Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/657eadb8ba870b9a0216bab9e06b5d59b46cf4ba
日本で増え続ける外国人は、日本社会にとって今や不可欠な存在だ。近年は人手不足を外国人で補うような動きも顕著だ。しかしそこには不協和音も生じ、日本人も外国人も共にジレンマに陥っているという現実がある。国が掲げる外国人との共生社会の実現はどこへ向かうのか。外国人の声、外国人と関わる日本人の声を集めた。(ジャーナリスト 姫田小夏) ● 中国人への「名義貸し」摘発 「そういう人なら心当たりありますよ。知り合いの男性だけど、もうおじいちゃんだから、宅建士の免許持っていても使わないでしょ」 都内のある雑居ビル――。不動産仲介会社を経営したがっている中国人の相談に、自称“何でも屋”の日本人男性が応じていた。高齢を理由に使わなくなった宅地建物取引士の免許を他人に貸す「名義貸し」をしてくれる人を、その中国人は探しているという。明らかに宅建業法違反になる。しかし、これを知ってか知らずか、「中国資本が日本経済を活性化させる」と信じるその日本人男性は“候補者探し”に奔走した。 それからほどなくして、こんなニュースが報道された。埼玉県朝霞市の中国籍の不動産会社社長が、宅地建物取引士の80代女性の名義を使い、宅建業の免許を不正取得したとして、警視庁に逮捕された、というものだ。 昨今、“不動産好きな中国人”が数を増す日本で、「宅建免許」は垂涎の的なだけに、今後もこの手の「名義貸し」による逮捕者は続々と出てくる可能性がある。 ● 3カ月の短期滞在ビザでひと稼ぎ 外国人の中には、犯罪そのものを目的にして来日する外国人もいる。 2023年4月、知人男性を車に監禁したとして元衆議院議員が逮捕されたが、このとき議員と共に男性を車に押し込んだのが、ウズベキスタン出身の5人の男だった。ウズベキスタン事情に詳しい田中劉生さん(仮名、60代)によると「犯罪に加担するのはウズベキスタンでも貧困地区の出身者で、カネが絡むと何でもするところがある」という。 「彼らが考えるのは『手っ取り早く稼ぐ』ことばかり。しかも1回やって成功しちゃうと味を占めるんですよ。警察はベトナム人に目が向いているから捕まりにくいし…。3カ月の短期滞在ビザでひと稼ぎして帰るっていうのがお決まりのケースですね」 田中さん本人も彼らとのつきあいには、ほとほと手を焼いているのだが、それでも彼らを“日の当たる世界”に引っ張り上げることを諦めなかった。日本企業への就職の橋渡しも手伝った。 「彼らは時間にルーズで、約束が2時といったら3時になる、『後で行くから』と言えば3時間後にやって来る。せっかく日本企業から声がかかっても、時間管理ができなかったり、うそをついたりするから、結局長続きしないんです」 「それでも…」と、田中さんはこう加えた。 「ウズベキスタン人は危険、とは思わないで。優秀な連中もいるから、なんとかチャンスを与えてほしい」
● 70年代にさかのぼる犯罪の根深さ 埼玉県で日本語教師をする藤本美香子さん(仮名、60代)は、これまで多くのアジア人留学生の面倒を見てきた。その中でも、近年来日するベトナム人には「共通するある傾向が見られる」と言う。 「アジアから来る留学生はそれぞれに特徴があります。ネパール語やモンゴル語は母国語と文法が似ていることもあり、その国の出身者は日本語の上達が早い。インドネシア人の多くは主にイスラム教徒なのでお酒は飲まず、道に外れることが少ないし、カンボジアやラオスの留学生も信心深い。 そんな留学生が多い中で、ベトナム人が目立ってしまいがちです。ベトナム人留学生はお酒を飲む上、日本で悪いことを学んでしまう傾向があるんです」 もちろん、ベトナム人にも超エリートもいれば、品行方正な人材もいる。しかし、「日本に来るのは別の属性の人が多い」という声もある。千葉工業大学を卒業したベトナム人のバン・タイさん(仮名、40代)は次のように話す。 「近年日本に来ているのは、学歴もなく、社会人経験もなく、ベトナムの都会でも働けないような農村出身の子が多いです。言ってみれば“不良分子”で、酒やドラッグも平気でやります。当然、日本語だって片言だし、ビジネスマナーなんて分からない。心あたたかい日本人に巡り合えれば別ですが、そうじゃないといじめられる。その結果、失踪して、犯罪に手を染め、堕ちていくのです」 ちなみにベトナムでも優秀な人材は欧米を目指す。出稼ぎ希望者でも、近年は韓国や台湾に行きたがる人材が増えている。 1970年代に来日した白髪のアウ・ダットさん(仮名、70代)は、日頃から熱心にベトナムの家族や親戚と連絡を取っている。訴えているのは、「今の日本に来てはいけない」という内容だ。アルバイトをしなければならない私費留学は、特に危険と背中合わせだと言う。 「私以外にも、70年代にインドシナ難民として日本にやってきたベトナム人がいますが、この中には社会から取り残され、暴力団まがいのグループを日本で組織した連中もいます。このような組織が今も存続し、社会から脱落したベトナム人が“堕ちて”くるのを待っているのです」 アウ・ダットさんは、昨今のベトナム人犯罪の根深さについて「70年代当時、日本政府は積極的に難民の面倒を見たとはいえない状況だった。国にも責任の一端はあります」と断じる。
