頃から話していた。 SmartHRでは、年末調整は質問に答えていくだけで完成する独自の仕組みがあるが、それでも質問に使われている言葉が難解で、日本特有の手続きには外国出身者ならではの負担もあった。 「特定の人だけにそのような苦労が増える状態が良くないし、仕組みで改善できることがあるはず。必ず解消していけると考えました」(坂巻さん)
実際に、やさしい日本語をどう活用できるか、多言語対応のメンバーなど社内の様々な部署に相談し、話を進めていった。 本格的なやさしい日本語の切り替え機能導入の前に、まず取り組んだのは、SmartHRの使い方をやさしい日本語で説明する資料や動画作りだ。 外国人スタッフがいるユーザー企業に、すぐにでも使ってもらえるように、やさしい日本語版のマニュアルを作成した。 マニュアルを外国人スタッフが多く在籍する企業に配布すると、反響も増えてきて、実際のプロダクト開発に踏み切った。
プロダクトマーケティングマネージャーを務める島田悠司さんは、「SmartHRは色々なバックグラウンドの人たちが、『業務の入り口』として使うプロダクト」だと話す。 「全ての人たちにとって使いやすいという点は大事にしていきたいとの気持ちがあり、開発メンバーの前向きな協力もあって実装が進んでいきました。世界には何千という数の言語がある中で、現状の多言語への切り替えにやさしい日本語を追加することで、より多くの国の方にSmartHRを使ってもらいやすくなる、ジャンプアップができたのではないかと思います」
用語を「やさしく」する難しさも。外国人ユーザーや同僚にヒアリングし試行錯誤
開発の段階では、アクセシビリティ本部多言語チームの外国出身の同僚のほか、外国人スタッフが働くユーザー企業の協力を得て、ヒアリングやユーザーテストも行った。 近年人数が増えているベトナム人技能実習生にも意見も聞いた。 労務関連の専門的な文章をやさしい日本語にする上では、様々な難しさにも直面した。 通常、やさしい日本語では、難しい単語は理解しやすく言い換える。しかし、日本特有の労務手続きなどの場合、言い換えることによって逆に分かりにくくなってしまうこともあるという。 外国人ユーザーへのヒアリングでは、「年末調整」を言い換えると、逆に分からなかったという当事者の声があり、新たな発見となった。 「年末調整」や「雇用契約書」、「在留カード」などの言葉は、手元にある書類やカード、会社から送られてくるメールにある言葉と照らし合わせることもあるため、ふりがなをつけるなどして、そのまま使用することとした。 「やさしい日本語への書き換えは基本的な方法や推奨事項はあるものの、ルールが柔軟な部分もあり、書き換える人や企業、団体によって少しずつ方法が違います。SmartHRでは、分かりやすさを重視して、ある程度元の言葉を残したり、漢字も使ったりして調整を加えました」(坂巻さん) 同社のやさしい日本語への書き換えの基準としては、日本語能力試験(JLPT)のN4、5レベルで習う語彙や漢字を用いている。 多言語チームの外国人メンバーの声なども参考にしつつ、改善を繰り返した。 年末調整などの一部の機能には今年からインドネシア語を追加し、他の手続き画面などでも年内に反映していく。
言葉の壁をなくすことで「フラットな組織作りに貢献」
島田さんは、システムの仕組みで言語的な障壁をなくしていくことで、「フラットな組織作りに貢献することができる」と話す。 日本語に不慣れな外国人スタッフが言葉の壁を理由に、労務手続きなどについて同僚や人事担当者に頻繁に質問しなければいけない状況が「教える側」と「教えてもらう側」という構図や、心理的な上下関係を生み出してしまう。 言葉の壁をできるだけなくすことで、会社やチームの中でも関係性をフラットに近づけ、ミスを減らし、会社全体としての効率を上げていくこと、そして「働きづらさ」を解消していくことを目指している。 本筋の開発ではどうしても、大半を占めるマジョリティのユーザーの使いやすさの優先順位が高くなってしまい、なかなかマイノリティのユーザーに向けた改善に取り組みにくくなるという。 しかし、SmartHRではそのようなことが起こらないよう、外国人や障がいがある人などにとって使いやすい状態であるかという品質の担保や改善を専門に担当するアクセシビリティ本部を設けている。 やさしい日本語は、外国人だけでなく多くの人にとって「やさしい」表現だ。 取り組みは主に、急増している外国人従業員への対応として行ってきたが、最近では知的障がいがある従業員を多く雇用する企業からも関心が寄せられているという。
坂巻さんは「やさしい日本語の導入に関しても、オンライン上で知見を公開し、他企業にも使っていただけるように情報共有をして、社会全体の仕組み作りに貢献したい」と意気込む。 導入に関しては、プレスリリースのほかにnoteの記事でも、外国人ユーザーに対するヒアリング調査の結果などを公開している。 「これからもユーザーの皆さんの声を聞き、現場で起こっている困り事を知ることに注力し、試行錯誤して改善していければと思います」(坂巻さん) <取材・文=冨田すみれ子>
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