Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9ad2b961a16d513359f6bec8f2b57a0d61b9df44
人手不足のコンビニを支えているのが外国人店員だ。新刊『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。』(飛鳥新社)を上梓したフリーライターの村尾信一さんは「あるコンビニでは、留学生が商品を盗難するという事件があった。しかし、オーナーは『外国人を採用したのが間違いだった』とは考えなかった」という――。
【写真を見る】中国人留学生を信じてコンビニ店主が渡したもの
■客からは見えないコンビニ店員の苦労
コンビニで働く外国人スタッフは、いまや珍しい存在ではありません。共同通信が2024年5月に報じた集計では、大手3社だけで外国人アルバイトは8万人を超えています。スタッフの8割が外国人だという店の事例もあり、店長を任される人たちもいます。
ただ、採用した人に仕事を覚えてもらい、店を任せられるようになるまでには、時間がかかります。
コンビニには、日本の暮らしに関わるさまざまな商品やサービスが集まっています。レジや品出しだけでなく、公共料金の支払い、宅配便の受付、調理、商品管理。言葉や生活習慣の違いもある中で、オーナーはどう教え、どこまで任せればよいのでしょうか。
筆者の新著『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。』に登場する、50歳で百貨店を辞め、コンビニオーナーになった坂本哲郎さんも、悩みながら、その方法を探してきた一人です。本稿では、書籍の中にも出てくる、実話をもとに描いた場面を紹介します。
■外国人5人採用で救われたと思ったが…
坂本さんが経営する港区の店は、慢性的な人手不足に苦しんでいました。求人を出しても応募が来ず、採用しても長続きしない。シフトの穴を埋めるのは、いつも坂本さん夫婦でした。
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昼食が夕方になる日もあった。深夜二時にカップ麺をすすり、バックルームに段ボールを敷いて寝て、そのまま朝を迎えたこともある。店は、どうにか回っていた。だが、それは坂本が無理やり回しているからにすぎなかった。自分が止まれば、店も止まる。そんな状態だった。
『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。』より引用(以下、引用はすべて著書から)
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そこで坂本さんは、日本語学校を訪ねました。妻や外国人スタッフと撮った写真を載せた求人ポスターを、学校の掲示板に貼ってもらったのです。
すでに外国人が働いていると分かる写真は、応募を考える学生にとって、安心材料になったのでしょう。電話が入り始め、最終的に中国人2人、ネパール人2人、韓国人1人を採用しました。
坂本さんはゆっくり話し、レジで使う言葉を紙に書き、声に出して練習させました。彼らもメモを取り、繰り返し練習しました。シフトの空白が減り、店はようやく落ち着きを取り戻し始めていました。
ところが、採用から1カ月ほどたった時、棚卸しで異常が見つかります。
■防犯カメラに映っていた「犯行現場」
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帳簿上の在庫、640万円。
実際の在庫、590万円。
差額、50万円。
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3カ月前の棚卸しでは、差は10万円程度でした。それが今回は50万円。その月の利益が消えてしまうほどの金額です。
防犯カメラを確認すると、新しく採用した中国人スタッフの一人が、勤務日ではない日に店へ出入りしていました。入店した時と帰る時で、バッグの膨らみ方が違う。調べるうちに、もう一人も商品を持ち出していたことが分かりました。
乾電池、携帯電話用充電器、カードゲーム、化粧品。小さく、転売しやすい商品でした。2人に辞めてもらったあとも、坂本さんの不信感は消えませんでした。スタッフがバックルームへ入るたび、バッグを動かすたびに、「大丈夫か」と考えてしまう。周囲のスタッフも互いを疑い、会話が減っていきました。
そこへ、別の不正が重なります。今度はレジの現金が合わなくなったのです。調べると、返品処理を装って現金を抜いていました。やっていたのは、坂本さんが真面目だと信じていた、日本人の学生アルバイトでした。
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国籍ではない。日本人か、外国人かでもない。
悪いことをする人間は、どこにでもいる。
問題は、不正をしようと思えばできてしまう店の仕組みを、自分が放置していたことだった。
