Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/98f1ec1723258af7bb964411acbbe870a401682d
■お盆も歌舞伎町に客足は戻らず 新宿歌舞伎町が初めて迎えるコロナ禍の夏休み。かつては8月13日~16日のお盆の期間中でもにぎわう歌舞伎町だったが、やはり客足は戻らない、いや、お盆前に比べれば人出そのものは増えている。街を歩く人にごく若い子が増えたように感じるが、これは毎年のこと。夏休みは興味本位な若者たち、学生はもちろん中高生、家出少女に至るまで、歌舞伎町デビューの季節でもある。 【この記事の画像を見る】 イケメンのキャッチ(おそらくスカウトでもある)に店に来ないかと声をかけられてまんざらでもない二人組の女の子、目いっぱいのおしゃれをしているが垢抜けない田舎の高校生といった感じ。スカウトの連中は未成年でなければ(未成年であっても時には)容赦なく食い物にする。キャッチとスカウトの仕事の境界は実際には曖昧で、キャッチといっても相手と場合によってはスカウトにもなるしその逆も然り。一見かわいらしいキャッチの男の子がスカウト行為で何人もの女の子を風俗に落として食っていたりする。そして彼らにとって夏休みは仕入れの季節でもある。
■コロナより欲望を追う人たち 夜11時、大型ディスカウントストアに立ち寄る。アダルトコーナーにロングヘアの美少女、顔はまだあどけない。アダルトグッズを持ってレジへ。この店では恥ずかしい人用に最初からラッピングされたものと男らしく(? )扇情的なイラストと文言をむき出しのままで売っているおもちゃがある。彼女が選んだのは後者。まして袋はいらないと会計を済ませ、むんずとアダルトグッズを手に持ったままドンキの階段を降りていく。 なかなかすごい光景だったのであとをついていくと外でサラリーマン風の小さいおっさんが待っていた。おっさんはニヤニヤしながら彼女をからかっている様子。アイドル顔負けの女の子とナイロン製の大きなビジネスバックを下げた小さいおっさん、見るからにアンバランスな二人はそのまま旧コマのネオンに消えていった。パパ活なのかなんなのか、こんな不自然過ぎる年の差カップルを他にも何組か見かけた。彼らにとってはコロナより性欲。彼女たちにとっては金、あるいは好きな男(ホストが多い)のためか。 何もそんなことをしなくてもという普通の女の子、それもみんなかわいらしい子だ。若くてかわいい子しか買い手はつかないし売れない。疫禍が長引くほど高クオリティの少女が落ちてくる。象牙の塔で社会正義を振りかざしたって、これが市井の現実である。 ■居酒屋の売上達成率は28%、それでもマシ 多くの店は10時には閉める協力体制をとっているが、現実には守っていないところも多い。「10時で閉店させていただきます」と書かれていても終電までは営業していたりする。非常にアバウトだが大手カラオケチェーンやネットカフェ、風俗店も多くは協力要請を無視している。あくまで「お願い」であり、「守るが阿呆」とまでは言わないが、夜10時に閉店するカラオケ店なんて食っていけるわけがない。もらえる協力金も世界有数の商業一等地に構える新宿の店舗にとってははした金だ。 コロナ禍の歌舞伎町、本当に世界有数の歓楽街は寂しい街に変わってしまった。 「見てくださいよこれ」 知り合いの居酒屋店員が半笑いでレジの画面表示を見せてくれる。売り上げ達成28%。 「これじゃやってけませんよ、池袋(の支店)もだめ、渋谷(の支店)が少しましかな、とにかくヤバいです」 売り上げてるほうだな、と思った。私が見せてもらった他の居酒屋は売り上げ達成12%だった。ランチの弁当はそれなりにさばけたそうだが、みなこれでは時間の問題だ。 ■歌舞伎町でボッタクる黒人集団 「なにあれすごーい」 自転車に空き缶を満載したおじさんを笑うあどけないカップル、夏休みデビューで新宿に来た口か、彼はよく知られた御仁で歌舞伎町の風景でしかない。物珍しさと好奇心なのだろうが、痛い目を見る前に帰ったほうがいい。男といたってこの街は運が悪けりゃ一生後悔する目に遭う。 「アニキ今日はどこ行くの」 長引くコロナ禍でホストすら最近しおらしいのに黒人の集団は元気いっぱい。アニキとは別に私が偉いわけではなく、まあ「ブラザー」のようなもの。 「いつかトーゴ行こうアニキ」 彼の故郷はトーゴ。他はガーナやナイジェリアもいた。歌舞伎町の西アフリカ連合とでも言うべきか。なんだかワールドカップのアフリカ予選みたいだが、歌舞伎町で黒人集団は以前から一大組織を形成している。トーゴ、行ってはみたいが彼とは行きたくない。きっといろんなものを運ばされる。そして間違っても彼らのお店にもついていってはいけない。彼らはこう見えて仕事は真面目、しっかりボッタクる。 「ネパール帰ってもね、仕事ない、お金安い」 対して別の店ではネパール人のウエイターがしょんぼりとつぶやく。この辺、アフリカ人より同じアジアの繊細な感覚のほうがしっくり来る。勝手に店先で吐く泥酔した小娘二人に「ここは困るよ」と言いながらもポリバケツを置いてあげるナイスガイ。本当に愚かな日本人が、申し訳ない。東京都のネパール人は2万5184人(2020年7月1日時点、東京都人口統計課調べ)で5番目に多く住む外国人である。区役所通りは真夜中でも中国語とハングルで注意喚起の放送などが大音量で流れるが、ネパール語を流したっていいくらいだ。私はネパールが中国とインドという大国に負けず、シッキム(シッキム王国)やカシミール(シク王国)のように消えずに独立を守ってきたことを尊敬していると話す。何度もうなずき涙ぐんでいる。里心を刺激してしまった。本当に申し訳ないので注文を多めにする。
