2019年2月4日月曜日

「隣に外国人、嫌ですか」労働者24年で13倍に 平成の先に“共生”の時代

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1/29(火)、ヤフーニュースより

 平成という時代が暮れゆく。30年で変わったこと、変わらないこと。例えば、不寛容、無関心、自己責任という冷ややかな言葉が世の地表をひたひたと覆う一方、私たちはスマートフォンの画面と向き合って過ごす時間がずいぶん増えた。

 インターネット上の百科事典「ウィキペディア(Wikipedia)」は2001年、21世紀の到来とともに登場した。ウィキを含むネット検索は、仕事の調べ物や私生活での店選びなど、日常に定着した。でもリアルな世の中は、検索しても出てこない無数の「私」の関わりで形づくられている。一人一人の物語を重ね、編さんされていく「私」の事典。連載を“ワタシペディア”と名付け、新たな時代の節目をいくつもの「私」を通して見詰めてみたい。
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 冬の澄んだ青空に、朱色の五重塔が映える。学校も、アルバイトも休みだという姉(22)と妹(19)はiPhone(アイフォーン)を取り出し、自撮りでパシャリ。笑顔でポーズを決めた。

 福岡市博多区のオフィス街の一角。1200年以上前に空海弘法大師)が創建した真言宗の寺院「東長寺」は、土曜日とあって観光客でにぎわう。紫色のタイトなワンピースに、膝まで隠れるブーツ。女子大進学が決まった姉は、寺社巡りにはまっている。暇を見つけてはバスや電車に揺られて、気軽な小旅行。福岡県の太宰府天満宮、筥崎宮、宮地嶽神社はもちろん、佐賀県の祐徳稲荷や関東まで遠征したこともある。

 「はやっているから」と夏に始めた御朱印集めは早くも20カ所を超えた。写真をフェイスブックに投稿すると古里の友人、知人が付ける「いいね!」がうれしい。東長寺の御朱印をゲットし、「人生に新しい1ページが増える。それが楽しい」とほほ笑んだ。
 チェックのミニスカートに、大きめのニットカーディガンの妹は、そんな姉にあきれ顔だ。姉があちこちの神社や寺を訪ね歩いているのはフェイスブックを通して知っているが、いつも「また行ってる。暇だなぁ」と思っている。そんなことより、部屋で漫画とアニメ。タイプの男性は漫画「東京喰種(トーキョーグール)」の主人公、金木研だ。別のアニメのコスプレ姿でイベントに参加した経験もあるが「オタクではない」と言い張る。

 「私、お寺にも神社にも全然興味ないのに…」。ぼやきながらも作法は学んで知っている。姉とちょうず舎に並び、ひしゃくに水をくみ、左、右、左の順に手を清め、口をすすぐ。
境内を進むと本堂の前で「あっ、懐かしい香り」と妹の表情が和らいだ。姉は「お寺の匂いは古里と同じね」。線香の甘い香りに記憶を呼び覚まされたのか。姉妹は静かに手を合わせ、古里の言葉で祈りを唱えた。

 「オム・マネ・ペメ・フーム」
隣の外国人 嫌いですか
 平成が始まったころ、この国に暮らす外国人は100万人足らずだった。いまや約256万人。留学生アルバイトも含めた労働者は約128万人に上る。

 韓国人や中国人、南米の日系人。かつては似た顔の隣人が大半だったけれど、この5年ほどで国籍や職種は広がり、今後、この変化は加速していく。日常の「ふつう」の光景、近くにいるけれど知らない隣の「わたし」。ある姉妹の物語。
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 姉の名はシェルパ・チィリン・ドルマさん(22)、妹はシェルパ・ダワ・ヤンジさん(19)。唱えた「オム・マネ・ペメ・フーム」は、チベット仏教の祈りの言葉だ。2人の古里はヒマラヤ山脈の麓の国、ネパール。ルーツはエベレスト登山の案内役として有名なチベット系少数民族、シェルパだ。

 2017年4月、日本語学校に入るために福岡に来た姉はカルチャーショックを受けた。「ジャガイモが3、4個で100円。ネパールでは1キロ買えるのに」。驚いたのは物価の高さだけではない。「車が多いのにクラクションが聞こえない。みんなルールを守る」。ネパールでは誰も信号を守らない。道路を渡るだけで命がけだ。
 一方、アニメ好きの妹は「日本通」。姉の1年後に来日した際の第一印象は「フツー。だって、ビルも、女子高生の制服も、歩いているネコも、おにぎりも、アニメや漫画で知っていましたから」

 2人は若者に人気のブランド「ジーユー(GU)」「H&M」でコスパ重視のおしゃれを楽しみ、B級グルメを食べ歩く。お気に入りは筥崎宮(福岡市東区)のお祭りのたこ焼き、居酒屋の「たたきキュウリ」…。「野菜嫌いだったけど、広島風お好み焼きのキャベツは大好き」
だが途上国出身の留学生で姉妹のように余裕がある層はほんの一握りだ。「みんな夜遅くまで大変そう」。アルバイトで借金返済や仕送り、学費の積立金を捻出する苦学生が多い中、姉妹の学費は不動産業などを営む父親が負担している。コンビニで週5日ほど働き、バイト代はグルメや買い物、趣味に消える。

 ネパールと日本、インドの言葉と、英語を話す2人。姉は「本当は米国に行きたかった。でもビザが下りなかったから」。いったん母国で大学に進学後、「このままネパールにとどまっていたら未来が開けない」と日本留学を決めた。
 来春には福岡女学院大に進学し、「もっともっと勉強して大学院に」という姉。その先に夢見るのは、国連や国際的な非政府組織(NGO)で働く未来だ。妹も「アニメは好きだけどあくまで趣味。私もいつか、国際貢献できる仕事をしたい」と姉の背中を追う。

 ベトナム、中国、韓国…。いろんな国の友人ができた。だが、日本人の友人はいない。姉は言いにくそうに、切り出す。「アルバイト先の店長は親切。でも、そうじゃない日本人も多い」。電車やバスに乗ると、隣に座っていた日本人はどこかに行ってしまう。そんなことがたびたびある。「傷つきます。どうしてですか。外国人、嫌いですか」
 大みそかは、新年を旧暦で祝うシェルパにとっては普通の月曜。それでも姉妹は日本文化になじもうと、31日、太宰府天満宮の年越し神事に参加した。願いは、どうやら万国共通。「良いことが、ありますように」
【メモ】外国人労働者 24年で13倍
 国内で働く外国人数について、国が初めて統計をまとめたのは1993(平成5)年。当時の外国人労働者は9万6528人、うち約6万人が中南米出身の日系人だった。それが2017年10月末現在で127万8670人。約13倍に膨れ上がった。4割は「正規労働」ではない留学生アルバイトと技能実習生の約52万人。国籍は多様化し、ベトナム、ネパールが急増。スリランカ、ミャンマー、バングラデシュと続く。

 少子高齢社会を支える労働力確保を目的に、政府は4月、単純労働に正式に門戸を開く新たな在留資格「特定技能」を創設し、5年間で最大34万5000人を受け入れる。国籍や肌の色が違う外国人が日本人と同じように日常を謳歌(おうか)する姿は、都市部では既に当たり前となり、地方にもさらに広がっていく。平成の先には、共に社会を支える一員として「共生」する新たな時代が待ち受けている。
西日本新聞社

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