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■「外国人だから悪さをする」は間違い
最初の事件だけを見れば、「外国人を採用したのが間違いだった」と考えてしまったかもしれません。しかし、日本人の学生も不正をしていた。外国人だから疑う。日本人だから安心する。その見方では、不正を見抜くことも、真面目に働く人を正当に評価することもできません。
盗んだ本人の責任を問うと同時に、経営者には、不正を防ぎ、気づける仕組みを整える仕事がありました。
「誰が来て、誰が帰ったか」を全員が分かる店に坂本さんは、店のルールを一から見直しました。
出退勤時の手荷物確認、欠勤時の連絡、レジ精算の手順、作業の分担、商品管理。それまで曖昧にしていたことを、文字にしていきました。
特に徹底したのは、出退勤時の挨拶です。
店に入った時、帰る時には、その場にいる全員に聞こえる声で挨拶する。接客のための練習というだけではありません。誰が来て、誰が帰ったのかを、互いに把握できるようにするためです。
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国籍にかかわらず、同じルールを守る。何が認められ、何をしてはいけないのかを、全員が分かる状態にする。
ルールは、働く人を縛るためだけのものではない。真面目に働く人を守るものでもあった。
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私は、この点が大切だと考えています。不正が起きた職場では、何もしていない人まで疑われます。経営者が不安から全員の行動を監視するようになれば、真面目に働いているスタッフも居心地が悪くなるでしょう。
■深夜の事故で見えた留学生の誠実な姿
手順や確認方法が明確なら、問題が起きた時にも、印象や思い込みに頼らず確認できます。ルールを整えることは、人を信頼して仕事を任せるための土台にもなるのです。
店が落ち着いてきた頃、深夜2時に車が店へ突っ込む事故が起きました。幸い大きなけが人はいませんでしたが、入り口のガラスが割れ、警察への対応や片づけに追われました。
その場を離れず、オーナーの坂本さんや本部に連絡を取り、対応したのが深夜スタッフの中国人留学生・趙建民(チャオジェンミン)さんでした。一段落すると、趙さんはオーナーに深く頭を下げ、突然呼び出したことを詫び、助けてもらったお礼を伝えました。
坂本さんが見ていたのは、目の前の趙さんの働きぶりでした。以前商品を盗んだスタッフと同じ国の出身だということは、趙さんを評価する理由にはなりませんでした。
坂本さんは、趙さんを店長候補として育てることを決めます。
本部の経営指導員と相談し、発注、売上集計、送金、シフト作成、採用面接など、任せる仕事を整理しました。そして、趙さんをバックルームへ呼びました。
■金庫の鍵を預けたオーナーの覚悟
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「君を、店長候補として育てたい」
趙は、すぐには意味を理解できなかったようだった。
「僕を……ですか」
「そうだ」
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坂本さんは、金庫の鍵を机の上に置きました。
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「現金管理もやってもらう。発注も、売上も、面接もだ」
「そこまで、僕が?」
「そこまでやらないと、店長にはなれない」
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趙さんは、先輩の留学生が店の商品を盗んで辞めたことを知っていました。その店で金庫の鍵を渡される意味は、よく分かったはずです。
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「信頼している、なんて言うだけなら簡単だ」
趙は鍵を見つめていた。
「本当に任せるなら、こっちにも覚悟がいる。店の数字も見せる。PL(損益計算書)もBS(貸借対照表)も見せる。店の金が、どこで増えて、どこで減るのか。自分の頭で考えろ」
「利益まで見ろ、ということですか?」
「そうだ」
それから趙は、ゆっくりとうなずいた。
「……やります」
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坂本さんは店の経営状態が分かる資料を開き、毎月、趙さんと数字を読むようになりました。廃棄が増えたのは、なぜか。発注しすぎただけなのか。陳列や補充が遅れ、売る機会を逃したのではないか。
人件費が下がったのは、なぜか。仕事が効率よく回ったのか。それとも、スタッフの欠勤や研修時間の減少によるものなのか。
■「任せる=判断できる」人材に育てること
