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いよいよW杯イヤーがやってきた。1930年のウルグアイ大会から数えて22回目となるカタールW杯だが、この大会は多くの点において「初」が多い。 【写真】柱谷哲二が語るドーハの悲劇。 イラク戦で投入してほしかった選手の名は たとえば中東で初のW杯。これまではヨーロッパで11回、アメリカ大陸で8回、アジアで1回、アフリカで1回。アジアでは2回目となるが、アラブ圏は今回が初めてだ。 初めて秋~冬に行なわれるW杯でもある。これまでのW杯はすべて6、7月に行なわれてきたが、カタールの夏は最高気温が50度近くになる。とうていスポーツができる環境ではなく、比較的暑さの和らぐ11、12月に行なわれることとなった。そのためにヨーロッパを含む世界中のリーグ戦はカレンダーの変更を余儀なくされる。 キックオフ時間はグループステージでは13時、16時、19時、22時の4パターン(最終節は18時と22時)、決勝トーナメントは18時と22時。ナイターが多いのは暑さ対策で、すべてのスタジアムにはエアコンも完備されている。ちなみに試合会場となる8つのスタジアムはドーハからほぼ1時間以内の場所にあるため、一日に3試合を観るなどの荒業もできるかもしれない。 そしてもちろん、今回は初めてのコロナ禍でのW杯でもある。 初めてのことが多いために、実際にどんなことが我々を待ち受けているのかを予測するのが難しい。通常ならば1年前にテストイベントとしてコンフェデレーションズカップが開催されるが、今回、行なわれたのはアラブカップ。規模があまりにも違い、予行演習にはならなかった。 私はこれまでカタールを4回訪れているが、この国は訪れるたびに毎回大きな変化を遂げている。大会1年を前にして、私はまたカタールへと飛んだが、以前砂漠だった場所にW杯のために作られた町が出現し、どこか蜃気楼を見ているような気がした。町に人の影がほぼ見られなかったことも、どこか非現実的な印象に拍車をかけていた。 カタールは小さな国ながら、ひとり当たりのGDPが常に世界トップ10に入るリッチな国だ。人口は約290万人。だがカタール国籍の人はそのうちのたった1割で、残りの9割の外国人が、ほぼすべての労働を担っている。
【際立つ物価の高さとホテル不足】 先日は、地元の伝統文化と融合したモダンで美しい7つのスタジアム(ハリーファ国際スタジアムだけ新設ではない)のお披露目があり、そのハイテクぶりと、大会1年前に完成させた手際のよさが称賛された。だが、それらも多くの出稼ぎ労働者の働きの上に成り立っている。 今から2年前、まだ建設中のスタジアムを見に行った時は、比喩でなく、焼けつくような厳しい気候のなかで、外国人労働者が働いていた。多くはインドやネパールからの出稼ぎで、パスポートを取り上げられ、多くは片道の切符だけで呼び寄せられていた。建設中に多くの労働者が亡くなったことや過酷な労働環境は、これまでも国際的な人権団体から糾弾されてきた。 だから今回、できあがった美しいスタジアムを見ても、私はどうしても素直に感動することはできなかった。 そして今回、カタールに滞在してみて、さまざまな問題に出会った。それは今年、サポーターが直面する可能性のある問題でもある。カタール行きを考えている人たちのために、私がどんな経験をしたかをお話ししておこう。 カタールW杯において、まず障害になるのは物価の高さだろう。金持ちの国カタールではすべての値段が高い(安いのは石油くらいか)。少なくとも最近の3回のW杯(南アフリカ、ブラジル、ロシア)のうちでは、最も出費が必要な国となるだろう。普通のスーパーで、コーラの缶は3ドル(約330円)、ミネラルウォーターのボトルなら5ドル(約550円)はする。カタールは食糧自給率がとても低く、ほとんどが輸入品のため、食品はみんな高いのだ。 カタールは今、ホテルの建設ラッシュで、水の上に浮かぶフローティングホテルなど、たくさんのモダンなホテルが作られている。だが、W杯には約100万人のサポーターがやってくると予想されている。これまでのカタールの年間観光客数は300万人以下。ホテル不足は深刻になるはずだ。大きなホテルはFIFAやスポンサー、一部の金持ちサポーターにおさえられてしまうだろうし、なけなしの金をはたいてやってくる南米からのサポーターはどうしたらいいのだろう?
【アプリでの通話はできない】 移動も問題だ。公共交通機関のあるところはまだいいが、タクシーはとても数が少ない。ふだん、裕福なカタール人は自家用車(それも多くは運転手付き)で移動するし、労働者はタクシーなどには乗らないからだ。レンタカーはそれに輪をかけて少ない。もちろん代金も高い。 もうひとつ困ったのが言葉の問題だ。カタールではほぼ英語が通じると言われているが、それは嘘だ。高級ホテルやレストランではストレスなく英語が通じるが、少し中心を外れるとアラビア語しか通じない。タクシーの運転手もレストランのウェイターも、英語をしゃべれる人はほとんどいない。 イスラムの国カタールでは、アルコールは決められた場所でしか飲めない。W杯の時には特例を施すと言っているが、酒には高額の税をかけている。また、外国人であれば女性は頭を隠さなくてもいいとされているが、服装の自由度にも限度があるだろう。 カタール国内では一部のサイトに閲覧の規制がかかっている。また「Skype」 などのメッセンジャーアプリは音声通話ができない。テキストやボイスメッセージは送れるが、通話はダメなのだ。だから海外とのやりとりは、国有電話会社に高い料金を払って国際電話をかけなければならない。これはサポーターやメディアにとって大きな問題となるだろう。 コロナ感染対策としては、カタールは「EHTERAZ(イハテラー・予防措置の意)」というシステムを導入している。カタールを訪れる非居住者は、入国3日前までに必要な書類をカタール保健省に送付し、入国許可をもらわなければいけない。ワクチン接種証明、PCR検査陰性の証明のほかに、滞在先のホテルの予約証明、往復の飛行機の予約券などが必要となる。そのうえで、カタール国内で通じる携帯電話に「イハテラー」のアプリをダウンロードしなければならない。 今回、この「イハテラー」のことを知らず、カタール航空に搭乗を拒否されていたサッカー関係者も見られた。カタールの空港では、イギリス人の男性が、持っていたUSBケーブルを危険物とみなされ、警察に拘束されそうになるのも見た。ダメなものはダメ。この国に「融通をきかせる」という言葉はないようだ。 いずれにしても、多くの点でこれまでとは違うW杯になる。もし観戦に行くならば、それだけは覚悟したほうがいいだろう。
リカルド・セティオン●文 text by Ricardo Setyon
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