2016年12月28日水曜日

「出稼ぎ留学生」増加の背景 入管チェックすり抜ける手口 就労「週28時間」超え黙認

Source: http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20161228-00010003-nishinpc-soci

西日本新聞 12/28(水)、ヤフーニュースより

 カウンター内で白い湯気が上がる器に手際よくタレを注ぎ、声を張る。「はい!ラーメンセット、バリカタね」。ネパール人男子留学生のチャンドさん(28)=仮名=は週4日、福岡市のラーメン店で働く。日本人に似た風貌から、店では「サトウ君」と呼ばれ、人気者だ。

 この日は午前9時から昼まで市内の日本語学校で授業を受け、午後1時半~8時半はこの店で勤務。午後10時から翌朝まではコンビニエンスストアでアルバイトをこなした。ダブルワークの月収は約20万円。母国の農村部なら平均年収の5倍に匹敵する。

 美容室で短くそろえた髪に革ジャン、最新式iPhone(アイフォーン)。普段着の彼に「苦学生」の印象はない。週末は留学生同士で集まり、飲み会を楽しんでいるという。

 「留学」ビザで認められる就労時間は週28時間までが原則だが、「いっぱいお金ためて、カトマンズにビル建てるね。お金がたまるまで日本にいたい」とチャンドさん。ビザ更新時の入国管理局のチェックを警戒し、三つの銀行の通帳を使い分けていると明かした。学校のクラス分けは成績順で「ちゃんと勉強する人のクラスと、働く人ばかりのクラスがあるよ」。彼は成績上位のクラスだという。

 「留学生の9割は28時間ルールを守れていない」。元留学生で、福岡県のネパール人団体幹部のマハトさん=仮名=は断言する。居酒屋と弁当工場、コンビニなど3カ所を掛け持ちするトリプルワークも珍しくないという。
入管のチェックをすり抜ける手口
 勉強より就労が目的とも言える「出稼ぎ留学生」が増えた一因には、現地ブローカーの存在と日本の入管の人手不足がある。

 ネパールと同様に福岡への留学者が増加するベトナム。関係者によると、現地の留学仲介業者事務所の机には、数字を書いたシール付きの携帯電話18台が並べられていた。

 数字は、分厚いファイルに個人情報をまとめた留学ビザ申請者ごとの番号と符合する。来日前、日本の入管当局が現地の申請者に直接電話をかけ、留学ビザの取得に必要な日本語能力があるか確かめてくるための対策という。

 「入管が留学希望者に電話をかけると、この携帯電話が鳴り、日本語ができる業者のスタッフが申請者に成り済まして応答する」と関係者。本格的な留学ができるほどの日本語能力がない若者が、こうした手口で入管のチェックをすり抜ける。

 入管側も、チェック態勢が十分に取れていない。法務省のある職員は、福岡入管局に着任して審査業務の忙しさに驚いた。「入管の職員数に比べて、とんでもない数の旅行客や留学生がいて審査が追いついていない」。チェックは書類審査だけのため、記入に虚偽があっても、見抜くのは容易ではないという。

 さらに、マハトさんは「日本の入管も日本語学校も雇用主も、分かった上で28時間以上の就労に目をつぶっている」と答え、言葉を継いだ。「日本人が嫌がる仕事をわれわれがやっている。厳密に28時間しか働かせなかったら、人手が足りなくなるでしょ」

 ラーメン店で働くチャンドさんは、日本への留学を決めるまで「フクオカ」の地名を聞いたことはなかった。「(留学仲介業者に)『トーキョーはビザが難しい。フクオカがいい』と勧められたよ」

 2015年10月末現在、福岡県内で働くネパール人留学生は4470人、ベトナム人留学生は3045人。いずれも、この2年で4倍近くに増えた。
取材班から 共に生き、共に働く
 街角で中国語とも韓国語とも異なるアジアの言語を耳にしたり、褐色の肌の人々を見かけたりすることが、九州でもここ数年で急に増えた。実は、その多くは旅行客ではない。

 来年1月末に厚生労働省が公表する日本の外国人労働者数(就労する留学生含む)は、初の100万人突破が確実視される。九州7県でも計5万人を超える見通しで、特にベトナム人とネパール人は過去5年間で10倍増というハイペースぶりだ。

 「いわゆる移民政策は取らない」。安倍晋三首相はそう明言する一方、原則週28時間まで就労可能な外国人留学生を2020年までに30万人に増やす計画や、外国人を企業や農家などで受け入れ、技術習得を目的に働いてもらう技能実習制度の拡充を進めてきた。

 その結果、国連が「移民」と定義する「12カ月以上居住する外国人」は増加の一途。国籍や文化の異なる民が同じ地域で共に暮らし、働く、新たな「移民時代」を日本は迎えている。

 24時間営業のコンビニで弁当が買え、オンラインショッピングで注文後すぐに商品が届く便利な暮らし。それを支える深夜労働の多くは、アルバイトの留学生が担う。建設や製造、農漁業などの現場では、3K(きつい、汚い、危険)職場を嫌う日本の若者に代わって低賃金で汗を流している実習生も少なくない。

 留学生30万人計画も実習制度も、政府の建前は「先進国日本の国際貢献」。だが、人口減と少子高齢化で人手不足が深刻化する日本社会を支えるため、「発展途上国の安価な労働力で穴埋めしたい」という本音が透けて見えないか。

 そんな政府の施策には、外国人を共に生きる生活者と捉える視点が欠落し、建前と本音のひずみが、留学生の不法就労や実習生の過酷労働の温床となっているのではないか。

 歴史的にも地理的にも文化的にも、九州はアジアから新しい風を受け入れ、地域を活性化させる力を日本中に波及させてきた。西日本新聞の新たなキャンペーン報道「新 移民時代」は、九州で暮らす外国人の実像や、彼らなしには成り立たない日本社会の現実を描く。「共生の道」を読者と一緒に考えたい。
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西日本新聞「新 移民時代」取材班
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