2019年4月9日火曜日

日本語学校と留学生と企業、互いに利用し合う「危険な三角関係」の実態

Source:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20190405-00198743-diamond-soci
4/5(金) 、ヤフーニュースより

● 日本語学校が企業に学生を“斡旋”

 日本語学校と地元企業とアジア人留学生が、なんとも危ない経済構造を作り上げている。日本語学校は留学生にアルバイトを斡旋し、地元企業は喜んで雇用する。一見すれば“三方ヨシ”だが、これほど危険な“均衡”はない。

 ここで取り上げるある地方都市の日本語学校(以下、X校)は、「職業紹介所」と呼んだほうがその実態に合っているかもしれない。これだけアジアからの人材に依存をしている日本で、X校のような日本語学校は一つや二つではないだろう。X校で教員をしていたという田中勇さん(仮名)が赤裸々に語った。

 日本語学校には、たいてい留学生にアルバイトを斡旋する専門の課がある。X校で日本語教師を務め、半年ほどがたったある日、田中さんは同課の職員から「学生のアルバイト先と内容を把握しておいてください」と「アルバイト先リスト」を渡された。その表には担当するクラスの留学生の氏名、学籍番号、電話番号、就業場所の情報が克明に書かれていた。学生がアルバイトをいくつ掛け持ちしているかも一目瞭然だ。

 学生のアルバイト先は、食品や食肉工場、物流センター、クリーニング工場、ホテル、飲食店など広範囲に及んでいる。腰を痛めるホテルのベッドメイキングは労働の担い手がおらず、もはや外国人の労働者なしには立ち行かない産業となった。ホテルのシーツや寝具、タオルなどのリネンの洗濯を請け負う大型クリーニング工場でも、仕事の担い手は外国人だ。運送業の倉庫での仕分け作業も、外国人の働き手を欲しがる。荷物のタグは数字化されているので、漢字を知らない彼らでも対応できるしくみが出来上がっている。

 そんな企業群に、学校が組織的に留学生を送り込んでいるのは、疑う余地もなかった。
 田中さんは、学校と企業に“暗黙の了解”があることに気づく。地元企業は、日本語学校から送られてくる“貴重な人材”なしでは事業が成り立たなくなっていること、それら企業は日本語学校にとってある意味の“優良企業揃い”だということだ。田中さんが言う。

 「入国したばかりの学生を企業に連れて行っても、企業はろくな面接もしません。けれどもそれが日本語学校にとっての“いい企業”なんです。逆に面接をして『日本語ができないからうちでは雇えないね』と拒否されてはヤブヘビになる。何も言わず黙って学生を雇ってくれる企業がなければ、学生も学校も干上がってしまうのです」

 日本では、留学生がアルバイトできるのは、1人当たり週に28時間以下と定められている(入国管理法施行規則第19条)。ちなみに、平成30年度の地域別最低賃金の全国平均は874円だ。これに基づいて計算すると、1日4時間、1週間で28時間働いたとしても、2万4472円、ひと月4週間とすれば10万円にも満たない。これでは次年度の80万円近い学費を支払うどころか、食いつなぐのもままならない。

 留学生は生き残るために、2つ3つと自分でアルバイト先を増やさざるを得ない状況に陥る。入管法の規定に基づけば、学校側が正式にアルバイトを紹介できるのは「週28時間」の枠内であるが、学校側は見て見ぬふりだ。

● 学校経営維持のために働かせる一面も

 学生の財布の中身まで目を光らせる――これもまた、職員の重要な任務のひとつだ。学生課の職員は、学生のアルバイト先の給料日はもちろん、振込か、現金かの支払い方法、学費はどのような手段で支払うのかに至るまで、詳細な把握が求められる。面談をして学生をランク分けするのも仕事のひとつだ。

 「2年生への進級前に学費の締め切りがあるのですが、その時点で学費を納められる可能性の低い学生を一斉にリストアップします。そして面談を行い、学費を期日までに納められるかどうか、納められない場合は、どのようにして工面するのか、親から送金してもらうのか、友達から借りるのかなど、1人ひとりにヒアリングを行うのです」(田中さん)
学費納入は新学期が始まる数ヵ月前が期限となるが、中には期日が過ぎて学費を納められなかった学生もいる。こうした学生は、3月まで授業を受ける資格がある状態であるにもかかわらず、教室の中には入れてもらえない。

 X校にはAクラスからTクラスまであったが、学費を納められない学生は『Zクラス』に入れられた。場所は職員室の一角にしつらえた臨時のスペースで、全職員が彼らを監視の対象にした。Zクラスから普通のクラスに戻るには、来年度の学費を完納するしかない。

 一方で、田中さんは職員室で同僚の教員が学生に“取り立て”の電話をしている声を何度も耳にした。

 「学費はいつになったら払えるの?お金がない?それなら友達から借りて(学費を)払いなさい――。語気こそ荒くないもの、消費者金融の取り立てのような話しぶりにはさすがに驚きました」(同)

