Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/15ee15103155b49b1c5d040558b8c8f3001c322d
65歳以上の高齢者数がピークとなる2040年度に、介護職員が約69万人不足する──。深刻さを増す人手不足に岸田政権は賃金改善に動くが、効果は限定的とみる関係者が多い。期待はむしろ「外国人介護職員」だ。AERA 2022年1月3日-1月10日合併号から。 【データ】介護福祉士養成施設への入学者数と外国人留学生の状況は5年間でどう変わった?
* * * 専門学校アリス学園(石川県金沢市)の日本語学科に在籍する34人の留学生が、Zoomの画面越しに全国から参加した22の介護事業者とのマッチングイベントに臨んでいた。 「夜勤は月に何回ありますか?」 「そちらは雪が降りますか?」 「方言はどのように学びますか?」 介護事業者の人事担当者に日本語で質問が飛ぶ。学生の出身地は、インドネシアが7人、ベトナムが5人、ミャンマーが11人、ネパールが8人、中国が2人、バングラデシュが1人とさまざまだ。冬休み前の12月、2日間をかけ、彼らは参加した介護事業者の中から就職先を決めた後、同校の介護福祉学科に進学する。その学費約200万円は、内定を出した介護事業者が奨学金として支払う。5年間働くことなどを条件に返済不要としている。参加した介護事業者の人事担当者は、 「日本の高校生や専門学校生からの応募はない。人材紹介会社に約80万円(年収の25~30%相当)の紹介料を払って採用しても、1年も続かずに辞めるなど、日本人の定着率は低い」 アリス学園は21年の介護福祉士の国家試験で、留学生受験者では養成施設別で最多の24人の合格者を出した。留学生受験者全体の合格率は36.7%で、同校は82.8%と突出している。 同校の竹澤敦子理事長は言う。 「教科書が読めるレベルまでの日本語力をつけた上で、介護福祉学科では1年目から国家試験対策に取り組みます。奨学金があるため、生活のためのアルバイトをすることもなく、勉強に集中ができます。アルバイトをするにしても、県内の介護施設で働きながら、介護現場の日本語を実践で覚えます」 介護職員不足が深刻さを増している。厚生労働省は21年7月、介護職員の必要数が現状と比べ、団塊の世代が後期高齢者(75歳)になる2025年度に約32万人、65歳以上の高齢者数がピークとなる40年度に約69万人が不足すると発表。現時点でも、介護関係職種の有効求人倍率は全体の1.1倍を大きく上回る3.86倍だ(20年度)。 政府は09年から介護職員の賃金改善を段階的に行い、現在では1人当たり最大月額3万7千円相当の「介護職員処遇改善加算」が出されているが、介護職員の月額賃金(調査年の前年に支払われた12分の1の賞与を含む)は28.8万円と、全産業平均(役職者除く)37.3万円に比べ、8.5万円低い(19年度)。岸田文雄首相は22年2月から介護職員の給与を月額9千円ほど引き上げる方針を出しているが、決して十分とは言えず、介護現場の期待も薄い。 日本人介護職員の求職者の増加が見込めない一方、即戦力となる外国人介護職員が輩出する冒頭のアリス学園のような専門学校に対する期待は大きい。
■外国人介護職員の在留資格が乱立 専門学校や短期大学などの介護福祉士養成施設の定員充足率はここ数年、大きく定員割れしていたが、留学生の急激な増加により、20年度に5割を超えた。何故なのか。 政府は17年に介護福祉士の資格取得者を対象とした在留資格「介護」を新設。在留期限がないことから外国人の注目を集め、介護事業者も国の奨学金の利用を促したり、独自の奨学金を創設したりして、介護福祉士養成施設への入学者を増やしているのだ。 政府は、介護福祉士養成施設等の在学期間中に月額5万円以内の学費を貸し付け、貸し付けを受けた都道府県で5年間、継続して福祉・介護の仕事に就いた学生の奨学金返還を免除する制度を設けている。