■稼げないホストの悪質な行動 「ライン教えてください」 もう夜が明けるというのにキャッチの兄ちゃんはあいかわらず女の子に声をかけている。夏休み、1人でも引っかかれば儲けもんだ。もちろん多くは歌舞伎町の女、無視することには慣れっこだ。 「ライン教えてよ、ラインだけでいいから」 こんなあやしい兄ちゃんに一方的にまくしたてられてラインを教えるバカがいるものかとも思うが、「え~」と野暮ったい服装の女子二人組が照れくさそうにスマホとスマホを突き合わせている。かわいそうに、ラインだけで済めばいいが、ひと夏の代償は高くつきそうだ。最近、追い詰められたホストの女に対する暴力もよく耳にするようになった。これまでもあった話だがより悪質で増えているという。歌舞伎町で稼げないホストは人間未満、そんな連中が追い詰められて女を死ぬまで追い詰める。拷問に近い話もある、これから事件化するだろう。 ■やる気のない立ちんぼたち 「お父さんマッサーどうですか」 声をかけてくる立ちんぼも少ない。一番街の連中などやる気が無いのかちょっとした取り締まりがあったのか突っ立ってるだけ。夜中の3時、路地で中国人からやっとお声がかかったが、どこから来たのかと聞くと香港人だという。タイムリーな営業だ。彼女、李登輝元総統死去のときには台湾人だったかもしれない。端から疑うな、かわいそうだと怒る純粋な方々もいるかもしれないがいつもの手口なので心配しなくていい。彼女たちは生きるに必死なだけだ。 東口駅前広場には終電を待って一眠りの若者とホームレスとが路上で大の字になって熟睡中。大都会をベッドに気持ちよさそう。この光景、ある意味現代アートというべきか。 夜が明けるころ、コンビニのATMにスタイルの良いショートカットの女の子、外には漆黒のGクラス、女が金を渡すとGクラスは走り去った。なにやら入り用の男に用立てたというところだろう。これから仕事なのか家に帰るのか、何者かはわからないが女の子の背中が寂しい。歌舞伎町で金になるのは女だけ、本当に女で食える連中はホストなんて面倒なお勤めなんかしない。一度捕まったら最後、風呂に落ちても男に貢ぐようになる。
■羽目を外すサラリーマンもいなくなった 「IT関係です。今日は夜勤だったので」 大久保病院の横道を駅に急ぐ男性、やっとクールビズ姿のサラリーマンに会えた。コロナ禍の歌舞伎町で一番見かけなくなったのがスーツ姿のサラリーマンである。クールビズになっても以前に比べれば少なく、深夜に至ってはほとんどいない。かつては、仕事帰りはもちろん、終電、いや朝まで遊ぶサラリーマンで溢れていた。歌舞伎町は彼らの散財で持っていたようなものだ。もちろんお盆ということもあるが、それ以前からコロナの影響によるリモートワークや歌舞伎町のクラスターに端を発した、行き過ぎた風評被害などから羽目を外すサラリーマンの姿は消えた。 またサラリーマンとともに見かけなくなったのが外国人観光客、あからさまに団体で小旗の後ろをついていく姿、ドンキ詣でに自撮りする姿などは見る影もない。歌舞伎町のホテルにはこうしたインバウンドと東京五輪を見越して建てたホテルも多い。こちらなど夏休み、お盆だというのに観光客がほとんどいない。いま歌舞伎町には街の関係者を除けばごく一部のやんちゃな若者くらいしか来ない。遊興客と観光客頼みの大歓楽街で、これは絶望的だ。 ■職安通りを挟んだ大久保界隈は大盛況 夏休みの歌舞伎町はお盆休みに入っても絶望的な状況が続いている。場所によっては一見人出は戻っているように見えるが、肝心のお金を使ってくれる観光客はごくわずか、朝になるとパチンコ店の行列が旧コマ前を100mほど連なったが、同じ風評被害でもパチンコは強い、彼らは歌舞伎町だろうがなんだろうが出玉しだいだが、多くの人々はコロナクラスターのイメージが植え付けられた歌舞伎町を避け続けている。 一方、職安通りを挟んで大久保界隈は大盛況、時間によっては新大久保駅まで歩くのに難儀するほどの人混みだ。第4次韓流ブームの影響もあるのだろうがコロナ禍でも夏休み、客足は戻っているし、サムギョプサルが人気の韓国料理店の店長曰く「もう予約も断るくらいいっぱい」だそうで実際に店内ひっきりなしの満員御礼。通り一本だというのにこの差、よってたかって悪者にされ続けた「歌舞伎町」連呼による風評被害は甚大だ。 「歌舞伎町だけ悪者にして、お客さん来ない、ひどいね」 ネパール人青年がつぶやいたこの言葉――特定業種、地域をいけにえにしたパフォーマンスでごまかし続ける都庁の女帝はどう受け止めるのだろうか。 ---------- 日野 百草(ひの・ひゃくそう) ノンフィクション作家 本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社勤務を経てフリーランス。2018年、評論「『砲車』は戦争を賛美したか 長谷川素逝と戦争俳句」で日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞を受賞。近刊『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社)寄草、近著『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。 ----------
ノンフィクション作家/ルポライター 日野 百草
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