Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/de7f2fbca25767853987b5c161939696caea83d2
途上国を中心に広がる食料不足。今後、さらに深刻化していくことはわかっているが、実は世界中で耕作放棄地は増えている。愛知大学名誉教授で、同大国際中国学研究センターフェローの高橋五郎氏の著書『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して解説する。 【写真】戦前は食糧増産のために空き地を利用 * * * 時代や環境の変化に合った食料供給システムの改革が、地球レベルで必要となっている。しかし、相変わらず利益優先の土地利用だけが幅を利かせ、その結果、大量に生まれているのが耕作放棄地。食料の需要が供給を大幅に上回っているのに、その生産基盤である耕地の無視できない面積が遊休地となってしまっている。工場設備に例えると、つくれば売れる需要は十分あるのに設備が古く、つくるたびに赤字が出るので放置しておくようなものだ。 世界の耕地面積は地球の土地面積の約38%に当たるが、穀物生産にそのうちの79%、すなわち地球の土地面積の約30%がそのために使われている(FAO[国連食料農業機関])。しかし耕地の半分以上がわずか10か国程度の国に支配されているのが現実である。 世界には経営耕地が1ヘクタール未満の約4億3000万戸の小規模農家がいる(FAOSTAT[FAO統計])が、大部分の耕地を持つのは大規模農業経営者である。
実は、世界の正確な耕作放棄地面積の合計は不明である。すでに耕作放棄された耕地が雑木雑草地や荒野に戻るのには2年か3年あれば十分である。その結果、耕地だったことを調べる術も見失われやすいからでもある。 世界の大部分の耕地には細かな制度上の見分け方が存在しないので、現在は、定期的に人工衛星を使った識別をたよりに、耕作放棄地を探り当てる方法が主体となっている。 コペンハーゲン大学(デンマーク)やドイツのライプニッツ移行経済農業開発研究所などが中心となって取組んでいる、世界の耕作放棄地とその要因の研究(「世界の耕作放棄地の軌道と進行要因の多様性の解明」2021年)は、耕作放棄地がさまざまな原因から世界各地で起きている実態を明らかにしようとしている。 彼らの研究によると、中国、ミャンマー、ネパール、ポーランド、スロバキア、南アフリカ、スウェーデン、アメリカでは、環境問題(干ばつ、土砂崩れ、洪水、土壌流出)、土壌汚染、人種差別、限界耕地からの離農、民族紛争、農業経営の不採算、後継者不足(高齢化)など複雑な原因が絡んでいるという。 残念ながら、この研究は耕作放棄地の面積データ自体を明らかにしていない。しかし、国によって異なるものの、概ね全耕地の10%程度は耕作放棄されていることを示唆している。
ちなみに2022年の日本の耕作放棄地面積は39万6000ヘクタール(農水省)、全耕地面積432万5000ヘクタールの9.2%に当たるから、世界にも同じくらいの割合の耕作放棄地があっても不思議ではない。 FAOがいう世界の作付可能地面積13億8700万ヘクタールのうち、少なく見積もっても8%は耕作放棄地となっていると仮定すれば、その面積はおよそ1億1000万ヘクタールもの広さとなる。10%とすれば1億4000万ヘクタールにも達する。中国の全耕地面積とほぼ同じくらいの、とてつもなく大きな面積である。 1989年のソ連の解体以後、ロシア・ウクライナ・ベラルーシでは急速な耕作放棄が起き、ポーランド・ルーマニア・リトアニア・ラトビア・トルコ・モルドバ・カザフスタンなどでも、耕作放棄地は急速に増えているという報告がある(カミラ、アルカンタラ他「MODIS時系列衛生データを用いた中欧・東欧の耕作放棄地面積のマッピング」2013年)。 これらの国々では、2005年の段階で、ロシアの3200万ヘクタールをはじめ、ウクライナ920万ヘクタール、ベラルーシ340万ヘクタール、ポーランド150万ヘクタール、ルーマニア100万ヘクタール、リトアニア90万ヘクタール、ラトビア60万ヘクタールの耕作放棄が起きたという。
合わせると約5000万ヘクタールを優に超える。世界の食料の絶対量が不足する原因の一つに、耕地不足があることは否定しようがないと思う。にもかかわらず、世界には多くの耕作放棄地がある。それを放置したままとなれば、食料危機対策は十分な効果を発揮しないまま永遠に残り続けるだろう。 世界の耕地面積の8~10%に当たる1億ヘクタール以上の耕地が、何も栽培されることなく放置されている理由を考えてみよう。 作り手がいない、採算が取れない、バイヤーが求める品質をクリアできない、自然災害や戦争や内紛の影響、農地土壌の悪化や乾燥など環境悪化、灌漑施設の劣化を含む地下水の枯渇などさまざまな理由が考えられる。 FAOや世界銀行などの国際機関は、先進国や農業大国の農業改革や世界の食料市場を支配するフードメジャー、多国籍の巨大な食品加工メーカーなどの利益追求のビジネスモデルに切り込む力を到底持っていない。 食料危機・飢餓を解消あるいは緩和するために先進国を含む全世界の食料をいかに増やすかという対策に共通目標として取組むべきなのだが、増えることで価格が低下することを嫌う勢力に対して抗う力は非常に弱いし、そもそもそのような感覚を持ち合わせていないことは問題であろう。 ●高橋五郎(たかはし・ごろう) 1948年新潟県生まれ。農学博士(千葉大学)。愛知大学名誉教授・同大国際中国学研究センターフェロー。中国経済経営学会名誉会員。専門分野は中国・アジアの食料・農業問題、世界の飢餓問題。主な著書に『農民も土も水も悲惨な中国農業』2009年(朝日新書)、『新型世界食料危機の時代』2011年(論創社)、『日中食品汚染』2014年(文春新書)、『デジタル食品の恐怖』2016年(新潮新書)、『中国が世界を牛耳る100の分野』2022年(光文社新書)など。
高橋五郎

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