Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/8e72436badfd5f18e4dfe1ef66265715d7972e09
「再生医療においてはトップランナーですよ、日本は」。そう話すのは、iPS細胞由来心筋細胞シートによる心筋再生治療を24年前から研究してきた大阪大学名誉教授の澤芳樹だ。AIや半導体、宇宙などの成長産業でことごとく遅れをとっている日本が「世界で唯一勝てる技術じゃないですかね」と言う。 10月、澤がCTO(最高技術顧問)として指揮する再生医療を中心とするウェルネス複合施設「THE HUNDRED ロンジェビティハウス」が銀座にオープンした。アンチエイジング医療における第一人者である日比野佐和子が総括院長をつとめ、施設内には、アーユルヴェーダのサロン、発酵料理のレストランも入る。プロデュースするのはソルトグループ代表の井上盛夫だ。 ロンジェビティとは長寿の意味で、昨今、医療や健康領域のキーワードとして注目されている。ヒトiPS細胞由来心筋細胞の研究や開発、その普及も含めて“治療”に軸足をおく澤が参画をした決め手は何だったのか。他のクリニックと何が違うのか。澤、日比野、井上の3者に聞いた。 THE HUNDRED ロンジェビティハウス(以下、THE HUNDRED)は、人生100年時代を心身ともに健康に生きるために必要な「先端的な再生医療・古来の伝統医学・伝統的な日本の食文化」を融合させた複合施設。銀座のど真ん中で、古くは5000年前のアーユルヴェーダから最新テクノロジーを駆使した治療までをワンストップで提供する。 ほとんどのメニューはビジターも利用可能だが、澤による年一回の健康診断、VIPルームの利用など一部は会員限定となっており、その入会金は数百万円を超えるいわゆる富裕層向けだ。医療ツーリズムで日本を訪れるインバウンドもターゲットに見据えている。 ◾️究極の再生医療で、予防医学を前進させる 目玉は、世界で初となる「iPS細胞由来心筋細胞培養上清」だ。澤はヒトiPS細胞から心筋細胞シートの作製に成功し、弱った心筋の機能を回復させる治療を開発してきた。17年にはその製造販売を目的とした医療ベンチャー、クオリプスを設立。近年は、スタンフォード大学とも連携しながらアメリカでの実用化に向けた研究を進めている。 「iPS細胞由来心筋シートを使った治療は、科学的なエビデンスが揃っていて安全性も実証済み。GCTP基準(再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準)も満たしている。実際に、患者さんが治療から4年間生きており、元気に社会復帰している例もあります」と澤。
価値の高い成分を応用
そうした治療の領域から、予防医療の領域へ。ことの始まりは、23年春。再生医療のクリニックを構想していた井上が、知人を介して出会った澤に“培養上清液”について尋ねたという。「直感というか、嗅覚が鋭い人だなと思いましたよ」と澤は振り返る。 「我々の目的はiPS細胞由来心筋細胞シートの製造ですが、その過程で得られる培養上清液に分泌される活性成分をを検証した結果、かなり高い細胞の活性があることが確認できたのです」 これをもともとの知人であり、この領域の専門である日比野にシェアすると、それに非常に価値のあることがわかり、澤、井上、日比野という二人三脚でプロジェクトが動き出した。 5F、6Fのクリニックでは、ヒトiPS細胞由来心筋細胞研究の知見を強みとして、長期的な健康管理をサポートしていくという。 また、体を構成する細胞は37兆~60兆個あるが、それらがどう動いて、どう統合されるかなどはまだまだ解明されていない。THE HUNDREDクリニックと連携しながらデータをとっていくことで、澤は「予防医学や未病をサイエンスとして解明していけるのではないか」とも考えている。 ◾️再生医療だけ、西洋医学だけでなく では、アーユルヴェーダや発酵料理まで取り入れているのはなぜか。 「お金があっても健康でなければ」というのは富裕層の悩みで、健康への投資を惜しまない彼ら/彼女ら向けに、食事や運動といった生活習慣指導から検診、治療までをカバーするクリニックが誕生している。しかし、先端医療とアーユルヴェーダ(伝統医学)や発酵料理(医食同源)を融合させているのは世界的に見ても稀であると日比野はいう。 アーユルヴェーダに関しては、日本では特に“リラクゼーション”として認知されがちだが、実はインドやネパールでは西洋医学と同等に頼られる公的な医療。THE HUNDRED 8階のサロンでは、その医療資格を持つ専門家が常駐し、個別カウンセリングに基づく施術を行う。発酵料理に関しては、世界の食通も通う「徳山鮓」の徳山浩明が9階のレストラン「百薬」を監修をする。
目指すべき“長寿”とは
「老化は遺伝因子が3割弱で、ほとんどが環境因子によるものなので、やはり生活習慣の改善が必要です。食事、運動、睡眠に加え、メンタルケアも欠かせません。そういう意味では再生医療だけ、西洋医学だけで、人間の健康維持は難しい。心身のデトックスを促すアーユルヴェーダ、腸内環境を整える発酵食なども含めたホリスティックなアプローチが重要です」と日比野。 そのうえで、オーダーメードで指導するTHE HUNDREDは「世界一のロンジェビティクリニックを目指せるのではないか」と野望を語る。 そもそもの話だが、社会全体の循環という観点でみると、長寿ばかりを追い求めず、しかるべきタイミングで人が亡くなり、次の世代に変わっていくという代謝がある方が健全であると考えることもできる。THE HUNDREDは長寿についてどのように考えているのか。 「長寿のためといっても、ただ長生きするだけでは意味がありません。我々が目指す長寿は、いたずらに寿命を伸ばすことではなく、元気に社会活動をしながら長生きする『健康寿命』を伸ばすものです」と澤。 日比野は父親が実際に再生医療によって病気を克服した経験を持つ。「脊柱管狭窄症と診断された父は、一時期2m歩いては止まるような状態で、もう死にたいと口にするほどでした。ところが再生医療を受けて回復し、81歳の今も現役で仕事をして、週に数回ゴルフに行くほど。再生医療でこのように元気な高齢者が増えることは、社会にとってもプラスに働くのではないでしょうか」。 「僕も長生きしたいわけじゃなくて、美味しくて体にいいものを追求して元気に生きたい」と言う井上は、海外のロンジェビティハウスを多数訪れた経験もふまえて、「今回のプロジェクトは先端の再生医療、日本の繊細さを取り入れたアーユルヴェーダ、日本の伝統で体に優しい発酵料理と、世界に自信をもってアピールできる要素が詰まっています」と日本から発信する意味を強調。この施設を拡張させる形の宿泊施設を計画中で、さらにそれを海外に展開していくビジョンもあると明かす。 THE HUNDREDは富裕層向けの施設ではあるが、今後エビデンスの蓄積によって、汎用性とともに広く社会に受け入れられていけば、日本が再生医療からウェルビーイングまで世界でイニシアティブを取れる日が来るかもしれない。
Forbes JAPAN 編集部
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