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(2024.10.8〜12.29 83日間 総費用24万1000円〈航空券含む〉) 【画像】経済成長してもインドで路上生活者が減らない理由、“ヒンズー至上主義”とカースト制度の桎梏と矛盾
過半数割れでもヒンズー至上主義のインド人民党を熱烈に支持する人々
2024年4月〜6月のインド総選挙の結果、過去10年間破竹の勢いであったモディ―首相率いるインド人民党(BJP)の独走態勢にインド民主主義は待ったをかけた格好となった。前回の2019年の総選挙ではBJPは300議席を超えたが、今回は60議席減らして連立与党による政権維持を余儀なくされた。 2019年の総選挙の後、西インド・中央インドを歩いたが当時は熱烈なBJP支持者の若者の自信に満ちた声を数多く聞いた。(『ヒンズー至上主義とIT技術でインドは超大国になるのか』参照) 今回の南インド旅でも選挙で過半数割れとなったBJPを率いるモディ首相を根強く支持する声を数多く聞いた。やはりヒンズー・ファーストには根強い岩盤支持層があるようだ。 10月12日。1947年創業のムンバイのホステルは老朽化したビルの3階・4階にあった。現在のオーナーは3代目。初代の祖父は米国で長らく働いて資金を貯めて創業。オーナー氏はモディ首相の熱烈な支持者でパキスタンとイスラム教徒をテロリストとして否定する典型的なヒンズー至上主義者だった。 10月16日。ゴアのホステルの40代のマネージャーはバンガロール出身。中国の脅威に対抗するには“強いインド”であることが必須であり、ヒンズー至上主義の下でモディ首相が強い指導力を発揮することを期待。中国はチベットを占領して周辺国のパキスタン、ネパール、バングラディッシュ、ミャンマーさらにはスリランカ、モルジブにも影響力を浸透。パキスタン人はイスラム教学校“マドラッサ”で洗脳教育を受けているのでパキスタンはテロリストの温床と断言。 10月23日。ハンピのゲストハウスの40代の男性オーナーは国民会議派を批判。有力なリーダーであるラーフル・ガンディーはガンディー・ファミリー出身というだけで政治家の資質がない。国民会議派はインド独立以来イスラム教徒など非ヒンズーとの協調を重視してヒンズーを軽視した。社会主義的経済を続け外資参入を阻みインド経済を停滞させたと痛烈に批判。就任後10年間でインド経済を急速に発展させたモディ首相の実績を手放しで賞賛した。
インド社会の分断を懸念する『ヒンズー至上主義への批判』
10月24日。ムンバイ近郊のプネ出身のIT技術者の若者は、行き過ぎたヒンズー至上主義はインド社会の分断を生むと懸念。インドの人口の20%は、非ヒンズー教徒であり、人口の半分近くがイスラム教徒という地域もある。ヒンズー至上主義は、多数派のヒンズー教徒に対する求心力にはなるが、非ヒンズーの人々を排除すれば、インド社会が分断して弱体化すると懸念した。 彼と同様の意見は何人もの人から聞いたので総選挙でBJPが過半数割れとなったのも頷けた。
IT企業の若手経営者が語る起業家の現実とモディ政権批判
10月27日。ムンバイ在住の32歳の従業員約30人のIT企業の経営者。法人税率30%、従業員給与20%、自分の報酬10%。利潤の40%は政府に徴収されており税負担が過重と批判。さらにGST(消費税)が12%に引き上げられインフレも激しいとモディ政権の経済運営を批判。 彼は国民会議派支持者。国民会議派が社会主義的経済政策を続け、外資導入を規制したため、インド経済が長期に停滞低迷していたことを筆者が指摘すると「国民会議派は様々な中少数政党・諸派の寄り合い所帯なので、政権基盤が弱く思い切った外資導入政策は取れなかった。モディ首相はヒンズー至上主義により、政権基盤を固めることができたので、外資導入など急進的政策で経済成長を実現した。しかし経済成長の恩恵は一部の金持ちに偏りインド社会では“貧富の格差が拡大”」と指摘。
急激な経済成長にもかかわらず路上生活者は減っていない
筆者にも“35〜36年前と比較して、過去10年間でインドにおける路上生活者は減っていない”ように思われる。この点についてインド人に聞いてみたが、ほぼ全員が同じ印象を抱いていた。 背景には以下のようなメカニズムがあるらしい。経済成長から取り残された都市や町の貧困層が路上生活者になる。経済成長により豊かとなった都市や町に農村部から貧困層が生活の糧を求めて移動。そして都市や町の最下層の生活から路上生活者に転落する。こうして経済成長にも関わらずインドの路上生活者は減らないという。 やはり他の途上国と比較して根本的な違いは、カースト制度下の下層身分階層の存在だ。彼らには単純労働的職業しか選択肢がなく、低所得に甘んじるしかない。彼らの子どもの教育水準は低いままである。貧困のサイクルから脱却できないのだ。
ヒンズー教の根本であるカースト制度の桎梏が阻む社会改革
