Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/cc775a0d3f13a9cdaea5096de9c03f0ba81751c5
なぜコンビニで働く外国人店員が増えているのか。新刊『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。』(飛鳥新社)を上梓したフリーライターの村尾信一さんは「『人手不足を埋めるアルバイト』というイメージだけでは捉えきれない。彼らは複雑なレジ操作を日本人スタッフより早く覚え、店長や複数店舗の運営を担っている」という――。
【写真を見る】外国人スタッフはレジ打ちだけではなく、重要な仕事も担っている
■公共料金、宅配便も「覚えやすい」
「外国人スタッフに、あんなに複雑な仕事ができるのだろうか」
コンビニのレジを見て、そう感じたことはないでしょうか。商品の会計だけでも、現金、電子マネー、バーコード決済と支払い方法はさまざまです。公共料金の支払いや宅配便の受付まで加われば、覚えることは相当な量に見えます。
ところが、働いている本人に聞くと、意外な答えが返ってくることがあります。
筆者の新著『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。』に登場する、ネパール人留学生のラメス君(仮名)も、その一人です。本書には、こんなやり取りがあります。以下、引用はすべて同書からです。
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「公共料金とか、宅配便とか、インターネット商品の店舗受け取りとか、いろいろあるでしょう。分からなくならない? 全部覚えられる?」
ラメスは、あっさり答えた。
「一度教えてもらったら、すぐ覚えることができました。どれも同じようなレジ操作なので、覚えやすいです」
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■日本人とはレジ操作の覚え方が違う
ラメス君は、サービスが違っても、レジ操作には一定の規則があると説明します。画面上の配置と操作の流れをつかみ、手順として覚えていく。画面の日本語を一文字ずつ読んでいる日本人スタッフとは、覚え方が違ったのです。
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「日本人の私が覚えられないレジを、ラメス君が簡単に覚えるんだ?」
美咲が感心すると、ラメスは笑った。
「レジ操作は、慣れだと思います」
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もちろん、習得の速さには個人差があります。ただ、日本語がどれだけ流暢かということと、仕事の仕組みを理解する力は、同じではありません。日本語での受け答えに少したどたどしさがある。それだけで、仕事を覚えるのも遅いだろうと判断してしまうと、その人の能力を見誤ることになります。
そもそも、なぜコンビニで働く外国人が、これほど増えたのでしょうか。
■便利さと引き換えに増えたコンビニの仕事
「日本で暮らす外国人が増えたから」と考える方もいるでしょう。確かに、それも理由の一つです。しかし、私が見てきた現場では、その前に日本人の働き手が集まらなくなっていました。
2000年頃、新店のアルバイトを募集すれば、100人以上の応募が来ることも珍しくありませんでした。近所の高校生や大学生、主婦、フリーター。コンビニは、身近な働き先だったのです。
その後、店が担うサービスは増えました。レジや品出しに加え、公共料金、宅配便、チケット発券、ネット通販商品の受け渡し、ホットスナックの調理。お客様にとっての便利さが、働く人の忙しさや覚えることの多さにつながっていきました。
一方で、その仕事を通じて何が身につくのかは、外から見えにくいものです。単純作業の繰り返しに見えて、実際には複雑で忙しい。ほかのアルバイト先と比べ、魅力を感じにくくなった人も少なくないのだと思います。
ところが、留学生の目には、同じ職場が違って映ります。
■留学生にとっては日本を学ぶ絶好の場
学校や自宅の近くで探しやすく、授業のない時間帯に働ける。生活費を得ながら日本語を使い、日本の暮らしを学べる。その意味で、コンビニは魅力のある職場です。
2021年の東京五輪では、来日した海外の記者たちが、日本のコンビニの食べ物や便利さに注目し、好意的に発信したことが話題になりました。私たちが見慣れた店も、初めて利用する人には驚きの多い場所なのです。
小さな売場に食事や日用品がそろい、荷物を送り、支払いまでできる。季節ごとに商品が変わり、贈り物の予約も受け付ける。
日本語の言い回しだけでなく、いつ、誰に、どんな言葉を使うのかまで、仕事をしながら学べます。日本人には負担に見えるサービスの多さが、日本社会を知りたい留学生には、学ぶ機会にもなっているのです。
実際に共同通信が2024年5月に報じた集計では、大手3社だけで外国人アルバイトは8万人を超えています。
では、ラメス君にとって、本当に難しいことは何だったのでしょうか。
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「じゃあ、接客では何が難しいの?」
ラメスは少し考えてから答えた。
「商品のことです」
「商品?」
「次々に新しい商品が出てきます。でも、僕は商品のことを知らないので、いつも困ります」
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コンビニには多くの商品が並び、新商品も次々と入ってきます。日本人でも、すべてを把握するのは簡単ではありません。外国人スタッフには、さらに食文化の違いが重なります。
■パスタには箸? それともフォーク?
