Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/355c127a5826da927be42026ad9f683d56190fcf
出入国在留管理庁は3月31日、「令和2年における難民認定者数等について」を発表し、2020年の難民認定数は47人だったことを明らかにした。2019年の難民認定数は44人だった。日本に逃れてきた難民の支援を続ける認定NPO法人難民支援協会(東京・千代田)は、「難民申請者の送還を可能にする規定を含んだ入管法の改正案を強く懸念している。最優先すべきは、送還の促進ではなく難民認定制度の改善だ」と訴える。(オルタナ編集部) 「令和2年における難民認定者数等について」によると、難民認定申請者数は3936人で、前年に比べ6439人(約62%)減少。審査請求数は2573人で、前年に比べ2557人(約50%)減少した。 難民認定手続の結果、在留を認めた外国人は91人。その内訳は、難民と認定した外国人が47人、難民とは認定しなかったものの人道的な配慮を理由に在留を認めた外国人が44人だった。 難民支援協会の声明文は次の通り。 ◆ 本日(3月31日)、出入国在留管理庁より2020年の難民認定者数等が発表されました。 難民認定数は47名でした(一次審査・審査請求の合計)。現状の難民認定制度には多くの問題があり、難民を保護するための制度として適切に機能していないため、結果として非常に少ない難民認定数に留まっています。 また、新型コロナウイルスによる入国制限の影響を受け、難民申請者数は一昨年の約38%と大幅に減少しました。しかし、ミャンマーやウイグル、エチオピアなどの状況が示す通り、難民を生む要因がなくなったわけではありません。迫害や人権侵害、紛争から逃れた人を、適切に保護することが引き続き求められています。 そのような中で、今年2月、難民申請者の送還を可能にする規定を含んだ出入国管理及び難民認定法(以下「入管法」)の改正案が、政府により国会に提出されたことを強く懸念します。最優先すべきは、送還の促進ではなく難民認定制度の改善です。特に以下の課題を解消し、保護すべき人を確実に保護できる制度とすることを求めます。
1.難民認定を適切に行う上での課題
出入国在留管理庁の発表では、不認定となった方の国籍として、スリランカ、トルコ、ネパールなどが挙げられています。諸外国ではこれらの国の出身者の多くが難民として認められており(※1)、このような違いを生む要因として、例えば以下の4点が挙げられます。 (1)不適切な審査基準:国際基準に沿った解釈を 日本では審査の様々な面において、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)の見解など国際的な基準から離れ、難民の定義について独特の解釈が行われています。例えば、難民の定義の一要素である「迫害」について、重大な人権侵害や、累積する差別は含まれないなど狭く解釈しています。 また、迫害主体から特定(個別把握)されていることが、迫害を受ける「おそれ」の条件であるかのように捉えられていますが、これは難民条約の趣旨に合わない誤った解釈です。 政府は、法改正と共に難民該当性に関する規範的要素の明確化を行うとしています。難民認定状況の改善のためには、これらの不適切な審査基準を見直した上での「明確化」でなければなりません。 (2)適正手続保障の不在:公正で透明性のある審査を 難民申請者が行政手続上、不利な立場に置かれないようにするための仕組みが十分に整えられていない点も課題です。 例えば、一次審査では入管との面接(インタビュー)に代理人が同席することができません。弁護士等の代理人の同席は、難民申請者にとって面接時の心理的負担の軽減や法的支援の質の向上につながります。諸外国では一般的に行われており(※2)、政府の有識者会議の報告書(※3)でも「代理人の立会いを認める範囲」の在り方の検討が必要とされました。 その他、面接の録音・録画や供述調書の開示といった、公正で透明性のある審査のための施策を求めます。 (3)審査請求の形骸化:本来の役割を果たせる制度に 2020年に難民認定された者のうち、審査請求により認定されたのは1名のみでした。一次審査の誤った判断を正すという本来の役割を果たすためには、審査の独立性をより高めるなど、抜本的な見直しが必要です。また、審査請求に対する決定が行われた者のうち、約90%には口頭意見陳述が実施されていませんでした。自らの意見を述べる機会を得られないままに不認定となった方が多くいると考えられ、適正手続保障の観点からも改善が必要です。 (4)難民を専門的に扱う機関の不在:独立性のある機関の設立を 出入国在留管理庁が難民認定業務を担当している点も、難民認定を適切に行う上での課題です。出入国管理と難民認定は、その目的も、必要な知識や経験も異なります。昨年の政府の有識者会議の報告書(※4)でも「難民認定業務の専門性・独立性をより高めるため」の組織の在り方に関する検討が求められました。 また、今年2月に国会に提出された「難民等の保護に関する法律案」では、難民の認定や権利保護を行う組織として、「難民等保護委員会」の設立が規定されています。これらを踏まえ、難民の保護を目的とした業務を行うことができる組織・人員の確保を求めます。
