ネパールの首都カトマンズのホテルのロビーで、山に向かう準備をする登山客ら(2016年4月1日撮影)。(c)AFP=時事/AFPBB News 
【AFP=時事】世界の屋根を目指す登山者たちを17年間手伝ってきたアルゼンチン人の登山ガイド、ダミアン・ベネガス(Damian Benegas)さんは、今年はエベレスト(Everest)に戻らないという。安価だが危険ともいわれる地元のツアー会社に締め出されたからだ。

「2万8000ドル(約300万円)以下でサービスを提供している人たちがいるところで、6万5000ドル(約700万円)払ってくださいと顧客を説得するのは無理ですよ」とベネガスさんは米カリフォルニア(California)州からAFPに語った。

 エベレストが春の登山シーズンを迎えた中、ネパールのシェルパたちの仕事は繁盛する一方、登山隊をガイドする欧米のツアー会社は減りそうだ。通常5月末まで続く春の登山シーズンのため、欧米の主なツアー会社が今年確保した登山許可証はわずか119。発行数全体の半数にも満たない。

 欧米のベテランガイドたちは、ネパールの新しい会社の中には訓練を受けていないシェルパを使ったり登山経験の浅い客を受け入れたりして、人命を危険にさらしている会社もあると非難する。

「彼らは山に一度も登ったことがない若者たちを雇って、いきなり(標高約7900メートルの)サウス・コルまで荷物を運ばせている」と、登山ツアー会社ヒマラヤン・エクスペリエンス(Himex)のオーナー、ラッセル・ブライス(Russell Brice)氏は警告する。

 2014年にエベレストで起きた雪崩で16人のネパール人が死亡した。クライアントのためにテントや食料を背負って凍った山道を登るシェルパという仕事の危険性を改めて示した悲劇だった。

 1953年にエドモンド・ヒラリー(Edmund Hillary)卿とシェルパのテンジン・ノルゲイ(Tenzing Norgay)氏が初登頂を果たして以来、エベレスト登山を支配してきたのは欧米のツアー会社だった。

 欧米のツアー会社は、エベレスト登頂という主に外国人登山家たちの夢をかなえる手伝いをして4万5000~7万9000ドル(約490万~約860万円)の報酬を手にしてきた。

 業界が成長するにつれて、登山技術に優れたチベット系民族のシェルパが、ガイドやポーター(荷物運び)として不可欠な存在になった。

■安価なツアーで市場に混乱

 しかし5年ほど前から、主に元ガイドやポーターが経営する地元の会社が安価なツアーを提供し、市場に混乱を招いている。

 安い理由は、クライアントのスマートフォンやパソコンのための無線接続やバッテリーといった必要不可欠ではないぜいたくなサービスを割愛しているためだが、安い労働力を使っているからだとの指摘もある。シェルパの職を得て貧困から抜け出そうとしている若者たちを利用しているのだ。

 ネパール観光局のスダルシャン・プラサド・ダカール(Sudarshan Prasad Dhakal)局長は政府にはそんな懸念の声は聞こえてこないと語る。地元にはむしろ、これまで市場を支配してきた欧米企業の負け惜しみだと指摘する声もある。

 地元のツアー企業セブンサミット・トレックス(Seven Summit Treks)を経営するミングマ・シェルパ(Mingma Sherpa)氏は経験の少ない人材を雇っているガイドの一人だ。毎シーズン、最大25人の新人をエベレストに送っている。同氏は、新人は研修ではなく現場で仲間から学んで技術を身につけると述べ、安全性に問題があるとの指摘を一蹴した。

 一方、別の地元企業でヒマラヤで活動する最も古いツアー会社の一つ、アジアン・トレッキング(Asian Trekking)のダワ・スティーブン・シェルパ(Dawa Steven Sherpa)社長は懸念を強めていると言う。「訓練を受けていないシェルパと経験のない登山家は最悪の組み合わせだ。だが幸いにも、事故が起きたときに駆け付けてくれる装備の整ったツアー会社が近くにあるが」

 これまでエベレストで何度も救済活動に当たってきたアルゼンチン人の登山ガイドのベネガスさんはかなり厳しい状況だと考えている。「彼らの国であり、彼らの山だ。彼らにはやりたいことをする権利がある。でもコストについては正直でないといけない」

【翻訳編集】AFPBB News