Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/efb7013db821036613c13d6e44e8e7518c3057fb
2026年8月、ネパールと中国の国境付近で大規模な土石流が発生し、1400人以上が死亡、日本人5人を含む5000人以上が行方不明となった。発端は、標高約5200メートルで起きた巨大な岩盤と氷河の崩落だった。岩盤をつなぎ止める「氷のセメント」が温暖化によって溶けたことが、一因となった可能性が指摘されている。FNNが独自に入手した映像と専門家の分析から見えてきたのは、山体が崩壊したメカニズムと、巨大災害の予測の難しさだった。
【画像】巨大な岩盤と氷河の崩落前後を捉えた画像
◆一気に高さ10m、時速167kmの濁流が…
崩落地点からおよそ50キロ離れたネパール中部の町、ビドゥール。
発災直後、日本メディアでいち早く現地入りしたFNN取材班は、約1カ月後に再び被災地を訪れた。そこで目にしたのは、今なお残る生々しい爪痕だった。
川岸は大きくえぐられ、沿道の建物は2階部分にまで土砂が残り、道路脇では被災したトラックが取り残されていた。
住民:
見るに耐えない光景でした。みんなが泣き叫び、何もかも流されました。
またいつ災害が起きるのか分かりません。ここに住むのは、恐ろしいです。
上流では、高さ最大10メートルの濁流が、平均時速167キロもの速さで押し寄せたとみられている。
◆東京ドーム106個分、幅1kmの壁が崩落
ヒマラヤの氷河や災害リスクを研究する国際機関、ICIMOD=国際総合山岳開発センターのラジェシュ・バハドゥール・タパ博士に話を聞いた。
博士が提示したのは、崩落後の現場を捉えたドローン映像だ。
取材班に見せてくれたメディア未公開だという映像には、大きくえぐられた山の斜面と、下に堆積した大量の土砂が映し出されていた。
博士によると、崩れ落ちた岩石と氷の量は推定1億3200万立方メートル。東京ドーム100個分以上に相当する。
岩盤は幅およそ1キロに及ぶ。氷とともに約1200メートル下へと崩れ落ちた莫大なエネルギーが、下流で甚大な土石流を引き起こす要因となったという。
◆ベテランガイドが見たヒマラヤの異変
ヒマラヤでは近年、登山家たちの間でも「山の異変」が肌感覚として語られていた。
エベレストに5回登頂したベテランガイドのアン・チェリンさんは、ヒマラヤから急速に氷と雪が失われていると明かす。
登山ガイド アン・チェリンさん:
以前は雪に覆われていた場所で、今は岩肌がむき出しになっています。
昔は15分ほど歩いてから、アイゼン(滑り止めの金具)を着けましたが、今では2時間以上も岩肌を歩くんです。
◆岩盤支える「氷のセメント」の喪失
こうした雪や氷の減少は、今回の災害とどう関係しているのか。
タパ博士は、「地球温暖化との関連は十分に考えられる」と指摘する。
岩盤の亀裂に入り込んだ氷は、「セメント」のように岩をつなぎ止め、斜面を安定させる役割を果たしている。しかし、長年の温暖化によって氷が溶け、その支えが失われてしまったという。
さらに、2015年のネパール大地震で生じた亀裂も今回の崩落に影響しているとみられている。
ICIMOD タパ博士:
長年にわたって氷が溶け続け、限界点に達したことで、岩盤が崩落したと考えられます。
2015年の大地震によって山に亀裂が生じ、そこに水や氷が入り込んでいた可能性があります。気温が低い間は氷が岩盤を支えていましたが、その後の気温上昇で溶けたのかもしれません。
また、科学データも深刻な変化を示している。
ガンジス川流域の山岳地帯では、この30年間で氷河の面積が約20%減少した。一方、大きな氷河が溶けて分断され、複数の小さな氷河に分かれているという。
◆「わずか7分」で土石流到達、警報は30分後
ICIMODの調査によって、災害時の詳細なタイムラインも判明した。
午前8時37分ごろ、山頂付近で崩落が発生。濁流はわずか7分で国境付近に到達した。
一方、住民に緊急警戒SMSが発信されたのは午前9時15分ごろ。国境付近が被災してから約30分後だった。
従来の雨量や水位を監視するシステムでは、突然の山体崩壊には対応できなかった。
さらに今回の災害では、ネパール側の山で発生した崩落が国境沿いの川に流れ込み、中国・チベット側にも被害をもたらした。濁流はさらにネパールの下流域へと流れ、国境を越えて被害が拡大した。
ICIMOD タパ博士:
ヒマラヤの変化を監視していましたが、これほどの大災害は予測できませんでした。
国境を越えた災害に備えるため、中国やネパール、インドなど各国の協力が必要です。
◆崩れる48日前に動いていた山…見逃された「40cmの異変」
一方、今後の被害を防ぐ重要な手がかりも見つかった。
崩落前の7月7日から8月24日までの48日間に、崩落した斜面では衛星レーダーが最大約40cmの変位を記録していた。山は崩れる前から、すでに動いていたのだ。
このデータだけで崩落の日時を予測できたわけではない。しかし、危険な斜面を事前に特定し、重点的な監視につなげられる可能性がある。
タパ博士は、日本のレーダー観測衛星も、雲に覆われた山岳地帯を夜間に観測できる技術として期待できると指摘する。
ICIMOD タパ博士:
今回の災害を受け、多くの科学者が危機感を持っています。
変化を監視しながら、より強固な早期警戒システムを構築する必要があります。
災害後、ネパール当局は国境付近に新たな監視カメラを設置。川の状況を24時間確認し、洪水の早期警戒につなげる取り組みを始めた。
ICIMODも中国側の研究機関と共同調査を進め、ほかに崩落の危険がある斜面の特定に取り組んでいる。
崩れてから濁流を捉えるだけでなく、崩れる前の山の異変を察知できるか。
ヒマラヤでは、災害の教訓を次の警戒につなげる取り組みが進められている。
関 隆磨

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