● 最期の世話をしてくれる外国人材、一方「やっかみ」も 23年、猛暑の夏、80代の高齢の男性が神奈川県内の病院に救急搬送され息を引き取った。このときの状況を長女・河野とも子さん(50代)はこう回想する。 「コロナ対応で家族は父に面会できず、最も家族がそばにいてほしかっただろう死に際に、身の回りのお世話をしてくれたのが、中国籍の看護師さんでした」 日本の高齢世代には、その世代特有のアジア観があるが、望む望まないにかかわらず、不自由になった体を支えてくれて最期を看取ってくれたのは、中国からの人材だった。 都内在勤の杉田清さん(仮名、50代)も状況は似ている。現在、彼の母親は都内の療養型医療施設に入院しているが、そのフロアでは東南アジアから来た二人の女性が介護職員として働いているという。 「時々その姿を目にするんですが、果たして職場に溶け込めているのか気になります」(杉田さん) 過去に介護職員として働いた経験を持つ杉田さんは、当時自分が配属された職場をこう説明してくれた。 「日本人同士ですらコミュニケーションがうまくいかないのに、日本語が決して十分とはいえない外国人を受け入れるのは本当に難しい。現場はただでさえイラ立っていて、アジア人材を包容力でフォローする余力などは、私の職場にはほとんどありませんでした」 とはいえ、日本の産業は、こうした人材の下支えなしには維持できないため、アジア人材は喉から手が出るほど欲しい。 技能実習制度(4月から新制度)の下では、20年4月から「同一労働・同一賃金」が開始され、技能実習生に支払う報酬は、日本人が従事する場合に支払われる報酬と同等額以上の報酬を支払うことになった。 しかし、これもまた新たなジレンマを生んでしまった。アジアの人材と介護現場のブリッジとして数々の現場に立ち会ってきた船井貴夫さん(仮名、60代)はこう語る。 「『同一労働・同一賃金』が導入された結果、介護の現場に長いパート・アルバイトのベテラン職員と、入ってきたばかりの10~20代の外国人の賃金は、トータルで同じような金額になりました。そのため、小規模の介護施設を中心に外国人に対する“やっかみ”が強くなっています」
● 「特定技能制度の廃止」でも中身は旧態依然か 日本には外国人労働者を受け入れる(在留させる)制度として、約30年間続いた技能実習制度がある。 しかし、実質的に労働をさせていながらも、国は外国人労働者として認めてこなかったところに制度上の大きな矛盾があった。さらに、実習生たちは日本への渡航前にすでに多額の借金を背負わされていること、また「職業選択の自由」はなく転職は不可とされてきたところに、世界的な批判も集まっていた。 特に、ベトナムの若者たちが母国で借金漬けにされる背景には、技能実習制度にぶら下がる監理団体の存在、監理団体と送り出し機関の癒着、関連団体への政府機関からの天下りなど深い闇があった。 この制度は24年3月末で廃止され、4月から新しい制度となって、外国人労働者の不利益もいくらかは解消されるのではないかと期待されていた。しかし、ここに来て流れが変わってきた。前出の船井さんはこう話している。 「なくす方向で進むと思っていた技能実習制度でしたが、24年明けから事情は一変しました。業界では『育成就労制度』への名称変更にとどまるのではないかという声も出ています。新制度では、転職が認められない技能実習制度下で多発した失踪が減少するなど、改善点もあるでしょうが、ブラックボックス化した利権団体を残すのか、外国人の借金漬け問題はどうなるのか、こうした解決の行方が大変気になります」 2月末時点でまだはっきりしていない新制度の成り行きを、関係業界はかたずをのんで見守っている。 アジア人の在留者が共通して持つ“後悔”がある。前出のバン・タイさん(仮名)は日本で約20年にわたって生活しているが、自分の人生の選択を次のように振り返っている。 「機械の設計者になりたくて日本に留学しましたが、専門書に描かれている日本語は難しく、情報収集には本当に苦労が多かった。頑張って学んだ日本語も日本以外の国では通じず、日本人とのコミュニケーションにしか使えません。しかし、その“日本人コミュニティー”も私には遠い存在で、何年いても、日本人とは話す内容はかみ合わない。流行語が多く意味が分からない日本語に、私はただただ笑ってごまかしているだけなんです」 23年6月時点で日本に在留する外国人は約322万人。外国人との共生の実現は国家的課題だが、真面目に頑張る外国人が日本社会にとけ込められるかどうかは、私たちひとり一人の向き合い方にかかっている。
姫田小夏
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