同じ数字でも、理由が違えば、次にすべきことは変わります。趙さんは問いかけに答えながら、数字と現場の出来事を結びつけて考えるようになりました。ここに、単に仕事を振り分けることとの違いがあります。
発注の入力を任せるだけなら、手順を教えれば済みます。しかし、店長として仕入れを判断してもらうには、売上や廃棄、利益まで理解してもらわなければなりません。任せる責任に見合う情報と権限を渡し、判断できるようになるまで教える。金庫の鍵は、その始まりでした。
教える側の負担は、一時的には増えます。坂本さんも、妻との会話で、こう漏らしています。
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「教えるって、思っていたより手間がかかる」
「任せたら、楽になるんじゃなかったの?」
「任せる前が、一番大変なんだな」
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その時間が何を生んだのか。象徴的な出来事が、年末の忙しい朝に起きました。休みを後回しにして働いていた坂本さんは、発注画面を見ながら、机に突っ伏して眠り込んでしまいました。
顔を上げると、時計は午前10時20分を過ぎていました。発注の締め切りは10時です。送信していなければ、翌日の必要な商品が入ってきません。慌てた坂本さんに、中国人スタッフの金麗香(ジンリーシャン)さんが声をかけました。
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「大丈夫です。私が送信しておきました」
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■自分しかできないと思い込んでいた店長
内容の確認も済ませているといいます。坂本さんが驚いて礼を言うと、麗香さんは続けました。
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「もう、少し休んでください」
そして、静かに続けた。
「あとは私たちでやります」
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趙さんも、友人に声をかけて新しいスタッフを探していました。新人の研修も、自分たちが手伝うといいます。坂本さんが眠っている間にも、店は動いていました。自分しかできないと思っていた仕事を、スタッフが引き受け、次に必要なことまで考えていたのです。
坂本さんが経営する港区の4店舗では、店長を務めているのは全員が外国人です。その関係は、最初からできていたものではありません。採用し、教え、失敗を経験し、店の仕組みを変えながら築いてきたものでした。
商品を盗んだ外国人スタッフがいた。現金を抜いた日本人スタッフもいた。一方で、事故の夜に店を守り、疲れたオーナーを休ませようとするスタッフもいた。その一人ひとりを、国籍でまとめて判断することはできません。
不正を防ぐルールは、誰に対しても必要です。そのうえで、日々の仕事ぶりを見て、任せられる人に責任と権限を渡していく。坂本さんは、その両方に取り組みました。「信頼している」と言いながら、大切な情報も判断の機会も渡さなければ、相手はいつまでも指示を待つしかありません。
金庫の鍵を渡すという決断には、「この店を動かす一人として、自分で考えてほしい」という期待が込められていました。その期待を仕事の形にし、教え続けた先で、坂本さんはようやく「あとは私たちでやります」と言ってもらえるようになったのです。
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村尾 信一(むらお・しんいち)
フリーライター
1967年大阪生まれ。龍谷大学経営学部卒。1995年~2025年の30年間、(株)セブン‐イレブン・ジャパンに勤務。オペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC・店舗経営相談員)、ディストリクトマネジャー(DM・地区責任者)、ゾーンマネジャー(ZM・広域統括責任者/東北、北海道)などを歴任。多くの加盟店オーナーとかかわってきた。この他、販売促進部、商品本部、加盟店支援、お客様相談室など幅広い領域でマネジメント経験を積む。2025年7月11日にセブン‐イレブン・ジャパンを退職。以後は(株)Hands UP取締役としてZ世代メンバーの育成を支援。併せて執筆活動との二刀流。著名人のインタビュー記事を得意とし、ビジネス誌に数多く寄稿。著書に『鈴木敏文の遺言』(ビジネス社)、『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。コンビニで働く外国人たちと店主一家の23年』(飛鳥新社)。
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フリーライター 村尾 信一

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