2.難民申請者の処遇の課題
難民申請者の約11%を占める複数回申請者や約5%を占める非正規滞在者の処遇が近年悪化しています。難民申請者が安定した立場で審査を受けることができるよう、特に以下2点の課題の解消を求めます。 (1)仮滞在制度の有名無実化:より積極的な活用のための改善を 仮滞在制度の許可率は約3.4%と、2005年の制度開始以来過去最低となっています。在留資格を持たない難民申請者の地位を安定化するための仮滞在制度が機能しておらず、入管収容施設で「第二の迫害」ともいえる状況を経験する方や、仮放免という自由や権利を制約された状態で難民申請の結果を待つ方が後を絶ちません。 例えば、2020年に難民認定を得た無国籍の方は(※5)、2012年に退去強制令書が発付され、長年にわたり収容のリスクにさらされていました。仮滞在の不許可事由のうち、「退去強制令書の発付」や「逃亡するおそれがあると疑うに足りる相当の理由があるとき」を削除するなど、仮滞在制度を積極的に活用するための改善が必要です。 (2)複数回申請者の在留制限:在留を制限するべきではない 2015年と2018年の「難民認定制度の運用の見直し」により、2回目以降の難民申請者の在留を原則として制限する措置がとられています。在留制限の対象とならないためには、案件振り分けによりA案件(※6)となる必要がありますが、そのハードルは非常に高く、多くの方が複数回申請により非正規化されている状況です。 一方、2010年から2018年に難民認定された者のうち、約1割が複数回申請者でした(※7)。難民として認められるべき人が1回目の申請で認められない状況である限り、このような在留制限は行われるべきではありません。複数回申請者の処遇について、2015年よりも前の運用に戻すことを求めます。
3.結び:包括的な庇護制度の確立に向けて
「難民の保護と難民問題の解決策への継続的な取り組みに関する決議」(※8)が国会にて全会一致で採択されてから、今年で10年となります。決議が述べる「国内における包括的な庇護制度の確立」にあたっては、上記の課題の解消に加え、難民の保護や権利保障を目的とした難民保護法の制定も必要です。難民支援協会は、日本に逃れた難民が、安心して暮らすことができる法制度の実現に向けた活動を今後も続けていきます。 ※1 例えば、1982年の難民認定制度開始以来、日本で難民認定されたトルコ出身者は1人もいません。しかし、2019年だけを見ても、ドイツでは5,232人(難民認定率33.8%)、カナダでは2,011人(同73.7%)、アメリカでは1,400人(同41.3%)のトルコ出身者が難民認定されています(UNHCR “Refugee Data Finder” 、難民研究フォーラム 研究会「難民の送還:収容・送還に関する専門部会の議論から考える」資料集内 全国難民弁護団連絡会議「日本において難民認定申請数が多い10カ国に係る主要庇護国での庇護状況」より) ※2 難民研究フォーラム「難民認定申請者に対する面接の実施方法 各国比較」 ※3 第7次出入国管理政策懇談会 報告書「今後の出入国在留管理行政の在り方」 ※4 前掲注3。 ※5 朝日新聞「迫害、脱出、流浪27年…たどり着いた日本で見えた希望」 ※6 難民申請を行うと、その申請内容により、A~D案件への振分けが行われる。Aは「難民もしくは人道上の配慮を要する可能性が高い」とされた案件。Bは「難民条約上の迫害事由に明らかに該当しない」とされた案件。Cは「再申請で、正当な理由なく前回と同様の主張を繰り返している」とされた案件。Dはその他の案件。2020年に振り分けが行われた案件のうち、それぞれ1.1%、1.9%、9.7%、87.3%を占めていた。 ※7 難民支援協会「難民・難民申請者を送還するということ」 ※8 第179回国会衆議院決議第2号(2011年11月17日可決)、参議院決議第1号(2011年11月21日可決)
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