Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/226e425a51833c161ec051a46b1aab3792853b95
ウクライナ国防省情報総局は12月14日、通信アプリのテレグラムに「北朝鮮の兵士が味方を誤射し、8人の兵士が戦死した」と投稿した。情報総局はロシア軍と北朝鮮軍の間で「言葉の壁が障害となっている」と分析。軍事ジャーナリストは「当初から予見されていたことであり当然の結果。今後もロシア軍と北朝鮮軍の間で“同士討ち”が起こる可能性は高い」と指摘している。 【写真12枚】“お忍び”でディズニーランドを訪れたプーチン大統領の長女・マリヤ氏 険しい表情で楽しそうには見えない ***
ウクライナ軍は8月にロシアの国境を越え、西部クルクス州に奇襲攻撃を行い、一時は州内の1376平方キロメートルを占領していた。この面積を日本に当てはめると北海道釧路市の1362平方キロメートルに相当する。 当然ながらロシア軍は被占領地の奪還を目指した。その際、チェチェン共和国と北朝鮮が“援軍”として参戦した。 「8月からクルクス州でロシア軍と共に反攻作戦に参加したのが、チェチェン共和国の特殊部隊アフマトです。アフマトのアプティ・アラウディノフ少佐はロシアの国営テレビに出演して戦況を報告、常にロシア軍が優勢だと説明することで知られました。一方の北朝鮮軍は10月にクルクス州に入り、ロシア軍の軍服や武器を受け取って訓練に参加。ウクライナ国防省は約1万1000人の北朝鮮軍が州内に駐留していると見ており、その一部が今回の突撃作戦に投入されたと発表しました」 北朝鮮軍の兵士はロシア軍の海兵隊と空挺部隊の一部に組み込まれ、誤射した相手はチェチェン共和国の特殊部隊アフマトだったという。
同士討ちに人海戦術
「北朝鮮軍の兵士がアフマトの車両を誤射したことで同士討ちが発生したと見られています。またウクライナ国防省は北朝鮮軍に相当数の戦死者が出ていることも言及しました。12月14日と15日の戦闘で北朝鮮軍の兵士30人が死傷、3人が行方不明になったそうです。アメリカの国防総省も『北朝鮮軍の兵士が損耗を被ったことは確認した』とウクライナ側の発表を肯定。CNNがウクライナ軍に取材すると、北朝鮮軍の歩兵は『70年前と同じ戦術』で攻撃を仕掛けてきたと振り返り、自軍の損害を無視する前時代的な人海戦術が採用されていることを明かしました。これが事実なら、さらに北朝鮮軍の戦死者は増える可能性があります」(同・担当記者) 最初に北朝鮮軍の兵士がクルクス州の最前線に投入されたのは11月だった。アメリカのニューヨーク・タイムズ(電子版)は11月5日、「北朝鮮がウクライナとの戦闘に初めて参戦、当局者らが明らかに(North Korea enters Ukraine fight for first time, officials say)」との記事を配信した。 これを受けてデイリー新潮は12日、「ロシアの最前線に送り込まれた『北朝鮮軍』が次々に“惨殺”…囚人兵と同じ“捨て駒”扱いの悲惨すぎる実態」の記事を配信した。
深刻な「言葉の壁」の弊害
ウクライナ国防省は北朝鮮兵士の誤射について「言葉の壁」が原因だと発表した。だが11月の時点で専門家は言語の異なる2国の軍隊では意思疎通に問題が生じ、同士討ちの可能性が高いと指摘していた。11月12日の記事から、軍事ジャーナリストのコメントを再録してみよう。 《もし半分がロシア兵、半分が北朝鮮兵といった部隊を編成したとして、ロシア語と朝鮮語ではコミュニケーションが成立しません。1秒で生死が分かれる最前線の戦場で、指揮官と兵士、さらに兵士同士で会話ができないというのは致命的な欠陥です。これなら民間軍事会社のワグネルが採用した囚人兵のほうが、言葉が通じるだけまだマシだと言えるでしょう》 《意思疎通に難のある2国の軍隊が交差すると、最悪の場合は敵軍と誤認して攻撃し、同士討ちとなってしまいます。他にも火力支援の問題があります。歩兵が敵軍に向かって攻撃する際、後方の砲兵隊が砲撃で支援するわけですが、同じ国の軍隊でさえ誤射が発生し、自軍を砲撃してしまうことがあります。仮に北朝鮮軍の兵士が突撃し、後方にいるロシア軍が砲撃を担当するとして、意思疎通が難しければ誤爆の危険性は上昇します》