入学時、卒業時には20万円以内の準備金も貸し付ける。 同制度は日本人を対象に創設されたが、留学生の利用者は介護の在留資格が創設された17年の47人から、20年には1710人にまで増加。留学生の増加により、受け入れ施設が留学生に給付する奨学金等を都道府県が補助する制度も18年度からスタートしている。 ただ、留学生がいくら増えても、圧倒的な人手不足の前には焼け石に水だ。政府は17年に「技能実習制度」の対象職種に介護を追加した。在留期間は最大5年。技能実習の対象職種の大半は非対人型の作業だが、介護は人を相手にする仕事だ。そのため、入国時に基本的な日本語を理解できる日本語レベル「N4」の取得を求めるなど、他業種にはない要件はあるが、受け入れのハードルが圧倒的に下がった。 ■特定技能14業種のうち介護は6万人で最多 19年には、実態は人手不足の現場の人材確保にもかかわらず、途上国への知識と技能移転による「国際貢献」を目的とする技能実習制度への批判もあり、国は初めて正面から海外の出稼ぎ労働者の受け入れを認める在留資格「特定技能」を新設。5年で約34万5千人の受け入れを目指し、対象となる14業種のうち、介護は6万人と最多だ。 最長5年の特定技能の在留資格を得るには、日本語の試験(N4相当)と介護分野に特化した日本語試験に加え、介護技能評価試験があるが、母国語で受けられる上、難易度も介護福祉士試験に比べれば「小学生のテストと大学受験くらい違う」(介護関係者)。技能実習生として3年間働けば、無試験で特定技能に移行することもできる。 受け入れのハードルが下がる背景には、即戦力ではなくとも、とにかく人手が必要な介護現場の実情がある。
介護の技能実習生を受け入れる国内最大手の監理団体「医療介護ネットワーク協同組合」(東京都港区)の増村章仁理事長がこう説明する。 「介護事業者の収入は、利用者に提供した介護サービスの対価として市町村から支払われる介護報酬になりますが、介護報酬を得るには、3人の入居者に対し常勤で1人といった人員配置基準があります。人員基準を派遣社員で補う事業者が多かったですが、コストの高さや定着率の悪さから、外国人労働者に切り替える事業者が増えています」 受け入れ施設の種類別の統計はないが、特別養護老人ホームの受け入れが大半で、ほかには老健や障害者施設での受け入れが見られるという。 また、特定技能外国人は国際貢献を目的とした技能実習生と違い、受け入れ側のメリットが大きい。日本人同様に1年目から人員基準の職員としてカウントされ、夜勤にも就かせられるが、増村理事長は「まずは実習生として入国させ、3年後に特定技能に移行する流れが定着するのではないか」と指摘する。技能実習制度では転職が認められないことなどを理由に国内外から「奴隷労働」などと批判を受けたことから、特定技能では転職が認められ、地方は厳しい現実に置かれる。 鹿児島県のある監理団体では、約100人の介護の技能実習生を監理している。同団体幹部が本音を話す。 「実習生の9割近くは、3年間の技能実習が終わり次第、特定技能に移行して、都会の施設に転職したいと話しています。都会への憧れもあるでしょうが、最低賃金がベースとなる彼らにとって、賃金の高い都市部は魅力です。技能実習制度で受け入れのハードルは下がりましたが、特定技能により地方の人手確保は難しくなります」 また、人材の送り出し国にも「変化が出てくるだろう」とこの幹部は話す。21年6月末時点で、国内に在留する技能実習生は約35万4千人。そのうち、ベトナム人が過半の約20万2千人を占めるが、介護業界では他国の実習生を求める動きが強い。前出の幹部は、 「元実習生などから日本の情報が蓄積され、求める賃金水準も高くなり、特に最低賃金の低い地方ではベトナム人を募集しても人が集まりづらい」 (ジャーナリスト・澤田晃宏) ※AERA 2022年1月3日-1月10日合併号より抜粋
0 件のコメント:
コメントを投稿