2021年3月29日月曜日

上川法相、反省はあるのですか?記者質問への回答が酷い―入管法「改悪」問題

 Source:https://news.yahoo.co.jp/byline/shivarei/20210309-00226533/

会見する上川陽子法務大臣 筆者撮影・加工

 先月に閣議決定され、今国会で審議される予定の入管法「改正」案は、日本の難民排斥ぶりに拍車をかける内容だ。論点はいくつもあるものの、とりわけ、法務省・入管庁が難民認定申請者の強制送還を可能とする例外規定を設けようとしていることに対し、「国際法違反」と専門家や国際機関からも懸念の声が上がっている。このままでは、本来、難民条約に基づき庇護すべき難民を、国際法に反して強制送還してしまい、国際社会から批判を招くことにもなりかねない。法務省・入管側は「難民認定審査で不認定となっても、複数回申請する者がいる」「制度の濫用だ」と主張するが、まずは「難民認定率が低い国」と国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)に名指された日本の難民認定審査のあり方を見直すべきなのだろう。だが、上川陽子法相は、これまでの日本の「難民鎖国」ぶりについての反省はないようだ。

○日本の難民認定率での法務省のウソ

 「日本では難民認定申請者への差別が常態化している」―昨年9月にまとめられた国連人権理事会・恣意的拘禁作業部会の意見書は、日本の難民排斥ぶりに極めて厳しい評価を下し、改善勧告を行っている(関連情報)。実際、日本の難民認定率は0.5%未満と他の先進国の2~5割程度の認定率に比べ文字通り桁違いに低い。法務大臣定例記者会見(今月5日)で、筆者は難民認定率の低さについて上川法相に質問したが、その答えは

難民をたくさん受け入れている国々ということがありましたけれども、歴史的にも、あるいは地理的にも、いろんな形でつながりがあるところの部分が非常に多いのではないかと思います(中略)難民の認定数を0.何%という形で、単純に比較をするということについては、私は必ずしも適切ではないかなと思っております。

というものだった。法務省の報告書「令和元年における難民認定者数等について」では、よりハッキリと開き直っており、

「我が国での申請者の多くが、大量の難民・避難民を生じさせるような事情がない国々からの申請者となっています」

として、日本と他の先進国では事情が異なるとの印象操作を行っている。だが、日本での難民認定申請者の出身国として多いスリランカやトルコ、ネパール等の国々からの難民認定申請者に対し、他の先進国での認定率は、日本よりも大幅に高いのだ。全国難民弁護団連絡会議のまとめ(関連情報)によると、

  • 2006~2018年の統計で、スリランカからの難民申請者の日本での認定率は0%(申請者総数7058人中、認定0人)。これに対し、オーストラリアでは39.1%(1万2103人中4743人)、カナダでは78.3%(7590人中5949人)が難民として認定されている。
  • 同じく、ネパールからの難民申請者*は日本の認定率は0%(8964人中0人)。これに対し米国では29.7%(1万2380人中3688人)、カナダでは61.7%(1276人中784人)が難民として認定されている。
  • トルコからの難民申請者*は、日本での認定率は0%(6588人中0人)。これに対し、ドイツでは20.7%(3万8754人中8037人)、カナダでは57.3%(7631人中4374人)が難民として認定されている。

*いずれも一次審査 

 その他、世界的に見ても多くの人々が難民化しているミャンマーの出身者で難民認定を申請する人が日本でも多いのだが、やはり冷遇されている。

 つまり、「日本は他の先進国と異なり、難民が多く発生する国でないところからの申請者が多いのであって、難民認定率が特に低いというわけではない」という様な法務省・入管庁の理屈は、事実に反するフェイクなのである。

○絶対に認められないクルド難民

クルド人は主にトルコやイラク、イラン、シリアで暮らす少数民族で苛烈な迫害を受けてきた 写真はクルド人の少女 筆者がイラク北部アルビルで撮影
クルド人は主にトルコやイラク、イラン、シリアで暮らす少数民族で苛烈な迫害を受けてきた 写真はクルド人の少女 筆者がイラク北部アルビルで撮影

 日本の難民認定審査の異常さを示すものが、トルコ出身のクルド人の扱いだ。同国で少数民族として迫害を受けているクルド人に対し、1982年に日本の難民条約加入が発効して以来、法務省・入管庁はただの一人も難民として認めていない。これについて、定例記者会見(先月19日)で、筆者が「不自然ではないか」と上川法相に質問したところ、

「申請者の方が特定の人種、宗教、国籍等を有していることだけではなく、これらを理由に迫害を受けるおそれがあることにつきまして、申請された方お一人ずつ判断していくという手続でございます」

 との回答であった。要はトルコ出身の難民申請者に対し差別的な対応はしていない、とのスタンスである。上川法相は「申請者ごとにしっかりと判断していくという姿勢を、これまでもとってまいりました」とも発言したが、それは過去の事例から言っても、非常に疑わしい。

○国連が認めた難民を送還の「前科」

 2005年1月のことであるが、トルコ出身のクルド人であるアホメット・カザンキランさんと、その長男であるラマザン・カザンキランさんはトルコへと送還されてしまった。彼らは日本で難民認定申請をしていただけではなく、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)が正式に認定した難民*であったにもかかわらず、である(*いわゆる「マンデート難民」)。そのカザンキラン父子を送還したことに対し、UNHCRは強い懸念を表明。「前例のない送還」「国際難民法上で禁止されている『ルフールマン(迫害を受ける危険性のある領域に人を送り返すこと)』の行為にあたる」等と指摘した。

クルド難民への差別反対を訴えていたアホメット・カザンキランさんは息子と共に送還された 筆者撮影
クルド難民への差別反対を訴えていたアホメット・カザンキランさんは息子と共に送還された 筆者撮影

 つまり、UNHCRが認めたマンデート難民ですら、日本の法務省・入管では難民として認めず、しかも国際法に反して送還してしまったという「前科」があるのだ。筆者はカザンキラン父子のことにも言及して、日本における難民認定審査のあり方に問題はないのか、と問うたが、この「前科」について上川法相が筆者の質問への回答で触れることはなかった

 UNHCRは、今回の入管法「改正」案が、難民認定申請者の強制送還を可能とする例外規定を設けようとしていることに対しても、「望ましくないものとして深刻な懸念を生じさせる」として国際法違反の可能性を繰り返し指摘している。会見での上川法相の言動や、法務省・入管庁の報告書の記述から考えて、過去の反省もなく国際法違反を今後も行うことは、大いにあり得ることなのだ。今回の入管法「改正」案は、日本での難民認定申請者のみならず、日本の信用をも脅かしているのである。

(了)

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