Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/96a6712dbc62803513b6a816f011f65172c41ccb
サッカーW杯1次リーグで日本が強敵ドイツを下し、「ドーハの歓喜」と騒いだ日、ウクライナ政府は「ロシアのミサイル攻撃で少なくとも10人が死亡」と発表した。30度の暑さの中で繰り広げられるサッカーゲームの熱狂を、日本の新聞各紙は大々的に扱うが、電力設備を攻撃されて全土停電で氷点下に凍えるウクライナ国民のニュースは国際面の地味な扱いである。「ドーハの歓喜」の翌日、ロシアのウクライナ侵攻はちょうど9カ月を迎えた。 カタールW杯の特徴は、国際情勢や人権問題などが大手を振って影を落としていることだ。まず、ロシアが地区予選から追放された。2月のウクライナ侵攻を受けてFIFA(国際サッカー連盟)が速攻で決断した。当然である。カタールが開催地足り得るのか、という根本的な問題も消えない。同性愛への人権問題もそうだが、そもそも試合がある8つの会場のうち7会場が新設されたというから驚く。W杯のための「ハリボテ都市」である。 その急造のための人手を担ったのが、海外からの労働者で、インドやパキスタン、ネパールなどアジア諸国が多い。英紙ガーディアンは過去10年間で約6500人もの死者が出たと書いた。建設関連の死者の数は分かっていない。だが、欧州議会は遺族への補償をめぐりFIFAに支払いを要求しているし、同時にW杯の招致プロセスそのものが「賄賂と汚職があったとの信頼に足る疑惑」を欧州議会は指摘する。砂上の楼閣ならぬ、砂上のW杯なのだ。 オリンピックもカネまみれが日常化していることは、東京五輪でも実証されている。日本の司法当局の捜査は今も続いている。当初掲げた「コンパクト五輪」の理念など雲散霧消し、膨大な公的予算がつぎ込まれた上に、スポンサーの裾野が広がったお陰で潤沢な企業マネーが金権五輪を支えた。もはやオリンピックは金持ち国しか開催できない。冬季五輪に再度札幌を、と意気込む日本政府は、こうした事実にも目を覆ったままだ。 カタールW杯が無理筋であったことは、開催時期が物語る。今から92年前の第1回ウルグアイ大会以来、一貫して5~7月に開催されてきたのだが、今回のカタールW杯だけが11月から12月である。夏場は最高気温が50度にもなるため、時期をずらしたのだ。ついでに言えば、2021年に開かれた東京五輪も、IOCの大スポンサーである米・NBCテレビの意向を受けて、猛暑盛りの7~8月の大会となった。開催ありき、選手は二の次である。 ロシアからの侵攻を受けるウクライナは「隠れたサッカー大国」と言われる。イタリアのACミランやイングランドのチェルシーで活躍したスーパースター・シェフチェンコはウクライナが生んだ。戦時中とはいえ日本人と同様、テレビ観戦もしたかろう。しかし今のウクライナは極寒の季節。さらにロシアからの攻撃で電気がなければ、観戦さえ覚束ない。 FIFAもせめて「W杯休戦」くらい呼びかけてはどうか。われわれも勝ち負けの一喜一憂を終えたら、同時進行する「キーウの悲劇」にも思い至ろうではないか。 サガテレビ解説主幹 宮原拓也
サガテレビ
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