Source:https://news.yahoo.co.jp/byline/mizukamikenji/20211226-00274407
大阪を中心に活動しながら、自由きままにといったら語弊があるかもしれないが、世界各国を舞台に映画を作り続けている中華系マレーシア人のリム・カーワイ監督。
「新世界の夜明け」「恋するミナミ」に続き三度大阪を舞台に描いた新作「COME & GO カム・アンド・ゴー」は、通称「キタ」と呼ばれる大阪の繁華街にたどりついた人々それぞれの人生模様を映し出す。
キャストは、ツァイ・ミンリャン作品になくてはならない名優である台湾のリー・カンション、日本でも公開された「ソン・ランの響き」のベトナム人俳優、リエン・ビン・ファット、韓国のイ・グァンス、香港のデイヴィッド・シウ、ミャンマーのナン・トレイシーら実に多彩な才能あるアジアの俳優たちが顔を揃えた。
その中で、千原せいじ、兎丸愛美らとともに日本から本作に参加した渡辺真起子に話を訊くインタビューの第二回へ。(全四回)
いわゆる脚本のようなものはなくほぼ即興という噂の真相は ?
前回はリム監督との出会いから出演への経緯を訊いた。
ここからは「COME & GO カム・アンド・ゴー」の作品世界について訊いていく。
本作の物語は、大阪のキタにある古びたアパートの一室で白骨化した老女の死体が発見されたところから始まる。
孤独死なのか、それとも事件性があるのか、はっきりしない中、警察は捜査を開始。
そんなニュースが流れる同じころ、中国、台湾、韓国の観光客、マレーシアのビジネスマン、ネパールの難民、ミャンマー人留学生、ベトナム人技能実習生らキタにやってきた外国人たちと、彼らと微妙につながることになる日本人たちのそれぞれの日常が描かれていく。
その中で、渡辺は、事件の捜査に当たる警察の夫の妻、佳子を演じた。
仕事人間の夫にほぼ愛想を尽かし、退屈な毎日を送る彼女は、日本語学校で難民に日本語を教えるボランティアをしている。
そして、ネパール難民の男性といい仲になる。
と、役どころを説明したが、実はリム・カーワイ監督作品には、いわゆる脚本のようなものはなくほぼ即興で撮影されていると伝え訊く。実際ははどうだったのだろうか?
「大枠の内容がわかるプロットはあるんです。ですから、自分の演じる佳子がどういう人物か大枠はつかめていました。
佳子の印象としては、『リム監督は、わたしのことをこんな感じでみてるのかな』と思いつつも(笑)、わりとなんの違和感もなくすんなりと入っていける役ではありました。
物語全体のことでいうと、大きな出来事が起きるわけではないけど、さまざまな人間をつぶさにみつめたものになっている。
特にわたし自身がなにか語ろうとしなくてもいい、そこにきちんと佳子として自然に存在すればいいんだろうなと思いました。
そういうふうにふつうに自然に存在するのが難しくもあるんですけど。
で、即興なんですが、なんかその場で自由に始まってアドリブ合戦で、といったようなことを想像されがちなんですけど、そこまでではないといいますか。
リム監督の場合は、プロットはあって、こんな感じのことが展開されますという説明はある。
その上で、現場で実際にやってみて、『ここだけは外せない』とか、『ここはいらないかな』とかいう箇所を洗い出して、最後に残った部分を自由にやるといった感じなんです。
まあ、現場に入ってから設定をいきなりがらりと変更したりもするんですけどね(笑)。
たとえば、わたしの場合だと、相手役のネパール人のモウサム・グルンさんが宗教的な理由で制約があって、当初想定していたことが実はできないことがわかったんです。
ラブシーンが難しいとか。インターナショナルで公開される映画だから、ご家族や国の人が見る可能性あるけど、こういうシーンをやっても大丈夫なのかという話に直前になって。台本だけでは、ご本人もどれぐらいのことをしなければいけないのかわからなくて、現場でそこまでのシーンはダメかもとなった。
『ちょっとちょっと、それは事前にリサーチしといて!』と思わずにはいられなかったですけど(苦笑)、そうなったらなったで、ここまで絡み合うのはダメだけど、ここまでならOKとか、ひとつひとつ現場で確認して作り上げていく。
それから、二人でお弁当を食べるシーンがありますけど、あれはわたしの提案が採用されたといいますか。
もともと二人でお弁当を食べるシーンはあったんです。
でも、モウサムさんが演じるモウサムさんがお弁当を作ってくるとは当初なっていなかった。
佳子を考えたとき、彼女の中には、ごはんをせっかく作っても夫と一緒に食べることもなくなってしまった寂しさがある。
そういう背景を加味すると、男性が自分のためにお弁当を作ってきたら、ものすごくうれしいだろうなと思ったんです。
それで提案して、モウサムさんが作ったお弁当を食べるという設定になった。
そういう俳優もいろいろなアイデアや意見を出せる自由な現場でした。
確かにその場で急に変更になることもあって、それに臨機応変に対応していかなければならなくて大変は大変。
でも、わたしの場合、得意かといわれると自分ではわからないですけど、諏訪(敦彦)監督をはじめ、いわゆる即興を主とした撮影手法をとる現場の経験があるので、そこまで大きな戸惑いはなかったです。
いい意味で楽しむことができる現場でした。
ただ、リム・カーワイという信頼関係がすでに出来上がって、なんとなく意思の疎通ができている人物だから成立したことであって、いきなり初対面の監督に同じようなものを求められたら、『いやいや無茶ぶりすぎますよ』となった気がします(笑)」
千原せいじとのケンカシーンは自由な発想から
劇中で、とりわけ印象深いのは、渡辺が演じる佳子と、千原せいじが演じる夫、富岡の夫婦ケンカの場面。
夫に不貞を目撃されて佳子は責められるのだが、この夫婦のバトルは、おそらくおおよその予想とは違う方向へ進んでいく。
「あのシーンは、まあ、わたしも自由ですけど、千原さんもわりと自由な発想の持ち主で(笑)。
何が起こるかは決まっていて、でお互いいい大人なので、修羅場的なことは目撃もしているだろうし、経験もしている(笑)。
そのあたりを加味しながら演じていったら、積年の鬱憤が一気に噴出するようなやりとりになる、あのようなお芝居に自然となっていったんですよね。
当初の想定ではああいう感じではなかったので、千原さんもびっくりしたかもしれないですけど、きちんとお互いにお芝居のキャッチボールはできていて楽しかったです」
(※第三回に続く)
「COME & GO カム・アンド・ゴー」
監督:リム・カーワイ
出演:リー・カンション、リエン・ビン・ファット、J・C・チー、
モウサン・グルン、ナン・トレイシー、ゴウジー、イ・グァンス、
デイヴィッド・シウ、千原せいじ、渡辺真起子、兎丸愛美、尚玄
全国順次公開中
公式サイト:https://www.reallylikefilms.com/comeandgo
写真はすべて(C)cinemadrifters
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