Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/5fcdf8a05f7b9e287a32cd0067bd835109cded88
東京に本拠を置く国際人権NGOヒューマンライツ・ナウ(HRN)は10月16日、サプライチェーンにおける強制労働の疑いについての報告書を発表。スポーツ自転車部品で世界トップシェアの株式会社シマノの事例を取り上げ、強制労働によって生産された製品の日本国内への輸入規制が必要だとして、提言を行った。
高額な借金、抱えたまま強制労働
報告書では、マレーシアのKwang Li Industry(KLI)で働く移民労働者への人権侵害が取り上げられた。 移民労働者から身体的虐待や脅迫、違法な給与控除を受けているとの苦情を聞きつけた、国際人権活動家のアンディ・ホール氏らは、そのプロセスでKLIの主な顧客が日本のシマノであることに注目。 シマノは自転車部品の製造、販売などを手がける会社でグローバル市場では、約70%のシェアがある。サプライチェーンは30か国以上に広がり、大部分の拠点がアジアとなっている。同社は、KLIから部品を輸入していた。 新型コロナウイルスの流行により、娯楽や移動目的での自転車需要が増加すると、KLIはネパールや、バングラデシュからの移民労働者を募集。251人のネパール人移民労働者の募集・斡旋を行うことでWorldways Manpower社と合意したという。 報告書では、マレーシアでは、さまざまな産業分野で約200万人の移民労働者が働いており、そのうち約30%が強制労働や人身売買など何らかの搾取をうけているとの報告もあるとされている。KLIにおいても同様の搾取が行われ、労働者から苦情があがったという。 ネパールやバングラデシュといった国から移民労働者となる人は、低学歴に加え、国内での就職可能性も低く、国外移住が推奨されるなど、国内で弱い立場にある。 さらに、こうした移民労働者の移住に対する期待感を利用し、高額な手数料・あっせん料で利益をあげている違法な人材あっせん業者の問題もあるという。 実際、KLIで働く多くの労働者たちも2000ドルから3000ドルのあっせん料・手数料を人材あっせん業者に借金で支払っており、それらの返済のために借金を抱えた状態で働くことが求められた。 ところが、新型コロナの流行が落ち着き、自転車需要が下がり始めると、KLIは賃金の削減や事業の縮小を実施。 この影響で、移民労働者のなかには退職届を書くよう強要され、賃金を稼ぐことができず、借金を抱えたままの帰国を余儀なくされた者もでてきたという。 ほかにも雇用主や政府関係者からパスポートを没収された移民労働者もいたといい、KLIでの移民労働者の労働環境は、国際労働機関(ILO)の定める強制労働の定義に当てはまる状況であったと報告書は指摘する。
シマノ側、HRNの連絡受け是正措置を実施
こうした問題を察知したアンディ氏はKLIとコミュニケーションを取るも、状況の改善にはいたらず、HRNを介してシマノ側とのやりとりを実施。 結果として、シマノ側でも調査が行われ、KLIで働く移民労働者に対し、斡旋料・手数料を返金するなど、是正措置が取られた。
企業努力のみでは対応困難「日本国内で法整備を」
移民問題は国も絡んでおいることなどもあり、アンディ氏は「このようなケースにおいて、個別事案の対応だけでサプライチェーンにおける労働者の権利侵害に対する大きな変革をもたらす限界を露呈している」とし、サプライチェーンの下流(輸入国)である日本の、国としての対応が必要だと主張する。 シマノの事例では現在働いている移民労働者への手数料の返金が実現した一方、労働者からの苦情があったにもかかわらず、HRNからのコンタクトがあるまで、対応に遅れがあった。また、過去に働いていた労働者への補償など、課題は残っている。 しかし、輸出国(生産国)や、移民労働者の出身国での構造的な問題が関わることから、企業努力のみで、労働者を保護するのは難しい。 そこで、HRNのアドボカシーオフィサー、ケイド・モスリー氏は、日本のような国が、強制労働によって製造された製品の輸入を禁止することが、有効な手段ではないかと訴える。 「日本は経済的に影響力を持っており、自国内では強制労働を禁止していることから、労働者を保護する基礎があるといえます。ただ、強制労働で作られた製品の輸入を禁止するという法律はありません。 海外では、すでにアメリカの米国法第307条や、ウイグル強制労働防止法、EUの欧州強制労働規則などで、強制労働産品の輸入を禁止しており、今後も米国とEUの市場にアクセスするためには、日本国内でも法規制を検討する必要があります。 実際に、アメリカでは、新疆ウイグル自治区での強制労働との関連が疑われたことから、ユニクロの製品の輸入を差し止めたという事例もありました。 日本政府には、サプライチェーン内の強制労働を終わらせる責任があり、そのためにも法整備が有効なのではないでしょうか」
「身の回りの商品、強制労働で作られているかも」
HRNでは、今後この報告書をもとに各省庁とも議論をしていくとのことだ。 会見の最後に、HRNの事務局長・小川隆太郎弁護士はサプライチェーンでの強制労働の防止には、日本の消費者の意識を変えることも必要だと訴えた。 「海外の強制労働問題を見える化していく必要があると思います。普段身の回りにある輸入商品は、強制労働によって生産されているものかもしれません。ですが、現状ではそうした情報が消費者に届いていないので、この問題を広く伝えていくことも重要だと考えています」
弁護士JP編集部
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