Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/625e98dcdfa1e47674b5592ee1cd3646f814649f
航空業界に戻る活気 面接に並ぶ志願者の列
中東のクウェート航空が11月26日、東京・銀座で日本で初の客室乗務員(CA)採用試験を行った。書類選考を通過した約130人(当日飛び入り含めると約150人)が面接や筆記などの最終試験に臨み、14人が合格した。一方で、受験資格を持たない外国籍の受験者が20人ほど当日参加するなど、混乱もあった。長引くコロナ禍の影響を受け、CAは人員が減らされたり、採用が見送られてきた。待ち望んだ試験の現場はどうなっているのか。悲喜こもごもの舞台裏を取材した。(取材・文=水沼一夫) 【写真】CAに内定者らの私服のアザーカットと採用担当の小澤朝子さん…150人が挑んだ狭き門を突破した 中東カタールでサッカーW杯が盛り上がりを見せる中、日本で行われたクウェート航空の採用試験も熱気に包まれた。 受験したのは学生が3割、元CAが2割、5割が社会人。空港のグラウンドスタッフやホテルスタッフ、教師、看護師、ITエンジニアなど、当初CAを目指していたものの、採用の機会に恵まれなかった女性が“3年遅れの夢の実現”を目指して試験に挑戦した。 特に目立ったのが元CAの姿だった。 「CAで他社にいたけど、コロナでレイオフ(一時解雇)されたからこのチャンスに受けに来ましたという人が結構いましたね。アジア系やフィンエアー、エミレーツの人もいた。外資系はコロナで1回ほとんどの会社がレイオフしているんですよ。日系は出向でレストランとかに行かせたりしている。外資の場合はそういう措置がないんですね。スパッと切られちゃうので、どうしようもなくなって受けに来たっていう人たちが結構いました。そういう人たちは切実に、もう1回フライトに戻りたいという感じでした」 今回、採用を担当した小澤朝子さんは、合格者の喜ぶ顔が忘れられない。 「みんな耐えて耐えて来た。特に新卒の子たちは3年間、新卒の試験がなかったので、その間ずっと耐えしのんできている。子どもの頃からCAになりたいと思って、英語を勉強したり、留学したり、英語の強い大学に入って、新卒で受けようとしたらコロナで……。そういうつらい経験をしている子たちなので、泣いて喜んでいましたね。本当幸せそうでした」 日本で初のCA採用試験を行ったクウェート航空。ところが、当日は、思わぬ混乱で幕を開けた。 「予想以上に人が来てしまって、大変な騒ぎになってしまいました。韓国やマレーシア、ネパール、フィリピンからインビテーション(許可証)なしで勝手に来ちゃった人がいたんです」 クウェート航空は前日、韓国でCA採用試験を行っていた。「CAになるのが芸能界デビューくらいの勢い。ものすごくし烈な争い」という韓国のCA。諦めきれない希望者が約10人、オンライン上に公開されていた日本の試験情報を見て、当日参加を求めて集まっていた。 午前9時からの面接試験は前倒しされ、彼女たちの参加も認められた(全員が不採用)。試験はその場で、不合格者が読み上げられる。「外資系の試験は独特なので1日で決まってしまう。当日に結果を決めちゃいます」。面接→グルーミングチェック→筆記試験&最終面接と進むごとに、次々にふるいにかけられた。
「中東のCAは非常に人気があるんですよ」理由は?
