Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/6ca2830670a1243d9355a9b88f81d4e6ed6238de
日本語指導が必要な「外国にルーツがある子ども」の急増に伴い、学校現場への対応の遅れが課題となっている。文部科学省の調査では、外国籍などの子どもたちは2023年5月時点で6万9千人に上り、1991年度の調査開始以降で最多となった。千葉県内でも日本語指導が必要な児童生徒数は増加傾向にあり、こうした子どもたちの受け皿の一つとなっているのが公立学校。ただ、多様なルーツを持ち、日本語の習得度が異なる彼らの指導は困難が伴う。現場の日々の判断や「頑張り」に委ねられている部分が多く、日本人より退学率の高さも際立っているとのデータも。外国ルーツの子どもが多く通う県内の定時制高校で指導の現状を取材した。(デジタル編集部・町香菜美)
親がビザを取り来日「ひらがなカタカナも分からなかった」
「月曜日」「女子学生」「火事」―。国語の授業中、配布されたプリントの漢字の書き取り問題をすらすらと解いていたのは、3年前にネパールから来日した男子生徒(16)。「親がビザを取ってきた。日本に来るとは思わず、ひらがなカタカナも分からなかった」。最初はゼロからの勉強だったと打ち明ける。今では日本語の会話もスムーズで、記者の質問にもよどみなく答えてくれた。 一方、「漢字が苦手」と話すフィリピンの男子生徒(16)は、他の生徒が読んだ内容を復唱しないと教科書をうまく読み上げることができない。授業では相談員から電子辞書を用いて解説を受ける。日本語力にだいぶ差がある2人だが、「将来は日本で仕事をしたい」と声をそろえた。 彼らが通っているのは、千葉県市川市にある県立市川工業高校の定時制だ。午後5時過ぎになると、一つの教室に生徒たちが続々と登校。ルーツはネパールやフィリピン、バングラデッシュ、スリランカ…とさまざま。ここでは外国籍の生徒が日本語を学ぶ日本語講座、通称「レインボールーム」を毎週3回開催し、3人ほどの教員らが付いて日本語を教えている。
同校の定時制に通う生徒のうち、およそ4割が外国にルーツがある。在留外国人の増加に伴い、日本語指導が必要な外国籍の児童生徒数は今後も増えると見込まれる。県によると、2023年の県人口と外国人数の12年比の各増加率を見ると、県人口の約1%増に対して、外国人数は約93%増と大幅に増加。こうした状況などもあり、県は外国人の児童生徒の母語を理解する「教育相談員」を教員の補助者として県立学校に派遣し、日本語指導の充実を図っている。「共生社会の実現」を掲げる政府の方針に伴い、文科省も日本語指導の支援員確保などの強化策に乗り出すなど、全国的にも日本語教育の強化への取り組みが進む。
グーグル翻訳機能を使って説明も
だが、現場の課題は山積みだ。同校で日本語教室を担当する英語の教員、深山恵美子さんは「日本語は話せるが書くのが苦手な子、ひらがなはようやく読めるがカタカナや漢字でつまずく子など日本語の能力はばらばら。日常生活で困らず、教科書が読めるようにまでになるのはなかなか厳しい」と打ち明ける。日本に永住予定がなく「日本語を勉強しても仕方がない」と、授業に来なくなる生徒もいるという。 通常授業での対応は教員に委ねられている。ある授業ではスライドに英語と日本語を表記。別の授業のプリントでは漢字にはふりがなをふり、担当する教員が英語やアラビア語、ネパール語など何カ国語も調べて用意。特に理科や物理など専門用語を使うことが多い授業では、相談員がスマホアプリの翻訳機能を使って説明することもある。ある教員は「現場は毎日奮闘し、常に手探りの状態」と明かす。
外国ルーツの生徒も一人ひとり異なる
自分の意志でなく来日した彼らの就学・就職状況は深刻だ。文科省によると、日本語指導が必要な高校生の中途退学率(22年度)は8.5%で、高校生全体に比べ7.7倍。卒業後の非正規労働への就職率も38.6%と、高校生全体の10倍以上だ。 教職員や教育相談員、外国ルーツの生徒の支援や連携を担当する県の「相談員支援コーティネーター」の時原千恵子さんによると、短期間で日常会話はできるほど日本語が上達しているのにも関わらず、授業でつまずくケースがみられるという。生活言語としての日本語は1~2年である程度習得できる一方、学習言語は5~7年かかるという研究結果もあり、子どもの能力のせいだとされてしまったり、会話はできることから見過ごされていたりする。 「外国ルーツの生徒も一人ひとり異なるが、 『○○人生徒は』などと一くくりに考えられることが少なくない。文化的背景や出身国の歴史などを考慮することは必要だが、外国ルーツも日本出身の生徒も、一人ひとりと向き合っていくことが重要」と時原さん。「彼らはいろいろな概念を成長させる時期にあり、母語を使用する権利と(実質的な)公用語を学習する権利である『言語権』が最重視されなければならない」と強調する。 これまで外国人の受け入れは日本の産業界が求める「労働力」としての側面が強く、官民ともにその家族や子どもたちの教育についての配慮が乏しかった。多国籍化により、多様な言語に対応しなければならない難しさもある。文部科学省の動きも十分とは言えず、取り組みの地域差や学校差、教員の対応にも個人差が見られ、外国ルーツの子どもたちが十分な教育が受けられるかどうかは長い間、「運次第」の面があった。時原さんは「教育行政から教育現場にいたるまで、日本語を母語としない子どもたちに対する教育は『恩恵』であるとの意識が根底にあるのでは」と指摘する。 人口減に伴う労働力不足解消のため、国内への外国人受け入れは今後も進む見通しだ。「子どもたちには学ぶ権利がある。今までは現場の頑張りに任せられることが多かったが、行政によって現場の負担が増えないような施策が必要だ」と時原さんは訴える。 ※この記事は千葉日報とYahoo!ニュースによる共同連携企画です
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