2019年3月12日火曜日

「黄金の仕事」に貧困層が殺到…新在留資格で日本熱再び ネパールの今

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190306-00010003-nishinpc-int
3/6(水) 、ヤフーニュースより
 外国人労働者の受け入れを拡大する改正入管難民法の4月施行が迫る。名実ともに「外国人が働ける国」へ-。日本の政策転換がアジアにどんな影響を及ぼすのか。期待と不安が入り交じる「送り出し国」の一つ、ネパールの今を報告する。

 2月初旬、ネパールの首都カトマンズ。空港から市街地に向かうタクシーで、運転手が上機嫌に話し掛けてきた。「2週間後、妹がビッグマネーを持って帰ってくる」。聞けば、妹は日本に留学し、東京のレストランに就職。近くネパールで結婚式を挙げるという。

 日本から4千キロ以上も離れたこの国で「ジャパン」は特別な存在感を放つ。理由は日本への留学生の多さだ。日本国内の留学生数は中国、ベトナムに次ぎ2万人以上。就職し、蓄えた「円」を母国に持ち帰れば、価値は10倍以上に化ける。

 「ジャパンマネー」の成功談が、若者を日本留学へと駆り立ててきた。2016年12月、「留学ビジネス」の過熱ぶりを取材した際は、学生街バグバザール周辺に五、六百校の日本語学校が乱立し、立ち並ぶビルの壁面は「STUDY IN JAPAN」の看板で埋まっていた。

 約2年が過ぎ、街の風景は変わっていた。看板から「ジャパン」が減り、代わりに「オーストラリア」が増えた。日本語学校のネパール人経営者は「日本留学は下火になってきた」と明かした。「出稼ぎ留学生」の急増で17年春から日本の入管審査が厳しくなり、日本離れを招いたのだ。

 ただ、この経営者の表情は意外にも明るい。昨年末、日本が外国人労働者の新たな在留資格を設けることを決めて以降、日本を目指す受講生が殺到し、いったん閉じていた学校を再開させたのだ。「またチャンスが来た。お目当てはみんな労働ビザだ」。新たなバブルの気配が漂っていた。
「黄金の仕事」貧困層が殺到
 首都カトマンズの学生街バグバザール。大通りを歩くと、「STUDY IN JAPAN」の看板は明らかに減っていた。破れ、朽ち果てたものもあった。かつて路地裏で見かけた、「成績が悪くてもノープロブレム」と書かれた看板は跡形もなかった。
「日の丸」をモチーフにした看板の日本語学校に入ると、30代半ばの経営者シャルマさん(仮名)が日本語で応対してくれた。「留学めっちゃ減った。前は日本語できなくても、誰でも行けたでしょ、今は入管、厳しい。東京、めっちゃ悪かった」。昨年は特に東京入国管理局の留学ビザ交付率が低く、日本留学の希望者が減ったそうだ。「留学生1人当たり10万円」という手数料の相場も値崩れし、「今は1人3万、5万。1万とかゼロもある」と嘆いた。閑古鳥が鳴く状況に、学校は昨年、いったん閉鎖していたという。

 だが、1本のニュースが不景気な状況を一変させた。昨年12月26日付の大手英字紙カトマンズポストは1面で「日本がネパール人労働者にブルーカラービザを与える」と伝えた。

 受講希望者が殺到し、学校を再開。受講者は1月上旬に20人に、中旬には50人に膨れ上がった。受講料は公務員の月給に匹敵する約3万ルピー(約3万円)とかなり高額だが、教えるのは日本語だけ。留学には詳しいが、「スキル(技能)ビザ対策は、したことない。ニュースのことしか、知らない」。困った顔になった。

 ネパール語の別の大手紙は希望的観測を含む記事を掲載していた。「留学は費用が最低120万ルピー(約120万円)かかったが、ワーキング(労働)ビザはお金を払わずに行けるようになるよう願う」「月給は15万ルピー以上になりそうだ」

 120万ルピーもの現金を用意できるのは富裕層に限られる。中流層は借金すればなんとか工面できるが、貧困層には到底不可能だ。つまり「費用なしで公務員の5倍の月給」のニュースは、ネパールの貧困層に初めて訪れた「ジャパンドリーム」のチャンスだった。

 期待を膨らませた貧困層が日本語学校に殺到し、下火の留学業界に「特需」をもたらしていた。別の学校でも、昨年末に約30人だった受講生が1月には約100人に急増。経営者は「教室が足りない。教師も増やす」。業務拡大を視野に入れ始めていた。

 ネパールでは珍しい、日本語教育と職業訓練を行う業者に聞くと、受講生は既に600人。代表者は「4月の段階で160人を送り出せる」と胸を張った。この業者の看板には日本語でこう記されていた。

 「日本の黄金の仕事の機会」。郊外の雑居ビルに、若者たちが次々と吸い込まれていった。
働く外国人34万人 14業種に拡大
 改正入管難民法の施行まで1カ月を切った。働く外国人の活躍の場は、介護や外食、建設など14業種に広がる。受け入れ数は5年間で最大34万5150人。日本の在留外国人政策は大きな転換点を迎える。

 改正法では、新たな在留資格「特定技能1号」「同2号」が創設される。「1号」は日本語能力の試験と業種別の技能試験の合格が条件となる。3年以上の技能実習の経験があれば無試験で、政府は「1号」の半数が技能実習からの移行と見込む。在留期間は最長5年。家族の帯同は認められない。

 一方、熟練した技能が必要な「2号」は配偶者や子の帯同を認め、在留期間の延長も可能。永住への道も開けるという。ただし、対象を建設と造船・舶用工業の2業種に限る。詳細な制度設計はこれからだ。

 対象国は、ベトナム▽フィリピン▽カンボジア▽インドネシア▽タイ▽ミャンマー▽ネパール▽中国▽モンゴル-の9カ国を想定。これらのアジア諸国は、政府が正式に労働を認めてきた「高度人材」の陰で、実際に現場労働を担ってきた留学生や技能実習生の「送り出し国」と重なる。

 外国人労働者は、私たちと同じ生活者でもある。政府や自治体は、多言語対応や生活相談窓口設置といった、共生に向けた「総合的対応策」の着実な実行が求められる。同時に私たちも、社会を担う当事者同士として支え合い、助け合う気持ちが必要だ。新たなひずみを生まないために。
西日本新聞社

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