2019年5月29日水曜日

外国留学生急増の裏で進む"偽装就職"の闇

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190529-00028802-president-pol
5/29(水)、ヤフーニュースより
プレジデントオンライン
2019年4月から、専門的な技能が不要な「単純労働」を目的とした外国人の受け入れが始まった。安倍首相は「移民政策は取らない」と強調するが、現実には“偽装留学生”の移民化の動きが進んでいる。ジャーナリストの出井康博氏が、人材派遣会社などによる「偽装就職ビジネス」の実態を暴く――。

 ※本稿は、出井康博『移民クライシス』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■ブローカー、行政書士らも絡む“偽装就職”とは

 日本で就職する外国人留学生が増え続けている。法務省によれば、その数は2017年には過去最高の2万2419人に達し、前年から3000人近く増加した。

 留学生の就職を増やすことは、「留学生30万人計画」と並び、安倍政権が「成長戦略」に掲げる政策の1つだ。現在は4割に満たない留学生の就職率を、5割以上に引き上げようというのだ。結果、留学ビザと同様、就労ビザも簡単に発給される状況となっている。

 留学生の就職条件が緩和されれば、いったい何が起きるのか。日本語学校でアルバイト経験があり、留学生事情に詳しい在日ベトナム人に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

 「出稼ぎ目的で来日している偽装留学生たちは日本語が全く上達しておらず、自分の力で就職活動ができません。友人の紹介やフェイスブックを通じてアルバイトは見つけられても、就活をできるような日本語能力はないのです。

 アルバイトに追われ、就活の時間すらない留学生も多い。彼らは就職を斡旋(あっせん)してくれるブローカーに頼り、手数料を払って仕事を見つけることになるはずです」

 ブローカーには、偽装留学生と企業を結びつけるビジネスチャンスが生まれる。その兆候はすでにある。怪しい人材派遣業者や行政書士らが暗躍し、留学生にホワイトカラーの仕事を斡旋するよう見せかけ、実際には単純労働の現場へと送り込む“偽装就職”ビジネスが横行しているのだ。

 近年、日本に多数入国しているブータン人留学生の中にも、人材派遣業者から「ホテルに就職できる」と持ちかけられて就職し、実際には総菜の製造工場で働くことになった者がいる。業者に40万円の手数料を支払い、在留資格「技術・人文知識・国際業務」(技人国ビザ)を取得してのことだ。技人国ビザは、日本で就職する留学生の9割以上が得る滞在資格である。

 フェイスブックなどのSNSでは、留学生に就職を斡旋する外国語の広告が溢れている。とりわけ目立つのが、急増中のベトナム人留学生をターゲットにした斡旋だ。

■「通訳」と偽りビザ取得、実際は弁当工場で単純労働

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〈1年の就労ビザで30万円、3年だと50万円〉
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 そんな具合に技人国ビザが売買されている。

 いったい誰が偽装就職を手引きしているのか。留学生の就職事情に詳しい、日本語学校のベトナム人職員が解説してくれた。

 「留学生などの在日ベトナム人です。でも、彼らだけでは入管に提出する書類は準備できません。後ろには日本の人材派遣業者や行政書士がいて、ベトナム人を使い、留学生の就職希望者を集めているんです」

 典型的な手口はこうだ。就職希望の留学生が見つかると、まず人材派遣業者は自らの会社で採用する。その際は、外国人スタッフの「通訳」として採用すると偽り、行政書士を通じて技人国ビザを取得させる。そしてビザを得ると通訳業務には就かせず、取り引き先の弁当工場などに単純労働者として派遣するのだ。

 業者と行政書士は、ビザ取得の手数料として留学生から受け取る数十万円の金を山分けする。さらに業者は、派遣先の企業が支払う留学生の賃金までもピンハネできてしまう。
こうした手口の横行には、すでに警察も目を光らせている。警視庁は19年2月、ネパール人留学生らに在留資格を虚偽申請させたとして、東京都内の人材派遣会社経営者らを入管法違反容疑で逮捕した。約100人ものビザを不正に変更し、実際には就労が認められない倉庫やレストランで単純労働させていたのだという。

 新聞報道では不正に取得された在留資格の種類までは明らかになっていないが、留学生たちの「留学ビザ」が技人国ビザへと変更されたと見て間違いない。そして翌3月には、経営者と組んでいた行政書士も逮捕された。

■「大卒」の学歴もネットで買える

 私が取材してきた印象では、こうして摘発されるケースは氷山の一角に過ぎない。技人国ビザの発給基準は大幅に緩んでいる。書類に不備さえなければ、たいていは発給される。そして不正が発覚することも珍しい。

 日本で大学や専門学校を卒業していない外国人が技人国ビザを得ようとすれば、母国の「大卒」という資格が必要となる。しかし、学歴にしろ金さえ払えば手に入る。技人国ビザなど滞在資格と同様、大学の卒業証書までもネットで売買されている。技人国ビザを持つ外国人は2018年6月時点で21万2403人と、2012年末から約10万人、17年6月からの1年間だけでも3万人以上も増えている。それは偽装就職の横行も影響してのことなのだ。

