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ロシアがウクライナへの侵略を始めて2月24日で1年となる。ウクライナの犠牲はもちろんだが、ロシアにとっても良いことは何もない。ロシアの若者が兵士として無駄に死ぬだけだ。 筆者は、プーチン大統領がどうしてもウクライナを支配したいのは、同じスラブ民族で正教徒のウクライナ人が幸せになるのが許せないからだと思う。ウクライナ人は、幸福になる方法を見つけたのだ。それは自由と民主主義の国になることだ。 豊かで自由で幸福な人々をロシア人が見れば、それが同じスラブ民族ならなおさら、ロシアはおかしいと思うだろう。もちろん、おかしいと思ったからといって、秘密警察に公然と反抗する人はそういないから、すぐにプーチン体制が崩れる訳ではない。しかし、国民に疑いを持たれた制度は、いつまでも続かない。それはソ連崩壊で秘密警察の仲間の諜報員だったプーチン大統領が経験したことだ。
なぜ自由と民主主義が幸福をもたらすのか
自由と民主主義が幸福をもたらすことに懐疑的な方もいるかもしれない。しかし、自由とは、自分の好きなように発言し、行動した結果、他人にそしられるかもしれないが、秘密警察が夜中にドアを叩いて侵入することがないということだ。これは幸福の必須の条件である。 もちろん、自由なだけではダメで、人間は食べなければならない。ところが、民主主義が豊かさをもたらすのも明らかだ。 民主主義指数と腐敗認識指数というものがある。民主主義指数は、英エコノミスト誌傘下のエコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)が作成しているもので、各国の政治の民主主義のレベルを5つの部門―選挙過程と多元性、政府機能、政治参加、政治文化、人権擁護―で評価し、かつ統合している。数が大きいことが、民主主義の評価が高いことを示している。 この指数では、北欧の国々とニュージーランドが最上位層を占めている。ちなみに、台湾10位、ドイツ14位、日本16位、イギリス18位、フランス22位、韓国24位、アメリカ30位、イタリア34位、ロシア146位、中国156位、北朝鮮165位。ミャンマー166位、アフガニスタンが167位で最下位である。
腐敗認識指数(Corruption Perceptions Index)はトランスペアレンシー・インターナショナルが作成しているもので、世界各地の公務員と政治家がどの程度汚職していると認識できるかという指標である。この指数は、毎年ほぼ10の機関が調査した13種類のアンケート調査から作成している。10の機関とは、アジア開発銀行、アフリカ開発銀行、ベルテルスマン基金、世界銀行、エコノミストインテリジェンスユニットなどである。 調査対象は、世界中のビジネスマンと政府の分析専門家などである。調査対象に「一般市民」ではなく、ビジネスマンや専門家を選んでいるのは、彼らが、いわゆる小口の汚職・腐敗よりも、政治資金、談合など大口の腐敗を、より熟知しているからである。 数が大きいほど腐敗が少ない。こちらは、ドイツ9位、日本と英国18位、フランス21位、米国24位、台湾25位、韓国31位、イタリア41位、中国65位、ロシア137位である。 民主主義と腐敗と豊かさの東欧諸国における関係性は、原田泰『プーチンの失敗と民主主義国の強さ』(第8章、PHP新書、2022年)で解説しているが、ここでは全世界に広げて説明したい。 図1は、2022年の民主主義指数と1人当たり購買力平価国内総生産(GDP)との関係を示したものである。縦軸が1人当たり購買力平価GDP、横軸が民主主義指数である。図から明らかなように、民主主義の度合いが高い国ほど豊かな傾向がある。 民主主義の度合いが低くても豊かな国は、カタール、UAE(アラブ首長国連邦)、バーレーン、サウジアラビア、クウェート、オマーンなどの産油国ばかりである。これらの国を除けば、民主主義と豊かさの関係はより明瞭になる。 もちろん、この関係は因果関係が逆であるという議論もある。すなわち、豊かな国だから民主主義を採用するのであって、貧しい国は採用できないと言う。確かに、民主主義指数が6以下の国では豊かさと民主主義の関係がないように見える。独裁、または独裁と民主主義の混合体制と言われている国である。 6以下の国は1人当たり実質購買力平価GDPが2万ドル以下、多くは1万ドル以下の国である。図1の結果は、1万ドル以上の国になって、徐々に民主化が進むのだとも解釈できる。 実際、民主主義と豊かさに関する初期の文献では、豊かさが民主主義をもたらすと解釈されることが多かった。かつて、中国も豊かになるにつれて自由と民主主義の制度を取り入れ、普通の国になると議論されていたことを思い出して欲しい。こちらは豊かさが自由と民主主義を生むという議論の一つの応用である。しかし、この応用は、今のところは間違いであるようだ。