 アルバイト先の給料が現金支給の場合、学校側は給料日の翌日に学生に給料を持ってこさせ、1万円ほどの最低限の生活費を学生に与え、残りをすべて回収する。学費分の現金が貯まると、学校側は学生を銀行に連れていき、直接学校の口座に振り込み手続きを行う。

 「このとき、学生の口座にいったん入金してから学校の口座に振り込むのは厳禁です。なぜなら、学生の口座に現金を入れてしまうと、即、携帯電話会社から滞納分が引き落とされ、学費が確保できなくなってしまうからです」と田中さんは話す。

 それでも学費が払えない学生もいる。もはやその場合は「翌日の飛行機に乗せて強制的に帰国させるしかない」(同)という。

● 専門学校もどんどんハードルを下げる

 日本語学校のみならず、「教育」どころではない専門学校もある。十分な専門知識を教育できていない学校もあるのだ。ITの専門学校で教えていた経験を持つ中村健一(仮名)さんは、当時を振り返ってこう語る。
 「留学生1人につき1台のパソコンで授業を進めましたが、『ここをクリックして、ファイルを開き――』という作業がまるでできませんでした。ベトナムやネパールではスマートフォンが先に普及したというのも一因ですが、彼らは日本語学校で『読み書き』を習得していないので、日本語のPC解説書が読めないのです。そんな彼らにOSの基本操作を教えるのは至難の技でした」

 IT教育をうたう専門学校には、マイクロソフトの「オフィス」の操作を学ぶ授業のほかに、マーケティングや情報リテラシー、オフィスライティングなどの科目もある。だが、ほとんどの学生は日本語学校ですでに『読み書き』の勉強から脱落しており、専門学校での授業についていけない。

 結果として、学校側が譲歩せざるを得ず、授業内容や学期末テスト、単元テストは信じられないほど簡単な内容になっていく。

 「ワードやエクセルの使い方も授業のひとつですが、“コピペ”のやり方が授業内容だったりするときもあります。テストの内容は『自分の名前と学籍番号を保存しなさい』というところまでレベルを下げました。けれども、これすらできない。留学生1人ひとりに『あなたの名前はこう打つんですよ』と教えていたら、授業時間がいくらあっても足りません」

 専門学校で学んだIT関連の知識や技能も、職業レベルでは使い物にならず、またエントリーシートを書く力もなく、日本語能力試験のN3にすら合格していない状態の学生には面接の機会すら与えられない。

 かろうじて、入国当初から続けていたアルバイト先で正社員へのステップアップがあるものの、そもそもこれは専門学校での勉学が評価されたわけではない。だが、中村さんが在籍していた専門学校では、そうした生徒をあたかも「学校で努力して勉強して夢を実現させた学生」であるかのように、学生募集に利用する。
● 悪循環を断ち切れず犯罪に向かう留学生も

 もとより留学生たちは「金を稼げる」とブローカーに吹き込まれてやってくる。集まったのは、真面目に勉強しようなどという動機を持たない学生たちだ。いつしか学生にとっての学校は「仮眠を取りに行くところ」となり、前出の専門学校では、一時は堂々と枕を抱えて登校する姿も見られた。

 さすがに今では、監視カメラが設置され授業巡回が行われるようになり、居眠りや逸脱行為をする者は減った。だが、構造そのものは変わらない。

 学校は留学生の給料日を待ちわび、企業は“黙って働く留学生”を喉から手が出るほど欲しがっている。そして、雇う側も雇われる側も、そして学校側も、互いにボロが出ないように「知らぬ、存ぜぬ」を決め込むのだ。

 校内では依然、定員を満たすためのノルマが存在し、数を満たせばよくやっていると評価される体制が続く。抜本的な改革の声が上がらない中で、とうの昔にクラスは崩壊し、失踪者が続出し、日本語能力試験合格者はわずか数名といった状態が当たり前になってしまった。失意のもとで去っていく職員は数知れない。

 だが、それは“結末”ではなく“始まり”だった。田中さんは留学生にとっての“次の段階”を示唆する。

 「在留カードの偽造が増えるのは、在留カードの記載内容すらきちんと確認しない企業が多いから。留学生が日本国内で暗躍する組織的犯罪グループの手先になってしまうのは、アルバイトを掛け持ちしてもカネにならないことを知ってしまったから。すでに、ドラッグの密売に手を染める留学生も出始めているのです」

 日本語学校や専門学校、そして地元企業とアジア人留学生がつくる負の連鎖は、もはや取り返しのつかないところにまで、その領域を広げている。

 (ジャーナリスト、アジア・ビズ・フォーラム主宰 姫田小夏)
姫田小夏

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