面接は自己紹介や志望動機、クウェートの国に対する知識などを聞き、1人5分程度で終了する。どのような基準があるのだろうか。 大韓航空とKLMオランダ航空のCAを務めた後、CA養成スクールを開き、約6000人のCAを輩出した受験指導のプロとしての顔も持つ小澤さんは「長くしゃべる人は落としています。端的に名前と今、何をしているか。あとその人の特長、強みですね。インパクトのある方を残しています」と説明する。グルーミングチェックは身体的な適性を見る検査で、身長のサバ読みはその場で計り直しされる。タトゥーはご法度だ。ほかにもアラビア文化ならではの基準がある。 試験はすべて英語で合格のハードルは高い。それでも、書類選考はエントリーで500人ほどの申し込みがあった。日本の受験者がこれほどまで多かったのは、コロナ禍後の数少ない受験の場に加え、中東の航空会社ならではの特長があると明かす。 「中東のCAは非常に人気があるんですよ。なぜかというとミックスカルチャーで、例えばエミレーツだったら130か国以上のCAが一緒に働いているんですね。クウェートは20~30か国なんですけど、いろんな国籍の人が一緒に働ける。だから、特に英語を学んできた人はインターナショナルなバックグラウンドで働きたいと思うようです」 小澤さんによると、CA志望者はJALやANAなどの国内系と、外資系に分かれる。「外資系を受ける人たちは留学経験があるとか、帰国子女だったとかで、子どもの頃から割と海外の文化に触れてきている人たちは英語をさびつかせたくない気持ちがあるんですよね」との心理が働くという。 また、中東は待遇面も魅力的なようだ。 「中東は石油王国なのでお給料もいいのと、社員寮の寮費や水道・光熱費も会社が負担してくれます。交通もバスが迎えにくる。生活費は食事ぐらいしかお金がかからないんですよ。福利厚生とか、サラリーパッケージが恵まれています」 合格した14人は、日本採用一期生という栄えある歴史に名を刻み、思い思いの期待を膨らませている。
内定者「とにかくうれしい」 苦労や“回り道”プラスに
今回、合格した2人の内定者に話を聞いた。 増永優紀さんは元タイ国際航空のCAだったが、コロナ禍で行き場を失った。 「8年間働いていたんですけど、コロナで辞めざるを得なくなってしまって、秘書ですとか、今の仕事ですとか体験したんですけど、やっぱり客室乗務員に戻りたいなという思いが強くなって、以前バーレーンに住んでいたことがあるので、また中東で働こうかなと思いました」 バンコクで2~3か月、飛行機に乗れない期間を過ごした。「その後は(フライトが)月に1回とかで、帰ってくると2週間おうちに隔離とか。日本に飛んでも空港で2~3時間いてトンボ帰り。日本に入れないので」。専門学校で講師を務めながら受験し、再び空に出ることになった。「選んでいただいてとってもうれしかったのと、第一期生ということで採用してよかったなって思っていただけるように、日本人としての誇りを持ってやらないといけないなという責任感を感じました」と抱負を語った。 また、東崎渚さんは大学卒業時にCA採用試験がなかったため、カナダの大学に留学。卒業後のタイミングで採用試験を知った。 「コロナ元年でCAの受験がすべてなくなってしまって、留学という選択肢を選んで帰国したときに、一番初めに募集が出ていたのがクウェート航空だったというのがきっかけです。私が大学4年生のときに一つも採用がなかったので、本当にこうやって航空業界が戻ってきて、とにかくうれしいです」。留学しても半年間は授業もオンラインだった。「正直留学していても最初は友達ができなかった。留学の意味、留学の楽しさは感じれなかったですね」。 CAの面接は初めて。「正直受かるとは思っていなかったです。何十社も受ける意気込みだったんですけど、このご縁をいただけてうれしいですし、第一期生として私も頑張っていきたい」。回り道はむだではなかった。磨いた英語で一発内定を勝ち取った。 今後、内定者はクウェートで行われるCAになるための訓練に参加する。 小澤さんは「コロナで観光業界が大打撃を受けて、特にエアラインは一番影響を受けた。CAの人たちも本当に落ち込んでいて、もう飛べないって思っていたんですね。その間、私も『飛べないCAを助けよう運動』をやって、クラウドファンディングでお金を募って、その人たちに例えばリモートで英語の先生をやってもらったりとか、なんとかサポートしていました。でも、やっぱり本人たちは飛びたいんですね。こうしてようやく観光業が戻ってきて、エアラインが動き始めたので、やっと戻ってきたね、やっと飛べるねってみんな幸せに満ちた顔になっていますね。活気が出てきたという感じです」と安堵(あんど)しつつ、顔をほころばせた。
水沼一夫
0 件のコメント:
コメントを投稿