腐敗が少なければ豊かになれる
筆者は、因果関係は、民主主義が豊かさを生むという方向だと思う。それを示すのが、腐敗と豊かさの関係を示す図2である。図に見るように、腐敗が少ないほど(数字が大きいことが腐敗の少ないことを示す)豊かになる傾向がある。両者の関係を示す決定係数も高くなる。 なぜ腐敗が少ないほど豊かになるかと言えば、腐敗があれば政府の支出の何割かは賄賂に使われる。必要な支出ではなく、賄賂を払ってくれる支出に向かう。さまざまな許認可が賄賂次第となる。 日本は腐敗の程度は少ないが、それでも電通は談合の要となってオリンピックから利益を得ていた。スポーツイベントは、コスト高になっていたはずだ。
政府の支出が、人々が本当に求めるのものではなく、賄賂次第になれば、政府の効率が低下する。政府だけでなく、社会のあらゆる面で、すべてのことが賄賂次第となる。これでは、能力のある人はやる気を失う。あるいは、能力のある人が賄賂を取る側になろうとするかもしれない。経済は発展しない。
民主主義は腐敗を抑制する
図3は、民主主義と腐敗の関係を示したものである。図から明らかなように、民主主義の度合いが高いほど腐敗は減る。民主主義の国であれば、自由な報道機関や野党が腐敗を追求する。腐敗は抑えられるのだ。 この点で、スキャンダル報道は重要である。スキャンダル報道をバカにする人が多いのだが、政策の議論をしてもあまり深まることは期待できない。 10年前は、高所得者に児童手当を払うなと叫んでいた人が、いや払うべきだと言い出している(筆者の考えは、「児童手当の所得制限撤廃とN分N乗政策はなぜ異次元か」にある)。政策が正しいかどうかは、そう簡単には分からないが、腐敗を正さなければならないのは明らかで、途中で意見が変わることはない。 世界最古の民主主義国英国で、スキャンダル報道が盛んである。筆者は、スキャンダル報道こそが英国民主主義の根幹の一つであると信じている。 図3をよく見ると、シンガポール、ブータン、香港、カタール、UAEのように、民主主義ではないが腐敗の少ない国もある。カタール、UAEは産油国の中でも豊かな国である。腐敗が相対的に少ないことが豊かさとも関係しているのだろう。香港は、豊かで自由な国がいきなり自由ではなくなってしまったという事例である。その余沢が残っているのかもしれない。 ブータンの1人当たりGDPは1.1万ドルで、周辺国のインド、ネパール、バングラデシュより豊かである。中国の平均の1.8万ドルよりは貧しいが、その辺境地域よりは豊かだろう。海のない国は経済発展に不利だが、腐敗の少なさゆえに周辺国よりも豊かになっているのかもしれない。民主主義の度合いは低いが、国王が自ら独裁権を捨てて立憲君主制の国になることを選んだので、いずれ民主主義指数も上がっていくだろう。
自由と民主主義の国となるのが最大の答え
自由と民主主義は豊かさをもたらす。その因果関係は、自由と民主主義が腐敗を抑え、それが人々の活動を活性化するからである。確かに、シンガポールは、あまり民主主義的ではないが、腐敗が少なく、日本よりもはるかに豊かである。しかし、民主主義でなくて腐敗していない国は例外である。 例外的な国になるよりも、普通の国になることの方が簡単である。戦争が終われば、ウクライナは自由と民主主義の国となって、自由で豊かで幸福になる。それがロシアの侵略と、無益に死んでいったロシアの若者に対する最大の答えとなる。 なぜ戦わなければならなかったかへの答えであり、無益に死んだロシアの若者に、自由と豊かさと幸福の別の途があると示すことになるからだ。
原田 泰
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