Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/30858e14df0987aacb69e9d0ad123b603221fe97
コロナで生活困窮の相談は5~6倍に急増
新型コロナウイルスの感染が再び拡大し第4波入りが懸念されている。外出自粛や飲食店への時短要請が続くなど経済活動の停滞は社会的立場の弱い在留外国人を直撃しており、窮状を訴える声が行政に次々と寄せられている。彼ら彼女らが抱える困難について外国人相談を行っている「一般社団法人レガートおおた」(東京・大田区)の理事・石井さわ子さんに聞いた。(取材・文=鄭孝俊) 【動画】「国際都市おおた宣言」を特集した大田区広報チャンネル ――羽田空港を擁する大田区は、約2万5000人の地域在住外国人(住民基本台帳ベース)との相互理解や多文化共生の環境作りを進めています。外国人からの生活相談の内容はコロナ前とコロナ後ではどのように変化していますか? 「相談者数は多い時で通常の2倍、件数は3倍超、労働問題の相談は4~5倍、生活困窮の相談は5~6倍に急増しています。大田区の窓口業務では非正規雇用の外国籍の方からの相談が以前から多く、コロナ禍による労働環境悪化に伴う雇用関連の相談や給付金の手続きに関する相談が増えていてその内容も深刻化しています」 ――大田区ならではの特徴は? 「羽田空港関連のホテル、レストラン、機内食などを作る調理食品工場などの業種に就いている外国籍住民が数多くいらっしゃいました。しかし、正規雇用でも社会保険がないなど、もともと劣悪な労働環境、脆弱な生活基盤だったところにコロナの感染拡大で一気に生活が悪化したというケースが多数見られます」 ――具体的には? 「雇い止めにあって家族4人暮らしで貯金が2万円しか残っていないという相談や、これはブラジル国籍の方のケースですが、所持金がほとんどなくて駅やコインランドリーで寝泊まりしていたという事例もありました。こういった方々には、在留資格上可能であれば、生活保護の申請を勧めますが、申請先は住民登録している住所の自治体となります。相談者の中には住民登録地が大田区から離れているケースもあり、生活保護の申請のために、住民登録をしている自治体に行くまでの交通費を捻出することすら厳しい状況です」
DVに関する女性からの相談がコロナ前の4倍に、日本人夫「オレがビザを与えている」
――男女比の変化はありますか? 「コロナ前は6:4で女性からの相談が多かったのですが、コロナ後は男性の雇用相談が増えたこともあり5:5になりました。ただ、DV(家庭内暴力)に関する女性からの相談が4倍に増えています。コロナによるリモートや失職で男性が家庭内にいることが増えたこと、また経済状況悪化によるストレスの発散が女性に向かってしまうことなどが原因です。加害者の国籍はさまざまですが、日本人の夫が外国人の妻に暴力をふるうケースも多く見られます。夫から体を壁に打ち付けられた人、あばら骨を折られ、足を引きずっていた外国籍女性もいました」 ――背景には何があるのでしょう? 「在留資格が関係しています。外国籍の女性の場合、日本人の夫と結婚すると『日本人の配偶者等』という在留資格(ビザ)が取得できて就労活動の制限がなくなるため、自由に職場を変えたりアルバイトができます。しかし、離婚するとこの在留資格を失い、帰国を余儀なくされることがあります。この仕組みを知っている日本人夫から『オレがビザを与えてやっているんだぞ』と脅迫を受けたフィリピン国籍の女性もいます。夫婦間のパワーバランスの差がこうした深刻な事態を生んでいます。夫に見張られていたり、外出を制限されていて相談にすら来ることができない状況に陥っている女性がまだたくさんいると想定されます。サポートをどう届けるか、情報をどう届けるか、が喫緊の課題だと感じています」
多くのフィリピン出身者が羽田空港関連の職種に従事していた
