Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/03551ee5d4123e6ac1e4aa764f83c0292ab82353
日本代表の健闘で「FIFAワールドカップ」は大きな盛り上がりを見せたが、その歴史は2020東京五輪同様、幹部の汚職、贈収賄、政治闘争に苛まれてきた。 Netflixが先月から世界市場で配信を開始した『FIFAを暴く』は、その原点と未だに消え去らない疑惑を描いた長編ドキュメンタリーで、欧米では大きな注目を浴びているが、日本では何故かあまり評判は聞こえてこない──。 作品の題材となった「2015年FIFA汚職事件」では、米司法省がジャック・ワーナー元副会長ら14人の幹部、関係者を起訴、うち7人がスイス当局に逮捕され、5度目の再選を果たしたばかりのゼップ・ブラッター前会長が辞任に追い込まれた。 “FIFAの崩壊” が危惧された衝撃のスキャンダルであり、スポーツ界最大の汚職事件と表現されている。 ■アベランジェ会長とゼップ・ブラッター事務総長、ISL社の出現が転機 FIFA(国際サッカー連盟)は、何十年もの間、常にその倫理性が疑問視されてきた。 例をあげるなら、1982年にアディダスのホルスト・ダスラー氏と電通によって設立されたスポーツマーケティング会社「ISL」と故ジョアン・アベランジェ元会長との疑惑の関係からになろうか。 ISLは、IOC(国際オリンピック委員会)、FIFA、IAAF(国際陸上競技連盟、現・世界陸連)といった国際スポーツ組織から放映権等を取得し、それを販売することで利益を得ようと設立され、FIFAの権利もほぼ一手に引き受けていたが、利権にまつわる贈賄などの不法行為が行われていた。電通は95年に全保有株を手放している。そしてIOCとの契約解消などによる経営悪化で、2001年に倒産した。 因みに当時の電通側の事業責任者は、東京五輪招致で国際陸連元会長の故ラミン・ディアク氏への贈賄疑惑を問われ、スポンサー契約を巡る汚職事件で受託収賄罪で起訴されている高橋治之容疑者であった。 その他、ワールドカップの開催国決定に関しても、1978年のアルゼンチン大会以降、FIFA幹部への巨額賄賂事件、嫌疑が絶えなかった。 2022年大会と2018年大会については、放映権セールスのメリットを重視し、2010年に同時に決定されることになった。2018年大会はイギリスが、2022年大会はアメリカが有利と見られていた。
カタール大会でも疑惑
■衝撃のカイリ欧州議会副議長逮捕 今カタール大会でも、海外では閉幕を待たずして、汚職スキャンダルの再発が大きく報道されている。 12月9日、欧州連合(EU)欧州議会のエバ・カイリ副議長(ギリシャ)ら4人が賄賂をカタールから受け取り、人権問題等を巡る議会決定に影響を与えた嫌疑でベルギーの捜査当局に逮捕されたのだ。家宅捜索で12日までの間に、約150万ユーロ(約2億2000万円)の現金が押収されたとロイターが報じている。 また、2019年にもカタール大会招致を巡る汚職捜査で、その後釈放されたものの、UEFA(欧州サッカー連盟)元会長のミシェル・プラティニ氏がフランス当局に身柄を拘束されている。 カタールは、2022年大会に焦点を絞り、国是として招致活動を開始した。費用総額は2200億ドル(約30兆円)とされているが、経済効果は170億ドル(約2兆3000億円)と想定している。中東における存在感を世界に誇示することに主目的があり、その目標に協力した者は天然ガス、原油資金が豊富なカタールから、国家レベルの取引も含め、巨大な利権を手にしたと考えられている。 前回の2018年ロシア大会の招致でも、プーチン大統領の側近財界人たちが資金を提供し、FIFA理事による投票のまとめ役となる地域連盟の幹部たちに多額の利権がオファーされたことが疑われている。 ■一国一票の制度で鍵を握る、アフリカと北中米カリブ海勢 贈収賄は、正規の金融取引を回避し、現金やマネーロンダリングなど巧妙な手口が使われるため立件が難しい。しかし、2015年には米司法省によって、FIFA元副会長でCONCACAF(北中米カリブ海サッカー連盟)元会長のジャック・ワーナー氏(トリニダード・トバゴ)ら多数の幹部、関係者が様々な罪状で起訴された。 元FIFA理事でCONCACAF元事務局長の故チャック・ブレイザー氏(アメリカ)の情報提供によるところが大きかった。 ブレイザー氏自身も、2010年の南アフリカ大会招致に際して、票の取り纏めで共謀したワーナー元副会長から100万ドルを受け取ったことを認めている。ワーナー氏が便宜捏造したアフリカから離散されたカリブ海周辺の「ディアスポラ支援」の資金として、南アフリカからFIFAを通してワーナー氏に支払われた1千万ドルの一部だった。 一見内部告発のようにも見えたが、実際には自身の脱税等に長期刑を示唆したFBI、IRS(米国歳入庁)との司法取引による行動だった。ブレイザー氏が幹部らの会話を録音したことで犯罪が証明され、FIFAの犯罪組織性が指摘された。 ブラッター前会長は、米当局から起訴されることなく、FIFA会長に5選して続投を表明していたが、4日後に辞任。その後、2011年にプラティニ氏に200万スイスフラン(約2億4000万円)を不正に支払ったとの問題で、8年(後に6年に短縮)の活動停止処分となった。
尽きない「スポーツウォッシング」
1936年ベルリン五輪はヒトラーが、1978年FIFAワールドカップはアルゼンチンの独裁政権が、そしてプーチン大統領が2018年ロシア大会を、「プロパガンダ」「スポーツウォッシング」に利用してきた。世界から注目を浴びるスポーツ大会の影響力は絶大で、招致のためにはありとあらゆる贈収賄が繰り返されてきた。 カタールでは、会場建設やインフラ整備の工事で外国人労働者が過酷な作業を強いられ、インド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、スリランカからの移民労働者6500人以上がワールドカップ開催決定後に死亡したとガーディアン紙が昨年報じている。カタール政府は、スタジアム建設に関連した死者数は37人、うち作業関連死は3人と発表している。また、女性やLGBTQ+の人権についても問題視されている。 欧州議会は11月、こうした人権侵害を非難する決議を採択し、FIFAの汚職疑惑についても指摘していたが、今回議会内の問題が浮上した。 3億円超の年俸を稼ぐジャンニ・インファンティーノFIFA現会長は、この人権問題に関する批判に非難で返し、笑顔でカタール首長との親密な関係を報道陣に誇示している。 『FIFAを暴く』は、いずれ続編も制作されることになるのだろうか。 連載:スポーツ・エンタメビジネス「ドクターK」の視点
北谷賢司
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