Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/14cdebce97f8803b5655482a06258d7665e3bb6e
2人合わせて「ワールドカップ25大会」を取材した、ベテランジャーナリストの大住良之と後藤健生。2022年カタール大会でも現地取材を敢行している。古きを温め新しきを知る「サッカー賢者」の2人がカタール・ワールドカップをあらゆる角度から語る! ■【画像】「サッカーは世界をつなぐ」 アメリカメディアが投稿したカタールワールドカップ・イラン戦後の"4枚の写真"に世界が反応「この写真がすべてを物語る」
■中東の変わらぬ暑さ
取材で中東の国にきたのは何回目だろうか。猛暑の6月の時期もあった。 いつだったか、オマーンのマスカットでの取材で日本代表の試合前日会見に行ったとき、カメラマンの今井恭司さん、後藤さんと3人で自分たちのホテルまで歩いて帰ろうかと、歩き始めたことがある。3.7キロ。ゆっくり歩いても1時間で着くだろうと考えていたのだが、甘かった。気温40度。太陽は中天にあり、日陰などほとんどなかった。結局30分ほど歩いて大きなレストランを見つけ、そこでタクシーを呼んでもらった。 カタールを含め、アラビア半島諸国の夏は本当に厳しい。40度どころか50度になることもある。そのなかでワールドカップ・スタジアムの建設を進め、メトロなどインフラ整備の工事に従事した出稼ぎ労働者たちは本当に大変だっただろう。ましてこの10年ほどのドーハの変わりようを見ると、超高層ビルの林立やルサイルの港湾部に生まれた住宅地の人工島など、巨大な建設プロジェクトが同時進行していたのだから、短期間にどれだけの労働力が投入されたのか、想像もつかない。 ただ、私がかつて聞いたところでは、湾岸諸国では、気温が40度を超えるときには日中の屋外での労働は禁止になるということだった。多くの地域では日が暮れると急激に湿度が上がり、猛烈な蒸し暑さになるから、過酷な労働条件であることに変わりはないが…。 英国の『ガーディアン』紙は、「インド、パキスタン、ネパール、バングラデシュ、スリランカの移民労働者が、2010年から2020年の間に6500人も死亡した」と伝えている。カタール政府は、「この数字には病気や交通事故死も含まれており、ワールドカップ開催に向けた整備事業での死者は3人に過ぎない」と主張している。
■日本でも根強い差別
また、大会前に話題になったのが、LGBT(性的少数者)への差別、女性の権利侵害などでカタールには大きな差別・人権侵害が存在すると発表、これも欧米のメディアからの批判要素となっている。 日本では最近、東京地裁が「同性婚を認めないのは憲法違反」との見解を示し、大きな話題となった。しかしそれを裏返せば、日本という国でLGBTに対する差別や偏見がまだまだ大きいことを物語っている。 2011年にこのカタールで開催されたアジアカップでは、大会ボランティアスタッフの多くがカタール国民だった。真っ黒なアバヤ姿の女性(その上に大会カラーの上着をはおっていたが)もいろいろな部署で働いていた。「女性の社会進出が進み、カタールという社会が変わり始めている」という記事を書こうとして、メインメディアセンター(今大会、ハリファ国際スタジアムのスタジアム・プレスセンターとして使われている体育館だ)で働くアバヤ姿の女性の写真を撮らせてほしいと地元組織委員会の広報に依頼すると、許可が出たのは数日後。ようやく「撮らせてもいい」というボランティアが見つかったという話だった。
■世界の人々が交流する意義
そのころと比較すると、今回のワールドカップでは、アバヤ姿のカタール人女性も平気でメトロに乗り、誰はばかることなく街を闊歩している。本当に、カタールの社会は変わりつつあると実感した。そのスピードに我慢できない人びともいるかもしれないが…。 というわけで、私は、今回のワールドカップを巡る欧米メディアの発する批判意見を丸のみにすることはできない。 もちろん、何もなかったと言うわけではないだろう。しかしこの間に外国人労働者が何人働き、その死亡率がどれだけ常軌を逸したものであるかのデータも示さず、読者の「負のイメージ」だけに訴えようという報道を、どれだけ信じていいのだろうか。 開催決定にも、大きなスキャンダルがあったかもしれない。だが東京2020のオリンピックはどうだったのか。 さまざまないきさつがあっても、私は、今回のワールドカップがカタールの地で開催されたことのポジティブな意味を考えている。 ドーハの中心地にある人気スポット、スークワキーフは、連日、各国のサポーターでごった返している。一時的には歩行も困難なほどだ。ワールドカップとは、こうして、世界の大衆が何十万人という規模で集まり、交流する場でもある。 そうした人びとが、ドーハでの1か月間で「イスラムの日常生活」を体験し、アメリカのプロパガンダに毒された「イスラムは悪」などというイメージを払拭し、イスラム文化というものをリスペクトするという思いが生まれるなら、このワールドカップは21世紀の世界を、相互理解に基づくより良いものへの変えていく大きな力になるのではないか。私は本気でそう信じている。
大住良之
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