 技人国ビザには1~5年程度の在留期限こそあるが、その更新は難しくない。日本に永住し、「移民」となる権利を得るも同然だ。技人国ビザ取得者の急増は、日本が「移民国家」への歩みを進めている証といえる。

■外国人労働者の受け入れ拡大は底辺労働者の確保策

 今年4月から導入された新在留資格「特定技能」では、14業種での外国人労働者の受け入れが可能となる。しかし、それ以外にも人手不足が深刻化した職種はある。そこでアルバイトとして低賃金・重労働を担っている偽装留学生を日本に留めたい。そんな思惑が、留学生の就職条件緩和を招いていることは明らかだ。

 ホワイトカラーの専門職では人手不足は起きていない。政府は留学生の就職を増やすのは〈優秀な外国人材〉の確保が目的だと言うが、本当に優秀な人材が受け入れられれば、日本人の職が奪われてしまう。そんなことは政府も望んではいない。

 今後、単純労働の仕事であっても、「年収300万円以上」といった条件だけで就労ビザ取得が可能となるかもしれない。しかし、日本語能力に乏しい偽装留学生には、キャリアアップは望めない。低賃金・重労働の仕事ほど人手が足りないのだから、企業にとっては実に好都合なことだ。
企業の本音は、人手不足の解消にある。そのためには、むしろ日本語など覚えてくれない方が望ましい。不満も漏らさず、長期間にわたって日本人の嫌がる仕事を担ってくれる外国人こそ、企業が求める存在なのである。

 とはいえ、外国人労働者を労働市場の底辺に固定すれば、日本人の賃金が抑えられる要因となる。また、人手不足が緩和したとき、最も先に失業するのは外国人である可能性が高い。そんな事例は、最近もあった。2008年の「リーマンショック」後がそうだ。東海地方などでは、ブラジル出身者を中心に日系人の失業が大問題となった。

■リーマンショック後に起きた「使い捨て」

 日系人の受け入れは、1990年代始めから始まった。同時期に受け入れが開始する実習生と並び、バブル経済で進んだ人手不足解消が目的だった。以降、南米諸国を中心に出稼ぎ目的の日系人が大量に流入し、リーマンショック前にはブラジル出身者だけで30万人以上に上っていた。その数は、ちょうど現在の留学生にも匹敵する。

 日系ブラジル人は日本語が不得手な人が多かった。リーマンショック前後、私も日系ブラジル人社会を取材していたが、20年近く日本に住んでいながら、日常会話すらできない人が多いことに驚かされた。両親や祖父母が日本人であっても、彼らはポルトガル語で育っている。そして日本に来て以降も、日本語を使わず生活できた。

 日系ブラジル人の多くが就いていた工場での派遣労働は、日本語が不自由でも十分にこなせたからだ。また、ブラジル人コミュニティで暮らしていれば、普段の生活も日本語は必要なかった。日本語なしで生活できるという点で、現在の偽装留学生とも極めて似通った環境である。

 日系人には日本での定住、永住の道が開かれている。そこにリーマンショックが起き、失業者が急増した。彼らには職業選択の自由もあったが、日本語が不自由なため、肉体労働以外では仕事が見つけにくい。そんな日系人たちの失業が長引けば、行政が負担する社会保障費は増え、治安の悪化も懸念された。

 そこで日本政府は「帰国支援金」の制度を設け、日系人たちに帰国費用を渡し、母国へと送り返そうと努めた。制度に対しては、海外からも批判が相次いだ。政府のやり方が、外国人の「使い捨て」と受け取られたのだ。

プレジデントオンライン
■政策もなく、なし崩しに進む移民の受け入れ

 今後、リーマンショックのような状況が再び起きることもあり得る。そのとき政府は、日本で就職した留学生、そして改正入管法のもと来日する外国人たちも、都合よく母国へと追い返すのだろうか。

 政府は「移民政策は取らない」と言うだけだ。その陰で、実質的な移民が増え続けている。「政策」もなく、なし崩しの受け入れが加速していく一方だ。それはまさに欧州諸国が50年前に移民の受け入れで辿り、後に苦い経験をすることになった道である。

 経済界が低賃金・重労働を担う外国人を求めるのは当然だ。それが留学生であろうと、また移民であろうと企業にとっては変わらない。しかし政府には、受け入れに伴う負の側面まで検証し、長期的な視点で政策を立案する役目がある。にもかかわらず、現状は目先の「人手不足」が言い訳となって、様々なかたちで労働力確保の“抜け道”ばかりが増えている。

 とりわけ留学生に対する就職緩和策は、移民の受け入れという点で重大な意味を持つ。それなのに政府は、国民の目をごまかそうとしかしていない。そして新聞など大手メディアは検証機能を全く果たせていない。そんな現状のもと、この国のかたちが大きく変わり始めている。

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出井 康博(いでい・やすひろ)
ジャーナリスト
1965年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙日経ウィークリー記者などを経てフリー。著書に、『ルポ ニッポン絶望工場』(懇談社+α新書)、『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(新潮社)、『松下政経塾とは何か』(新潮新書)などがある。
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ジャーナリスト 出井 康博 写真=時事通信フォト

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