Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/408fa2ba30b90fd0c9180463d624fbbff2289b03
2020年上半期(1月~6月)、文春オンラインで反響の大きかった記事ベスト5を発表します。ビジネス部門の第5位は、こちら!(初公開日 2020年月日)。 * * * 日本を訪れる外国人観光客は、いまや年間3000万人を超え、街の景観のみならず、我々の社会のありようを変えつつある。訪日外国人の旅行消費額は年々増え、年間4兆5000億円超という観光庁の統計も出ているほどだ。訪日外国人の増加は国内にさまざまな経済効果をもたらすと考えられ、現在に至るまで数多くの誘客施策がとられている。 しかし、外国人観光客の数的拡大はいいことづくめなのだろうか。観光公害やオーバーツーリズムという言葉を聞く機会も増えてきた。2020年、政府は訪日外国人数4000万人という目標を掲げていたが、今年は新型コロナウイルスの影響で壊滅的な打撃を受けそうだ。それでも、日本はこれからも観光客誘致を続けるべきなのか……。 インバウンドについて考えを巡らせる手助けの一つとして、前編では『 間違いだらけの日本のインバウンド 』で取り上げられる、クルーズ客船で日本を訪れる中国人の姿を紹介する。 ◇◇◇
東シナ海は中国人のためのレジャーの海に!?
中国人観光客の増加にともなう問題は海の上でも起きていた。 いまや東シナ海は中国人にとってのレジャーの海になっているかのようだ。 そういうと、なかには胸騒ぎを抑えられない人もいるかもしれない。だが、今日、九州の博多港や長崎港などへの中国発クルーズ客船の大量寄港ラッシュをみるかぎり、それは現実のものとなっている(※2020年1月27日以降、新型コロナウイルスの影響で中国発クルーズはストップしている)。なにしろ2016年には博多港に過去最多の328回ものクルーズ客船が寄港した。その大半が中国発である。実際には、1日2隻寄港するケースもあるが、年間を通してほぼ毎日のようにクルーズ客船が訪れている計算になる。 中国発クルーズ客船の博多港寄港は2008年に始まる。初めて寄港したのは、ロイヤル・カリビアン・インターナショナル社(米)の客船だ。同年4月に大型客船「ラプソディ・オブ・ザ・シーズ」が初入港した際は、歓迎式典が行われている。つまり、中国人の東シナ海クルーズ旅行の火付け役は、欧米のクルーズ会社だった。彼らがこの市場に商機があるとみて参入し、結果的に大盛況となったのだ。
博多に急増する中国人観光客
博多港は上海港から約900km、釜山港から約200kmと、中国・韓国の主要港と近接しているため、日中韓3か国をめぐる5日間のショートクルーズの主要目的地として選ばれたのだった。仮に大阪や横浜に行きたくても、そこまで距離を延ばすと5日間のクルーズが成立しない。ではなぜ5日間なのか。中国の消費者にとって日程的に参加しやすく、ツアー代金も手頃に抑えられる範囲だからだ。 福岡で中国発クルーズ客船の話題が盛り上がったのは2010年。上海万博の年で、全国で中国人観光客の「爆買い」現象が話題になり始めていた時期と重なっている。 当時の様子を伝えるこんな記事がある。 九州に寄港する中国発のクルーズ船が急増している。7月から中国人の個人観光ビザの発給用件が大幅緩和されたことも追い風となり、割安な船旅で海外旅行を楽しむ中流層が増えているためだ。しかも旅の主目的は「お買い物」。不況が長引く日本にとって、一隻につき数千人規模で押し寄せる中国人観光客は、まさに“宝の山”。自治体も民間も、あの手この手でクルーズ船の寄港先争奪戦に奔走している。 「クルーズ船急増 買物中国人 福岡席巻」(東京新聞2010年8月13日)
大量寄港は日中双方が歓迎したが……
中国のクルーズ客は、早朝に博多港に上陸後、福岡市内にバスで繰り出す。夕刻には出航しなければならないため、上陸時間は長く見積もって8時間。その間、訪れる場所は、太宰府天満宮と福岡タワー、ショッピング施設のキャナルシティ博多が定番だ。大型客船だけに、1隻2000人以上の乗客がいるため、1日2隻寄港する日は、100台以上のバスが福岡市内を駆け回ることになる。 これだけクルーズ客が増えたもうひとつの理由は、受け入れを歓迎する日本側の施策にある。2015年1月の入国管理法の改正によって外航クルーズ船による外国人観光客の入国審査を簡素化する船舶観光上陸許可制度を進めたことだ。これにともない、中国人観光客の免税手続きの際に必要な旅券に代わるものとして「船舶観光上陸許可書」が認められることになった。日本側は中国客の「爆買い」を期待しての措置だったわけだが、中国側もそれを歓迎し、大量寄港につながったのである。このこと自体は、国際親善の観点からみて誰にも責められないことだと思う。 ところが、話がそれで終わらないところが、日本のインバウンドのリアルな現状というべきか。読売新聞「クルーズ船訪日客 失踪相次ぐ 福岡・長崎」(2016年9月26日)は、以下のように報じている。
クルーズ船を利用して密入国を狙うケースも
観光目的のクルーズ船で入国した外国人が船に戻らずに失踪するケースが、福岡、長崎両県で2016年1月から今年8月末までに計34人に上ったことが両県警の調べでわかった。クルーズ船に対応するための簡略化された入国手続きを悪用、不法残留しようとした外国人もみられ、関係機関は警戒を強めている。 同記事によると、34人の内訳は「中国人31人、ネパール人2人、フィリピン人1人」。クルーズ客船には通常は乗務員として1隻平均約1000人の外国人クルーが働いており、中国人以外の失踪者は乗務員と考えられる。2016年にクルーズ客船で日本に入国した外国人は約200万人だったが、その半分以上は博多港からの上陸者であったことから、31人という数をどう考えるかは意見が分かれるかもしれない。 その後、11月になって一部のクルーズ客失踪者が兵庫県の山あいのキノコ園で不法就労していて逮捕された。これは、言うまでもなく、クルーズ市場の制度の裏をついた密入国である。興味深いのは、不法就労する彼らが船上でスマートフォンを手に中国版SNSのウィチャット(WeChat)で日本国内のブローカーたちと連絡を取っていたことだ。不法就労が多発した1990年代とは、通信事情という面でも隔世の感がある。それが可能となるのは、在日中国人という受け皿があるからだ。 ( #2 へ続く)
中村正人
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