Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/650600fe61a681b078c5074668254ad4e2b446ad
2023年1月下旬、スズキが「2030年度に向けた成長戦略」を発表しました。奇しくも、まったく同じタイミングでトヨタの社長交代が発表されたことで、スズキの発表への注目度は小さくなってしまいましたが、その内容は驚くべきものでした。なんと、同社は2030年の売上目標として7兆円を掲げたのです(2021年度売上3.5兆円)。かなり強気に見える売上目標ですが、同社の経営状況を見ると、まったく無謀ではないことが分かります。今回は、スズキが発表した成長戦略とともに、スズキの知られざる実力を解説します。
スズキの「2030年に向けた成長戦略」の柱
スズキが1月26日に発表した「2030年度に向けた成長戦略」の柱は、「カーボンニュートラルの実現」と「新興国の成長」の2点でした。 「カーボンニュートラル」の具体的な達成時期の目標は、「日本と欧州で2050年」「インドで2070年」とされました。その目標を実現するための製品分野と製造分野での計画に加え、研究開発・外部連携と投資の計画、そして売上目標が示されたのです。 製品分野の計画の目玉となったのはEVです。 ■日本(2023年度~) ・投入予定のモデル 小型SUV、軽乗用EVなど6モデル ・パワートレイン比率 EV(20%)、ハイブリッド(80%) ■欧州(2024年度~) ・投入予定のモデル SUV・Bセグメントなど5モデル ・パワートレイン比率 EV(80%)、ハイブリッド(20%) ■インド(2024年度~) ・投入予定のモデル 6モデル ・パワートレイン比率 EV(15%)、ハイブリッド(25%)、内燃機関(60%) また、スズキは自動車だけでなくバイクと船外機も手がけるメーカーです。バイクも2024年度から2030年度までにEVを8モデル展開予定で、EV比率は25%を計画しています。そして、船外機でも2024年度にEVを投入し、2030年度までに5モデルを投入、EV比率5%を計画します。 他方、製造分野でも生産工場のカーボンニュートラル化を進め、インドではバイオガス事業に参入する計画を発表しました。研究開発と設備投資は、合計4.5兆円規模を予定しています。研究開発費は電動化とバイオガス事業など、カーボンニュートラルと自動運転などの研究に2兆円(このうち0.5兆円は電池関連)、一方、設備投資として、EV工場の建設や再生可能エネルギー設備に2.5兆円を投資すると発表しています。
2030年に7兆円?強気すぎる売上目標
スズキが2030年度に向けた目標に、カーボンニュートラルの実現を強く掲げるのは、世界的な潮流を踏まえると、それほどおかしい話ではありません。技術的にもトヨタとの協力関係がありますし、巨額の研究開発と設備投資もあるため、EV展開も無理のない話です。 しかし、驚いたのは、2030年度の売上目標7兆円という数字です。これは、2021年度のスズキの売上3.5兆円の2倍となる数字なのです。約10年で2倍の成長を目標としたというから、驚くばかりです。 ちなみに、2021年度はコロナ禍の影響もあり、スズキの過去最高ではありません。2018年度には3.8兆円が記録されています。また、2022年度はコロナ禍沈静化を受けて、4.5兆円の売上を予定しています。しかし、7兆円に達するには1.5倍強の成長が必要とされます。7兆円の目標というのは、それだけ大きな伸びとなります。 それでは、スズキは2030年の目標7兆円を達成することはできるのでしょうか。スズキの経営を深堀りしていくと、どうやら実現可能性の高い目標かもしれないことが分かってきました。その理由は、他の自動車メーカーがやってこなかった、“スズキだけ”の超独自路線が関係しています。
スズキ「超強気な売上目標」も達成できるかもしれない根拠
現状の2倍の7兆円というスズキの強気の目標は、いったいどこから生まれてきたのでしょうか。そのヒントは、スズキの販売先にあります。 スズキの2021年度売上である3.5兆円の地域ごとの内訳を見ると、最大エリアとなるのがアジア(インドを含む)で1兆5,901億円、次いで日本の1兆737億円、欧州の4,181億円、その他(北米含む)で4,865億円となります。 ざっくり比率で言えば、アジアが3、日本が2、欧州1、その他が1となります。販売台数ベースで言えば、スズキの世界販売台数は2021年度で約270万台。その内訳は、日本は約56万台で、インドが日本の2倍の約137万台、欧州とその他があわせて約78万台となります。 簡単に言えば、スズキの売上と販売台数の半分近くがインドとなっているのです。ご存知の方も多いと思いますが、スズキはインド自動車市場のトップシェアメーカーであり、シェア取得率は43%を誇ります。つまり、スズキの成長にインドは非常に重要な存在なのです。 そして、その重要なインド市場は、これからも人口が増えていくことが予想されており、経済成長も確実視されているのです。今後、人口が横ばい、もしくは減少が予想される日本や欧州とは違います。インドでビジネスをしていれば、現在のシェアを維持しているだけで、十分に成長が見込めるのです。 また、スズキはインド以外の新興国でもシェアナンバー1を獲得しています。アフリカであれば、エチオピア、コートジボアール、アンゴラ、ジプチ。東南アジアなら、ネパール、ミャンマー、ブータン。南米ではボリビアにバルバドスです。 こうした新興国のこれからの成長にあわせてスズキが市場シェアを維持することで、2021年度の2倍となる7兆円という目標達成が見えてきます。これがスズキの「2030年度に向けた成長戦略」の2つ目の骨子となります。 今回の発表で、スズキはアフリカを「将来有望な市場」と見ていることを明示しました。具体的な計画は発表されませんでしたが、課題の1つとしてアフリカの市場開拓推進が含まれています。 また、2023年1月にはガーナにおける「スイフト」の車両組み立て生産が開始されています。これは、トヨタ車を生産する豊田通商のガーナ工場における生産であり、その背景にはトヨタとスズキのアライアンス強化の一環として実施されたものとなります。豊田通商は、ほかにもアフリカ3カ国に工場を持っており、スズキの生産拡大も可能性としてはあるのではないでしょうか。 どちらにせよ、インドをはじめとする新興国に強いスズキにとって、アフリカは相性の良い地域と言えるでしょう。こうしたアフリカなどの新興国の成長に、スズキが確かな手ごたえを感じているからこそ、2030年度に売り上げを2倍にするという強気も、生まれたのではないでしょうか。
トヨタもGMもやってない? “スズキだけ”の独自路線の凄さ
インドを土台に、アフリカでの飛躍を狙うスズキ。これは、他の自動車メーカーにはない、スズキ独自のユニークな戦略と言えます。なぜなら、大きなマーケットに参入することで、売上を伸ばすというのが、一般的な自動車メーカーの戦略となっているからです。 大きなマーケットというのは北米と中国です。そして、世界ランキングの上位にある自動車メーカーは、北米と中国のどちらかで大きく数字を稼いでいます。フォルクスワーゲンは中国、トヨタは北米と中国の両方、GM、ステランティス、フォード、ヒュンダイ、ホンダも同様です。 ところが、その後に続くスズキは違います。そうした大市場に背を向けながらも、年間270万台を販売しているのです。 ちなみに、現在のスズキの年間270万台という規模はフォルクスワーゲン、トヨタ、GM、ステランティス、日産・ルノー、フォード、ヒュンダイ、ホンダに続く9位というもの。これが2030年に売上2倍にあわせて販売台数も2倍になれば、トップ5に入るか、肉薄することになります。他社とは違う独自の道を歩むスズキ。そのユニークさこそが、成長の理由と言えるのです。 (参考文献一覧)
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