Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/0a1bda42164d9b2970bbba42f350447f96140ed0
(国際ジャーナリスト・木村正人) ■ 先進国が途上国への資金を3倍の3000億ドルに 【写真】石油業界による大キャンペーンを批判するアル・ゴア氏 [ロンドン発]アゼルバイジャンの首都バクーでの国連気候変動枠組み条約第29回締約国会議(COP29)は会期を2日間延長して24日未明、先進国が途上国への資金を従来の年1000億ドルから2035年までに3倍の3000億ドルにすることで合意して閉幕した。 小島嶼国や後発開発途上国は5000億ドルへの引き上げを強硬に主張し一時交渉から退席、気候交渉における南北対立の深まりを改めて浮き彫りにした。途上国への公的・民間資金を35年までに年1兆3000億ドルに拡大するため、すべての関係者が協力することも成果文書で謳った。 国際エネルギー機関(IEA)は世界のクリーンエネルギー投資が24年に初めて2兆ドルを超えると予測する。同条約(UNFCCC)のサイモン・スティル事務局長は「クリーンエネルギーブームを成長させ続け、すべての国がその大きな恩恵を分かち合えるようにする」と力を込めた。 COP29は「史上最低のCOP」と揶揄されるほど、交渉は遅々として進まなかった。米国ではドナルド・トランプ次期大統領の復活、欧州では地球温暖化懐疑主義を唱える極右勢力の台頭で先進国の発信力は低下した。「先進国」はもはや「衰退国」に落ちぶれてしまった感が漂う。
■ 「化石燃料からの脱却はファンタジー」という批判キャンペーン 産油国アラブ首長国連邦(UAE)でのCOP28で「化石燃料からの脱却」で合意したものの、産油国の巻き返しは激しい。サイドイベントでノーベル平和賞受賞者(気候変動防止への貢献)のアル・ゴア元米副大統領は化石燃料利権が現在も影響力を持ち続けていると強調した。 ゴア氏は米国上院代表団の議長を務めた1992年のリオでのCOPゼロからCOP29までの道のりを振り返り、COP28で明記された「化石燃料からの脱却」と化石燃料利権の「構造的な利害の対立」を指摘した。サウジアラビアはCOP29の公式交渉文書を修正したと非難された。 「COP28から1カ月後、米最大の石油ロビー団体は『化石燃料からの脱却は不可能』と米国人に信じ込ませる大キャンペーンを始めた。サウジアラムコのトップは『化石燃料からの脱却はファンタジー』と言った。ファンタジーとは何も問題はないと私たちを騙すことだ」(ゴア氏) これに対しゴア氏は再生可能エネルギーの発展や気候変動対策に取り組む世界最大の草の根運動を例に挙げ「持続可能性への移行は止められない」と断言した。英オックスフォード大学と国連開発計画(UNDP)の世論調査では世界中の80%の人々が気候変動対策の強化を望んでいる。
■ ゴア氏「1日に原爆75万発分の熱を閉じ込めている」 ゴア氏は地球を殻のように覆う青くて薄い大気圏を「毎日1億7500万トンの温暖化汚染物質が吐き出される下水道」に例えた。「1日に原爆75万発分の熱を閉じ込めている。スペインのバレンシア、ネパールの洪水など母なる自然は私よりも雄弁に気候変動の危険を物語る」 米ノースカロライナ州を襲ったハリケーンはナイアガラの滝の全流量619日分(40兆ガロン)をたった2日でぶちまけた。しかし先進国より途上国が抱える問題の方がはるかに大きい。「アフリカ大陸全体で設置されているソーラーパネルの数が米フロリダ州よりも少ないのだ」 大陸ごとに持ち回りのCOPはエジプト、UAE、アゼルバイジャンと3年連続で、化石燃料産出国で開かれた。天然ガスは過渡的エネルギーとして免罪符を得つつある。環境団体の分析ではCOP29には少なくとも1773人の化石燃料ロビイストが参加を認められた。 「化石燃料産業は気候交渉に影響力を及ぼすため、あらゆる費用を惜しまない。彼らは排出量よりも政治家を取り込む方がずっと上手い」。ゴア氏は化石燃料産業ロビイストがCOPに参加するための資格として信頼できるネットゼロ(実質排出量ゼロ)への誓約を求めている。
■ 「汚れることなしに化石燃料からグリーンに移行できない」 英紙ガーディアン(11月20日付)は「“資本主義の権化” 化石燃料に溺れた世界で最も権威ある米コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーの内幕」と題し、産油国が石油産業を維持する抜け道を見つけるのをマッキンゼーが助けている実態を暴いている。 同紙と気候報道センター(Centre for Climate Reporting)の調査報道によると、マッキンゼーは世界がよりクリーンなエネルギーに移行する手助けをすると公言する一方、その裏では化石燃料の生産量や販売量を増加させるようクライアントに助言しているという。 マッキンゼーのパートナーは2021年に「企業は少しも汚れることなしに化石燃料からグリーンに移行することはできない。もしそれがマッキンゼーの社名に泥を塗ることを意味するのであっても、私たちはそれに耐えなければならない」という内部文書を残している。 16年にパリ協定が発効して以来、世界の二酸化炭素排出量の80%を、化石燃料を生産する57社が担っている。同紙と気候報道センターが裁判記録を分析したところ、マッキンゼーに関係する企業のリストの中にそのうちのほぼ3分の2が含まれていた。
■ 「成し遂げるまでは常に不可能に思えるものだ」 米国を再びパリ協定から離脱させる見通しのトランプ氏は「地球温暖化という概念は米国の製造業を競争力のないものにするために中国によって中国のために作られたものだ」「非常に高くつく地球温暖化のデタラメは即刻阻止すべきだ」と懐疑主義をばらまいてきた。 気候危機を「社会主義者の嘘」と切り捨てるアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領は「アルゼンチンのトランプ」と呼ばれる。外務省からの指示でアルゼンチンの代表団80人以上はわずか3日でCOP29から引き上げた。米国に倣ってパリ協定から離脱するかどうかは分からない。 議長国アゼルバイジャンのイルハム・アリエフ大統領はCOP29の開幕演説で石油と天然ガスを「神からの贈り物」と述べ、自国を「中傷と脅迫の組織的なキャンペーン」の犠牲者に例え、石油・天然ガス産業を目の敵にする西側メディアと気候活動家に反論した。 実は第1次トランプ政権で米国の太陽光発電容量や電気自動車(EV)販売台数は2倍以上に増加した。石炭生産能力は約20%減少した。クリーンエネルギーへの年間投資額は約44%も伸びた。ソーシャルメディアのアルゴリズムが懐疑主義や誤情報を増幅させているのだ。 ゴア氏は、南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)と闘ったネルソン・マンデラ氏の言葉を引き「成し遂げるまでは、常に不可能に思えるものだ」と語りかけた。「COPとは鏡である。人類が覗き込む鏡であり、それが醜いものであったとしても、鏡のせいではない」 【木村正人(きむら まさと)】 在ロンドン国際ジャーナリスト(元産経新聞ロンドン支局長)。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争 「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
木村 正人
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