セオリーを無視したロシア軍
今回の誤射報道を受け、軍事ジャーナリストは「ロシア軍と北朝鮮軍が共同戦線を張るには戦略、訓練、ノウハウの3つが完全に欠如しています。これでは成功するはずがありません」と指摘する。 「まず戦略面から見てみましょう。もともとロシアも北朝鮮も国際的に孤立しており、その軍隊も多国籍軍に参加したり、他国軍との合同軍事演習を実施したりした経験が少ないわけです。言語の異なる2国の軍隊が長期間同じ釜の飯を食い、かなりの意思疎通が可能になったとしても、『できることなら共に戦うのはごめん被りたい』というのが普通の軍隊の本音です。どうしても共同戦線を展開する必要がある場合、その2国軍は別々に行動し、離れた地域で作戦に従事するのがセオリー中のセオリーなのです」 だがウクライナ国防省は「北朝鮮軍の兵士はロシア軍の海兵隊と空挺部隊の一部に組み込まれて戦線に投入」と指摘したのは前に見た通りだ。「別々に行動する」という共同戦線の戦略セオリーを無視したのだから、同士討ちが起きたのは必然だと言える。
練度の低いロシア軍と北朝鮮軍
「次は訓練の面です。そもそも軍隊というものは自軍だけの作戦行動でも常に同士討ちのリスクを抱えています。そのため防止策の1つに『銃口管理』の徹底があります。例えば4人の兵士が最前線で行動する場合、先頭の兵士は銃口を水平に向け、いつでも撃てる体勢を保持して歩きます。一方、残りの3人は誤射による同士討ちを防ぐため、銃口は地面に向けて歩くのです。普通の軍隊なら徹底した訓練を実施し、銃口管理を兵士の頭ではなく体に覚えさせます。ところがロシア軍は、兵士の動員が国民の反対から中止に追い込まれ、高額報酬で志願兵を集めています。ネパール人の応募も確認されているほどで、兵士としての練度は非常に低いと考えられます。北朝鮮軍の兵士も似たレベルのはずで、そのためにチェチェンの特殊部隊を誤射してしまったのでしょう」(同・軍事ジャーナリスト) 最後はノウハウだ。アメリカ軍は同士討ちの苦い経験を戦訓として蓄積し、その教訓から様々な防止ノウハウを構築してきたという。 「例えば1990年の湾岸戦争では、アメリカ陸軍のある部隊があまりにも進撃のスピードが速く、別の部隊が『あんな遠距離にいるのはイラク軍に違いない』と思い込んで攻撃したという同士討ちが発生しました。こうした教訓からアメリカ軍は敵か味方かの識別に“温度差”を利用しています。具体的にはアメリカ軍の戦闘車両には何の変哲もない格子状のパネルが装着されています。これは戦闘識別パネル(CIP)と呼ばれ、サーモグラフィーを通して見ると周辺より温度が低いパネルが暗く表示され味方だと分かるのです。こうしたノウハウをロシア軍や北朝鮮軍が持っているとは考えられません。また北朝鮮軍の兵士はロシア人とウクライナ人を見分けることも難しいはずです。今後も同士討ちが増えることこそあれ、減ることはないでしょう」(同・軍事ジャーナリスト) 註:ロシア西部の北朝鮮兵、週末の攻撃で大きな損耗か ウクライナ発表(CNN.co.jp:12月17日) デイリー新潮編集部
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