Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/041625f047c777f95d48ec5854083d6cf61cf419
トラック、バス、タクシーのドライバー職に、外国人労働者を活用することが検討されている。各社報道によると、国土交通省は今年度中にも、在留資格「特定技能」の対象業種に「自動車運送業」を追加する見込みだという。 【図表でわかる】ドライバー職の平均年収 現在ドライバーとして働いている外国人は、永住者や日本人の配偶者といった「身分に基づく在留資格」を持つ人以外はほとんどいない。この制度変更によって、外国人労働者がドライバー職に就く門戸が大きく広がることになる。
トラック、バス、タクシーのドライバー職は、長時間労働のわりに賃金が安く、若者にも敬遠されがちだ。全産業平均と比べても平均年収は低めで、高齢化が進んでいる。人手不足は年々深刻になっており、東京商工リサーチが4月に実施した調査でも、「正社員不足」と回答した企業の割合は、「道路貨物運送業」で88.2%、「道路旅客運送業」では90.9%に達した。 ■外国人ドライバーの活用に立ちはだかるハードル 来年4月からは、これに2024年問題が追い打ちをかける。時間外労働の上限が年間960時間に規制されてしまうのだ。ドライバー職の人手不足は待ったなしの状況であり、国がこのタイミングで外国人ドライバーの門戸開放に踏み切るのは、ある意味必定だと言っていい。
しかし、外国人をドライバー職で活用するにはいつくかのハードルがある。特に今回検討されているのは、日本語レベルや日本在住期間の条件が厳しくない在留資格「特定技能」である。言語や慣習のハードルを乗り越えるのはそう簡単ではないだろう。 では外国人ドライバーの活用に立ちはだかる具体的なハードルとは何か。以下で3つほど指摘したい。 (1)「言語」のハードル ドライバー職に就くには当然、必要な運転免許を取らなければならない。まずこれが高いカベになる。普通免許であれば、英語や母国語でも試験を受けられるのでハードルは下がるが、客を乗せるバスやタクシーのドライバー職は第2種免許が必要となる。第2種免許は外国人の例外措置が設けられておらず、必ず日本語で受験することになっている。日本人でも内容が難しい試験を、日本語で解かなければならないのだ。
この点「身分に基づく在留資格」を持つ外国人であれば、日本在住期間が長くて日本語能力の高い人が多いので、超難関とは言えないかもしれない。だが今回認めようとしているのは、特定技能の外国人ドライバーである。採用段階で、第2種免許試験に短期間で合格できるくらいの日本語能力を持っている人は少ないはずだ。 ■外国人には難しすぎる試験問題 そもそも第2種免許試験は、長く日本で生活している外国人でも歯が立たないほど難しい。以前、来日20年を過ぎてから第2種免許試験を受け、10回目の挑戦で合格したブラジル人に話を聞いたときも、試験の難しさについてこんな感想を漏らしていた。
「難解な法律用語も出てきますし、引っかけ問題もたくさんあるので、何度も問題文を読み直さないといけません。漢字にふりがなは振ってありますが、問題数が多くて全然時間が足りないです。外国人にはとにかく難しすぎますよ」 ここで言う「引っかけ問題」は、日本人でも難しいので皆さんにも実際に問題を解いてもらいたい。まずは虚心坦懐に、次の正誤問題の答えを考えてみてほしい。 《問1》赤信号では必ず停車しなければならない
《問2》夜間の道路は危険なので気をつけて運転しなければならない 《問3》車は交通標識を守らなくてはならない いかがだろうか? すべて○と思った方が多いのではないだろうか。だが、正解はすべて×である。 《問1》は、救急車、パトカー等の緊急車両はその限りではない。 《問2》は、夜間だけでなく昼間も気をつけて運転しなければならない。 《問3》は、車だけでなく歩行者も標識を守る義務がある。 というのがその理由である。
こうした「揚げ足取り」ともいえるような日本語の微妙な表現の誤りを問題にされると、多くの外国人は太刀打ちできないだろう。日本語能力試験N2レベル(5段階中上から2番目のレベル)の日本語能力を持っていることが、合格するための最低要件になるのではないか。 実際に外国人ドライバーを採用しようとしたときに、メインターゲットになるであろうN3以下の非漢字圏(インドネシア、ベトナム、ネパール、ミャンマー、スリランカ、モンゴル等)の外国人には相当ハードルが高いはずだ。必要な免許を取らせるまでに、日本人の倍以上は時間がかかると考えておいたほうがいいだろう。