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「たとえば、おでんです」
ラメスは言った。
「お客様が指をさしてくれれば分かります。でも、がんも、つくね、さつま揚げと言われても、どれがどれか分かりません」
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日本人なら、子どもの頃から食卓や店先で目にしてきたものです。しかし、なじみのない環境で育った人にとっては、名前も見た目も、一つずつ結びつけて覚える必要があります。
さらに迷うのが、食べ物に添える箸やスプーン、フォークです。
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「それから、お昼ごはんを買ったお客様に、お箸、スプーン、フォーク、どれを付ければいいか迷います」
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パスタを箸で食べる人もいれば、フォークが当然だと思う人もいます。料理によっても、お客様の好みによっても、求められるものは変わります。
レジ操作には手順があります。しかし、お客様が口にしない期待まで読み取るのは、別の難しさです。機械を扱う力があっても、日本で長年暮らしてきた人の生活習慣まで、最初から分かるわけではありません。
コンビニ本部も、外国人スタッフ向けの研修を行ってきました。しかし、ラメス君の雇い主である、コンビニオーナーの坂本哲郎さんは、本書の中で、当時の研修について厳しい意見を述べています。
■本当に外国人店員に教えるべきこと
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「あの研修は意味がないですね。レジ操作や宅配便の受付を教える時間が、長すぎます」
「実務研修が長い、ということですか」
「そうです。あんなものは、覚える子はすぐ覚えますよ。彼らは頭がいい。日本に留学してくる子たちですからね」
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これは、日々外国人スタッフを教えていた坂本さんの評価です。当時の研修は、レジ機器の操作、宅配便、公共料金、ネット通販商品の店舗受け取りなど、実務に多くの時間を割いていました。作業を正確に覚えれば、接客にも余裕が生まれる。本部には、そうした考えがありました。
坂本さんが現場で感じていた課題は、別のところにありました。
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「もっと日本人の価値観や、文化、生活習慣を教えるべきです。彼らは日本の常識を知らない。そこを教えないまま売場へ立たせるから、お客様とぶつかるんです」
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外国人スタッフが増え、接客クレームが寄せられる。その時、原因を本人の日本語力や能力だけに求めてしまえば、教え方の問題は見えなくなります。
何をすれば、お客様に安心してもらえるのか。反対に、どんな対応が失礼だと受け取られるのか。日本人の間では説明せずに済ませてきたことを、言葉にして伝える必要があります。
ただし、日本人の価値観をどこまで求めてよいのか。本部の担当者がその疑問を口にすると、坂本さんはこう答えます。
■単なるレジ打ちでは認められないビザ変更
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「押しつける必要はありませんよ。日本では、なぜそうするのかを説明するんです。やり方だけを覚えさせるから、押しつけになる。理由まで伝えれば、彼らは自分で考えられます」
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仕事の目的や相手の期待を理解できれば、初めて出合う場面でも判断しやすくなります。言われた作業をこなす段階から、自分で考えて店を動かす段階へ。その成長を支えることも、教える側の仕事なのです。
経験を積み、店長を任せたいと思えるスタッフに育っても、そのまま正社員にできるとは限りません。外国人の雇用には、在留資格という条件があります。
「留学」は、学校で学ぶための在留資格です。アルバイトには資格外活動許可が必要で、通常は原則として週28時間以内。複数の職場で働く場合も合計して28時間以内です。学校が学則で定めた夏休みなどの長期休業中は、1日8時間以内という扱いになります。
ラメス君も、大学に在籍しながら、資格外活動として港区の店で働いていました。大学を辞めて本格的に就職するなら、仕事に対応した在留資格への変更が必要でした。
ただ、レジや品出しを行う正社員として採用するというだけでは、希望する在留資格は認められません。そこでオーナーの坂本さんが動きました。
当時、坂本さんは4店舗を一つの法人で経営していました。ラメス君に任せようとしたのは、4店舗の売上管理やデータ分析、スタッフ教育など、法人運営に関わる業務です。
■人手不足で見いだされた留学生の可能性
坂本さんは必要な手続きを調べ、入管とやり取りを重ねました。何度も足を運んで説明し、最終的にラメス君は、「留学」から「技術・人文知識・国際業務」への在留資格変更を認められました。
この資格では、実際の業務が専門的な知識などを必要とするものかに加え、本人の学歴や職歴なども審査されます。「店長」「正社員」という肩書を付ければ取得できるものではありません。
私が坂本さんの月次ミーティングを見学した時、集まっていた4店舗の店長は、全員が外国人でした。損益計算書や貸借対照表、予算計画の資料を広げ、オーナーと議論していました。
人手が足りず、留学生を採用する。仕事を教える中で、その人の得意なことや能力が分かってくる。任せる範囲が広がり、やがて店の経営について話し合うようになる。そこには、採用した時には見えていなかった可能性があります。
近所のコンビニに外国人スタッフが増えた背景には、日本人の応募が減った事情があります。しかしその先で、仕事を覚え、信頼を得て、責任ある立場を任される人たちも育っています。
レジの向こうにいるのは、日本語を学びながら働く学生かもしれません。あるいは、売上や人員配置を考え、店全体を動かしている責任者かもしれない。
「外国人店員が増えた」という一言の中で、その成長や役割の変化まで見落としてはいないでしょうか。
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村尾 信一(むらお・しんいち)
フリーライター
1967年大阪生まれ。龍谷大学経営学部卒。1995年~2025年の30年間、(株)セブン‐イレブン・ジャパンに勤務。オペレーション・フィールド・カウンセラー(OFC・店舗経営相談員)、ディストリクトマネジャー(DM・地区責任者)、ゾーンマネジャー(ZM・広域統括責任者/東北、北海道)などを歴任。多くの加盟店オーナーとかかわってきた。この他、販売促進部、商品本部、加盟店支援、お客様相談室など幅広い領域でマネジメント経験を積む。2025年7月11日にセブン‐イレブン・ジャパンを退職。以後は(株)Hands UP取締役としてZ世代メンバーの育成を支援。併せて執筆活動との二刀流。著名人のインタビュー記事を得意とし、ビジネス誌に数多く寄稿。著書に『鈴木敏文の遺言』(ビジネス社)、『店長、パスタに箸をつけたらお客様がキレました。コンビニで働く外国人たちと店主一家の23年』(飛鳥新社)。
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フリーライター 村尾 信一

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