Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9c3e80a8ccaa8c196e915cb7b15fd8c7b04e76f4
オーストラリア政府が住宅不足の深刻化を受け、留学生の受け入れを削減する政策を進めている。留学ビザの申請料金を2倍超に引き上げたほか、来年から受け入れ人数に上限を設ける方針だ。一方、住宅供給の不首尾の責任を留学生になすり付けて門戸を狭める動きに対し、批判の声も出ている。(時事通信社シドニー支局 高橋浩之) 【写真】シドニー郊外で物件を掲示する不動産会社の店頭
家賃88万円の中国留学生も
新型コロナウイルス禍の収束に伴い、留学生は急増した。オーストラリア教育省によると、7月までの1年間にオーストラリアに在住した留学生は94万人で、このうち42万人が新規の受け入れだった。新規の人数は、コロナ禍前の2019年に比べ6万人増えた。出身国別では、中国が22%で最も多く、インドが17%、ネパールが8%、フィリピンとベトナムが各5%で続いた。 学生寮や単身者用アパートには限りがあるため、留学生の多くは友人やきょうだいと共同で家族向け物件を借りている。最大都市シドニーの不動産仲介業者によると、中国富裕層の留学生が一等地の優良物件を押さえ、家賃が月に8700オーストラリア・ドル(約88万円)もする高級マンションに住む人もいるという。需要過多で家賃相場は上昇を続けている。 住宅を見つけにくくなった地元市民から不満が噴出すると、政府は留学生の抑制へ動いた。まず23年12月に留学ビザの審査を厳格化し、英語能力の基準を高めた。24年7月にはビザ代を従来の710オーストラリア・ドル(約7万円)から1600オーストラリア・ドル(約16万円)に値上げした。25年1月からは新規受け入れを制限し、初年は27万人までとする予定だ。
市場に占める割合「わずか4%」
オーストラリアメディアによると、ビザ代値上げ後の7、8両月の申請者は計3万4000人で、前年同期の6万7000人からほぼ半減した。インド人は66%減、フィリピン人は83%減と大きく落ち込んだ。中国人は9%減と、さほど影響を受けていない。経済力の弱い国の学生ほど、値上げが厚い壁となりそうだ。 民間団体「学生宿舎協会」は、不動産市場に占める留学生の割合は「わずか4%」と指摘し、住宅不足を留学生だけのせいにすることに疑問を呈する。26年までの学生向け物件の新築計画は7700人分だが、これを8万4000人分に増やせば、市場全体への影響を減らせると主張する。 住宅不足は、留学生が激減していたコロナ禍の最中から既に始まっていたとの指摘もある。自宅で仕事をする人が多くなり、より広く、部屋数の多い物件を求める人が増えたためだ。また、投資目的で不動産を取得する人が増えて価格上昇に拍車を掛け、生活のために住宅を必要とする人にしわ寄せがきている。根本的な解決には供給総数の増加が不可欠だが、資材高騰や人手不足の影響で需要に追い付いていない。
日本で3番目の人気国だが…
留学生への教育サービス提供はオーストラリアの重要産業の一つで、統計上の輸出収入としては鉄鉱石などの資源に次いで4番目に多い。大学の連合体「ユニバーシティーズ・オーストラリア」は、留学生の受け入れ制限によってオーストラリア経済に40億オーストラリア・ドル(約4000億円)以上の損失が生じると試算。雇用や社会の多様性が失われることへの懸念も示す。 モナシュ大学のベン・エルサム講師は論文で、「留学生が安易に住宅危機のスケープゴートにされている。彼らに責任はない」と訴える。門戸を狭める政策についても「学生、大学、地域経済、オーストラリアの地位を傷つける」と厳しく批判する。 日本学生支援機構によると、オーストラリア在住の日本人留学生は22年度に6200人。留学先としては米国、カナダの次に多い。ある日本人女性は「英語圏で治安が比較的良いから選んだ」と話す。だが、留学生を「厄介者」扱いする政策が続けば、オーストラリアを敬遠する人は増えるかもしれない。
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