――国籍による相談内容に特徴はありますか? 「レガートおおたが運営している相談窓口に来る方々のケースですが、中国の方の場合、中華料理店でコックとして働いている人が多くいます。彼らの在留資格は『技能』です。しかし、コロナによる来店客の激減と営業時間短縮要請で雇用主から休業を命じられたケースが相次いでいるため、厚労省の『新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金』の申請方法に関する相談が増えています。ただ、彼らは公的機関からの貸付の利用は積極的に行わない傾向があるため、一時的な貸付金である社会福祉協議会の緊急小口資金や総合支援資金の借り入れの希望は少ない印象ですね」 「フィリピンの方は『永住者』や『定住者』の在留資格が多いです。非正規雇用で働く労働者の多くが、ホテルのベッドメーキングやお弁当工場、空港関連の仕事をしています。休業支援金・給付金の申請より、緊急小口資金や総合支援資金の申請、住居確保給付金の申請希望に関する相談が多い傾向が見られます」 「ネパールの方は『技能』の在留資格を得て、インド・ネパール料理店で調理師として働いているケースが多いです。しかし、コロナで雇用主から休業を命じられたため、休業支援金・給付金の申請や緊急小口資金の貸し付け申請を希望する相談が増えています。ネパール国籍の女性は同国人と結婚しているケースが多数で、その在留資格は『家族滞在』です。ネパールは家父長制が根強く残っていて、娘に教育は必要ないという父親もいます。そもそも女性からの生活相談は少なく、男性の40%程度。DVだけでなく家庭内の相談もあまりしない傾向があります。相談は子どもや学校のこと、保険・年金に関するものが多いです」
中華料理店の中国人調理師がラーメン店に転職できない理由
――飲食店に勤めている在留外国人固有の困難とは? 「中華料理店のコックだった中国の方が日本料理店に転職することはできません。業態が似ているラーメン店への転職もできません。それは中華料理の調理師として在留許可を得ているからです。転職する際は資格の範囲内の業務でなければ就労できません。また、失職したら3か月以内に転職先を見つけないと日本にいられなくなるリスクにつながります。このため中華料理店のコックは休業を命じられて給与が支給されなくなってもオーナーには抗議しづらいのが実情です」 ――在留外国人に対する大田区の情報提供の取り組みを教えてください。 「大田区公式ツイッターで在留外国人向けに情報を提供する、行政文書を多言語化する、などがあります。また、国際都市おおた協会のウェブサイトには、外国籍住民向けの情報が多言語でまとめられています。しかし外国籍の方の中には生活文化の違いから、区役所からのお知らせをこまめにチェックしない方もいるので、必要な情報が行き渡っていない可能性があります」 ――DV被害は在留資格が絡むだけに深刻ですね。 「特にDV相談の場合、受けている暴力の影響で自尊心が失われ、判断力が低下している状態の人が多い。このためDV相談窓口に自ら出向くのはハードルが高いのです。同国人女性に相談したり、子どもを通わせている保育所、学校の先生、近所の人が被害に気付くこともあります。周囲の日本人は、孤立しやすい外国籍の母子に目を向けていただき、多言語相談窓口をはじめ、国や自治体の多言語対応可能な相談窓口をぜひ案内してほしいです。レガートおおたでは、DV相談の方をはじめ、同行が必要な方のために、警察、法律事務所、入管などへの同行支援を行っています。外国籍の方も安心して暮らせる地域社会作りのために今後も活動していきます」 ※「一般社団法人レガートおおた」 東京・大田区内で活動する国際交流団体のメンバーが立ち上げに携わり2010年3月に設立。地域に暮らす外国籍住民とともに、対等で差別のない地域社会作りを目指している。国際都市おおた協会から多言語相談窓口などの運営を受託したり、税務署や入国管理局、弁護士事務所、病院などへの通訳者の派遣、外国人児童への日本語指導、学習支援、生活相談、同行支援などを行っている。「レガート」とはイタリア語で「滑らかに続けて演奏する」という意味の音楽用語。
鄭孝俊
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