2016年12月20日火曜日

出稼ぎ留学生(4)夢追いバイト掛け持ち

Source:http://www.nishinippon.co.jp/feature/new_immigration_age/article/296438

 カウンター内で白い湯気が上がる器に手際よくタレを注ぎ、声を張る。「はい!ラーメンセット、バリカタね」。ネパール人男子留学生のチャンドさん(28)=仮名=は週4日、福岡市のラーメン店で働く。日本人に似た風貌から、店では「サトウ君」と呼ばれ、人気者だ。
 「週28時間」超え黙認
 この日は午前9時から昼まで市内の日本語学校で授業を受け、午後1時半~8時半はこの店で勤務。午後10時から翌朝まではコンビニエンスストアでアルバイトをこなした。ダブルワークの月収は約20万円。母国の農村部なら平均年収の5倍に匹敵する。
 美容室で短くそろえた髪に革ジャン、最新式iPhone(アイフォーン)。普段着の彼に「苦学生」の印象はない。週末は留学生同士で集まり、飲み会を楽しんでいるという。
 「留学」ビザで認められる就労時間は週28時間までが原則だが、「いっぱいお金ためて、カトマンズにビル建てるね。お金がたまるまで日本にいたい」とチャンドさん。ビザ更新時の入国管理局のチェックを警戒し、三つの銀行の通帳を使い分けていると明かした。学校のクラス分けは成績順で「ちゃんと勉強する人のクラスと、働く人ばかりのクラスがあるよ」。彼は成績上位のクラスだという。
 「留学生の9割は28時間ルールを守れていない」。元留学生で、福岡県のネパール人団体幹部のマハトさん=仮名=は断言する。居酒屋と弁当工場、コンビニなど3カ所を掛け持ちするトリプルワークも珍しくないという。
   ◇   ◇
 勉強より就労が目的とも言える「出稼ぎ留学生」が増えた一因には、現地ブローカーの存在と日本の入管の人手不足がある。
 ネパールと同様に福岡への留学者が増加するベトナム。関係者によると、現地の留学仲介業者事務所の机には、数字を書いたシール付きの携帯電話18台が並べられていた。
 数字は、分厚いファイルに個人情報をまとめた留学ビザ申請者ごとの番号と符合する。来日前、日本の入管当局が現地の申請者に直接電話をかけ、留学ビザの取得に必要な日本語能力があるか確かめてくるための対策という。
 「入管が留学希望者に電話をかけると、この携帯電話が鳴り、日本語ができる業者のスタッフが申請者に成り済まして応答する」と関係者。本格的な留学ができるほどの日本語能力がない若者が、こうした手口で入管のチェックをすり抜ける。
 入管側も、チェック態勢が十分に取れていない。法務省のある職員は、福岡入管局に着任して審査業務の忙しさに驚いた。「入管の職員数に比べて、とんでもない数の旅行客や留学生がいて審査が追いついていない」。チェックは書類審査だけのため、記入に虚偽があっても、見抜くのは容易ではないという。
 さらに、マハトさんは「日本の入管も日本語学校も雇用主も、分かった上で28時間以上の就労に目をつぶっている」と答え、言葉を継いだ。「日本人が嫌がる仕事をわれわれがやっている。厳密に28時間しか働かせなかったら、人手が足りなくなるでしょ」
 ラーメン店で働くチャンドさんは、日本への留学を決めるまで「フクオカ」の地名を聞いたことはなかった。「(留学仲介業者に)『トーキョーはビザが難しい。フクオカがいい』と勧められたよ」
 2015年10月末現在、福岡県内で働くネパール人留学生は4470人、ベトナム人留学生は3045人。いずれも、この2年で4倍近くに増えた。
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 西日本新聞「新 移民時代」取材班
 imin@nishinippon-np.jp
=2016/12/10付 西日本新聞朝刊=

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