■日本独特のルールや慣習 (2)「ルールや慣習」のハードル 母国と日本の「ルールや慣習」の違いもハードルになる。日本の道路事情や複雑な交通ルールを完璧に理解し、安全に運転できるようになるまでには時間がかかる。たとえば交通ルールに関していうと、日本と同じ「左側通行・右ハンドル」の国は世界的にみると主流ではない。 日本で働く人材が多いベトナム、フィリピン、ミャンマー、モンゴルといった国は「右側通行・左ハンドル」である。 プライベートで普通車を運転するのならともかく、大型のトラックやバスを母国と違うルールに従って乗りこなせるようになるには一定の時間が必要だろう。
また、交通安全や運転マナーの常識が日本人とは違う外国人もなかにはいる。これに関して、日本で免許を取って日常的に車の運転をしているベトナム人留学生が、ベトナムと日本との交通事情の違いについてこんな話をしてくれた。 「ベトナムでは運転中、普通に何度もクラクションを鳴らします。突然誰がどんな動きをするか予想できませんから。割り込みもごく当たり前です。遠慮していたら、いつまで経っても目的地に着けないですしね。日本ではドライバー同士で暗黙のルールがあるじゃないですか。このケースはどっちが譲らなければならないとか。そういったルールがわかるまでは運転に苦労しましたね。事故になりかけたことも一度や二度ではありません」
交通事情が違えば、当然ながら運転のルールや慣習も大きく異なる。そのため日本でドライバーとして独り立ちさせるには、母国と日本のルールや常識の違いについてもしっかり教えなければならないのだ。 タクシードライバーについては、接客のスキルも重要になってくる。客が自分と話をしたいのか、したくないのかを瞬時に見極め、当意即妙に対応を変えなければならない。空気を読んだり、相手の言葉の裏を読んだりする能力が必要になる。こうした日本人特有のコミュニケーション方法は、外国人が最も習得に苦労する点だ。
また、泥酔客やスピード違反を要求する客を乗車させることもあるだろう。そのときにどこまで「お客様第一」を貫き、トラブルなく対応することができるか。いずれにせよ、日本人社員より事前の接客教育に時間をかけなければならないのは確かだろう。 以上みてきたように、特定技能の外国人社員を受け入れた場合、免許を取得させるにしろ運転マナーや接客を教えるにしろ、日本人新入社員とは別のプログラムで一からじっくり教育する必要がある。想像以上に時間がかかるはずだ。
この間、その外国人社員に研修受講以外にどんな仕事をさせるのか。そして、そもそも慢性的な人手不足が続く当該業界の中に、長期スパンで外国人社員を育成できるほど受け入れ体制が整った会社がどれだけあるのか。クリアしなければならない課題は多いと言わざるをえない。 ■ドライバーの仕事を希望する外国人がどれだけいるか (3)「仕事の魅力」のハードル そして、じつは最も高いカベになりそうなのが「仕事の魅力」のハードルである。私自身今回のニュースを聞いたとき、率直に申し上げて「どのくらい希望する人がいるだろうか?」と直感的に思ってしまった。残念ながら現状は、日本のドライバー職に魅力を感じる人が多くはない。
たとえばトラックドライバーの仕事にしても、事故率が高くて危険というイメージを持つ外国人は少なくない。加えて日本のドライバー職は、低賃金で長時間労働を強いられる仕事であることは調べればすぐにわかる。働くための条件を緩和したとしても、チャレンジしたいと考える外国人がどれだけいるか。正直かなり疑問と言わざるをえない。 オーストラリアではタクシードライバーの平均年収が860万円に達し、アメリカでトラックドライバーの仕事に就けば、初年度から1500万円近く稼ぐことも可能だという。こうした事実が知れわたっている中で、同じ業務で平均年収400万円ほどの仕事を外国人が希望するのだろうか。
■世界の人材獲得競争に負け始めている日本 今回の制度変更は業界団体からのプレッシャーを受けて動き出したのだろうが、ウラに透けてみえるのは、「働く条件さえ緩和すれば、外国人労働者が次々と押し寄せてくる」という前時代的な発想だ。 だが、もはやこの考えはまったく当てはまらなくなっていることを認識すべきだろう。ただでさえ日本は世界の人材獲得競争に負け始めている。働く魅力のない国になりつつあるのだ。その日本で、日本人の就職希望者すら限られる仕事に外国人がチャレンジしようとするだろうか。
まずは業界全体で、長時間労働と低賃金が常態化している構造的な問題にメスを入れていくことが先決だ。これらの問題解決を先延ばしにしたまま、「とりあえず外国人を連れてきて、目先の人手不足を解消しよう」と安直に考えるべきではない。 「日本人が魅力を感じにくい仕事に、選択肢の多いアジアの若者が就きたがるわけがない」。この当たり前の事実を前提に問題解決を図っていかなければ、外国人の受け入れ制度をいくら変えても「絵に描いた餅」に終わる可能性が高いことは強調しておきたい。
千葉 祐大 :人材コンサルタント/一般社団法人キャリアマネジメント研究所 代表理事

0 件のコメント:
コメントを投稿