11月20日。ケララ州のコーラムのホステルで37歳のイスラム教徒の女性研究者と会った。彼女は「温暖化による海面上昇が地域共同体に与える影響」を調査するために逗留していた。 イスラム教徒の彼女は、カースト制度の問題点を客観的かつ論理的に指摘した。カースト制度化では、たとえ改宗しても地域共同体では元のカーストの扱いを受ける。つまり、故郷を捨てて移住しない限りカーストからは逃れられない。 彼女は投宿していたホステルのあるムンロー島の歴史秘話を、参考として教えてくれた。19世紀の英国植民地時代に同地方を統治していた藩王は、ムンロー島のキリスト教会にムンロー島を教会領として与えた。その後、ムンロー島は底辺のカーストの人々が逃げ込んでキリスト教に改宗する“駆け込み寺”となった。こうして逃げ込んだ人々は教会領の領民となった。 現代でもヒンズー社会では下層カースト、不可触賎民(untouchable)は職業などで差別を受けている。インドの政治家は1947年の建国以来、こうした下層階級に対して補助金を支給してきた。下層階級は補助金を受け取るためにカースト的差別を甘受してきた。政治家は補助金というギフトを給付して、選挙では下層階級から莫大な投票を集めてきた。こうして独立後もカースト制度は政治的に利用され維持されてきたという。
カースト下層階級保護制度が“逆差別”や“行政の腐敗の温床に”
女性研究者の話を聞いていたバラモン(カースト最上位の祭司階級)出身の学生から、意外な観点から下層階級保護制度(affirmative action)に対して批判があった。彼によると生活補助金の支給だけでなく、下層階級出身には大学受験で試験の点数に“下駄をはかせる”制度があり、さらに奨学金を優先的に受ける権利が与えられているという。 現代ではカースト上は下層階級でも巧みに蓄財して富裕層になっている家庭もあり、登録された身分だけで保護制度を一律に運用するのは、カースト上位階層への逆差別にあたると批判。彼自身の家は経済的には貧困層に近いが、バラモンなので奨学金申請は却下されたと憤慨していた。 他方で大学受験・公的機関の就職で有利になるように高いカーストの人間が役人に賄賂を払い、低いカースト出身者として受験することも少なくないという。こうして下層階級保護のための割当枠、点数の上乗せ、奨学金の優先は悪用されているようだ。
ヒンズー社会では結婚するにもバラモンの許可が必須
12月4日。コーチンの旅行会社勤務の22歳のヒンズー女性によると、カースト上の身分は地元の町や村の地域共同体で管理して役所に届けるので変更は不可能。ヒンズーから改宗しても地域に居住する限り変更できない。 地域共同体ではカースト上位の長老たちが寄り合いで祭事、農事など重要事項を決定する。そしてカースト制度を維持するために、重要な結婚の認可も寄り合いで決議される。こうしてヒンズー社会の根幹を成すカースト的秩序が維持される。 異教徒との結婚や異なるカースト間の結婚は認められない。地域共同体の認可を下に地元警察署の所長が公式文書として結婚許可証を発行する制度なので、バラモン長老たちの同意が必須なのだという。 ちなみに約10年前に筆者がインド北部で知り合った日本人女性とインド人青年のカップルは、地元共同体の認可が下りず苦慮していた。青年は地方の村落の出身で異教徒の外国人である日本女性と交際していること自体が地元民の反感を買ったようだ。とても長老たちの賛同は得られない状況だったらしい。結婚許可証がなければ日本でも婚姻関係が認められない。窮余の策として高額な弁護士費用を負担して裁判所に結婚許可申請することを検討していた。
ヒンズー至上主義の下での教育現場や職場における異教徒と女性への差別
上記のイスラム教徒の女性研究者は、大学院で博士号を取得して同じ大学で既に10年近くの研究実績があるが、教授のポストは限りなく遠いという。 国公立大学ではBJP政権になり、過去10年に政府から任命された最高幹部はヒンズー至上主義者が大半で、次第に異教徒の研究者には不利な状況になってきたという。ヒンズー教では異教徒は下層カーストに位置付けられており、非ヒンズーは評価、昇進、予算配分などで差別されている。ヒンズー社会では伝統的に男尊女卑思想があり、イスラム教徒女性研究者である彼女は二重の差別を受けていると嘆いた。 上記のコーチンの旅行会社勤務の女性は、大学で土木工学を専攻したが女子学生は現場実習に参加できず、代わりに製図作業を命じられた。就職しても女子は現場監督になれず、外部に触れない室内での製図などを担当することになる。将来を悲観した彼女は、専攻を土木工学から経済に変更した。彼女はヒンズー至上主義がインドを席捲すれば、ヒンズー女性も活躍の場が限定されると訴えた。 モディ首相は、現代インド社会に適合するように行き過ぎたヒンズー至上主義を修正せざるを得ないだろうと、筆者は今回の南インド旅で感じた次第。 以上 次回に続く
高野凌
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