Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/67b91c6cc1d8ef48b1e1d6ffb557159f87a283fc
■状況認識の甘さ、危機感の乏しさが露呈 4月25日、東京、大阪、兵庫、京都の4都府県に3回目の緊急事態宣言が出た。大阪府では2回目の緊急事態宣言を2月末に解除してから、猛烈な感染拡大が起きた。「まん延防止等重点措置」の効き目も薄く、4月13日には新規感染者の1日の発表が初めて1000人を突破。吉村洋文大阪府知事は緊急事態宣言の発出を政府に要請した。 【この記事の画像を見る】 また、3月に緊急事態宣言を解除した東京でも、後を追うかのように感染者が増加。大阪に追随して、緊急事態宣言が要請された。明らかに「第4波」の到来を招いてしまったわけだ。 しかし、菅義偉首相はその段階になっても「第4波」を頑なに否定していた。4月14日の参議院本会議で答弁に立った菅首相は、「現時点で全国的な大きなうねりとまではなっていないと考えている」とし、「関西圏など特定の地域を中心に急速に感染拡大が進んでいる。政府として強い警戒感を持って対応すべき状況にある」と述べるにとどめた。 ちょうど同じ日に、衆議院内閣委員会に出席していた政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会の尾身茂会長は、真逆の見方を示した。「いわゆる『第4波』と言って差し支えない」と述べたのである。はからずも菅首相の状況認識の甘さ、危機感の乏しさが露呈することになった。 ■どこから「変異型」ウイルスはやってきたのか 結局、政府は、知事らの要請に背中を押される形で、緊急事態宣言の発出に踏み切った。吉村知事が2回目の緊急事態宣言時の対応では不十分だとして、大型商業施設や娯楽施設の休業要請を口にし、政府もそれを認めざるを得なくなった。 第4波で急速に感染者が増えている理由として、「変異型」ウイルスのまん延拡大があると政府も専門家も指摘している。3月に2回目の緊急事態を解除した時には予想しなかった変異型が広がっていると言いたげだ。それではいったい、どこから変異型ウイルスはやってきたのか。 3月中旬の時点で、もともと変異型ウイルスが日本国内に存在していたと言うのならば、緊急事態宣言の解除をするべきではなかった、と言うことになる。一方、最近になって海外から入ってきたと言うのならば、その侵入を許した「水際対策の不備」が原因ではないのか。いずれにせよ、人災とまでは言わないにしても、政策判断の失敗が第4波を引き起こしたと言えるだろう。
■指摘される「東京五輪」との関係 なぜ3月19日の段階で、21日をもって緊急事態を全面解除する決定を菅首相は下したのか。多くのメディアの世論調査では、緊急事態宣言を「延長すべきだ」とする回答が過半数に達していた。それでも菅首相は、病床使用率が低下したことを理由に解除に踏み切った。 多くの識者が指摘するのは東京オリンピック・パラリンピックとの関係。3月20日に政府と東京都、大会組織委員会、国際オリンピック委員会(IOC)、国際パラリンピック委員会(IPC)による「5者協議」が開かれ、海外からの観戦客の受け入れを断念することを決めた。つまり大会自体は開催することを決定したわけだ。 3月25日には聖火リレーがスタートしている。「本当にオリパラはできるのだろうか」と多くの国民が懸念する中で、あえて、実施に踏み切る決断をするためにも、「緊急事態の解除」という演出が必要だった、というのである。 ■本当の理由は「海外からの労働者の受け入れ」ではないか 緊急事態宣言の解除には別の理由があったのではないか。可能性があるのは、海外からの労働者の受け入れだ。 日本の製造業の現場だけでなく、農業も小売業も、外国人労働者に依存している。多くは「留学生」や「技能実習生」として初めてやってくる外国人だが、緊急事態宣言で、その入国が規制されていた。 出入国在留管理庁の「出入国管理統計(速報値)」によると、2020年の11月も12月も、5万人を超える外国人が新規入国していた。1月7日に緊急事態宣言が出された後も、1週間以上にわたって入国を認め続けており、政府の分科会でも「水際対策が不十分だ」と指摘する声が上がった。結局1月も3万7000人の新規入国外国人が日本にやってきていた。 その新規入国者を見ると、12月は中国人の1万6778人とベトナム人の1万5454人が圧倒的に多い。1月は中国人の8942人に対し、ベトナム人の新規入国者は1万9905人に達した。事実上の出稼ぎ労働者を駆け込みで受け入れた、ということだろう。 2月の新規入国外国人は1469人、3月は2017人と年末までの20分の1未満に減少している。3月の緊急事態宣言の解除でそれまで受け入れられなかった新規の外国人労働者を入国させようとしたのではないか。実際、農作業が始まった地方では、外国人技能実習生などが入国できないために、人手が足らず、作付け面積を減らすところも出ていると報じられている。4月の統計にその数値が現れてくるのだろうか。
■日本の水際対策は「甘い」 中国は新型コロナの封じ込めに成功しているとされ、ベトナムも感染者は他のアジア諸国に比べて格段に少ない。こうした国からの受け入れが、変異型の拡大につながったとは考えられない。では、なぜ、変異型が入ってきたのか。インドで急速に流行している二重変異型のウイルスもすでに国内で見つかっている。これはいったいどこから入ってきたのか。 やはり、「水際対策」の甘さが原因だろう。実は緊急事態宣言が出ていた2月、3月も、「再入国」の外国人は国境を通過していた。その数、2月は1万2355人、3月は1万7376人である。再入国者は日本に居住している中国人、韓国人、フィリピン人が多いが、2月にはネパール人が730人、インド人が726人、3月にはネパール人が1063人、インド人が882人、再入国している。さらに日本人は2カ月で6万人近く帰国している。 空港の検疫所で検査を行うものの、2週間の「隔離」は行われず、自主的な自宅待機が主流。公共交通機関も使わないように指示されるが、当局が監視しているわけではない。あくまでも入国した人たちの「良心」に任されているだけなのだ。 オーストラリアなどがスポーツ選手までも例外扱いせず、厳格に隔離しているのに対して、日本の水際対策は「甘い」のひとことなのだ。おそらくそうした帰国者の中に変異型ウイルスの保有者が潜んでいて、国内での感染源になったのだろう。 ■なぜPCR検査をもっと行わないのか 誰が感染源なのか、感染ルートはどうなっているのか、もはや日本では調べようがない状態になっている。発症者の半数以上が「感染経路不明」である。 というのも、日本国内では十分にPCR検査を行っていないからだ。厚生労働省は国内でのPCR検査の最大能力は1日18万5000件にのぼると発表している。しかし、実際の検査実施数は感染者が急増している4月末になっても10万件に満たない。なぜ、検査を行わないのか。 政府の分科会の委員で検査を大幅に増やすよう提言活動も行った小林慶一郎・東京財団政策研究所研究主幹は、「感染症の先生たちと、私たち経済学者の間で、意見がまったく噛み合わない」と語る。 感染症学者は検査件数を増やして陰性者を大量に出すのは「無駄」だと考え、経済学者やおそらく国民の多くが感じている「陰性確認が増えれば経済活動ができるから有効だ」とする考えと相入れないというのだ。検査能力の問題というよりも、検査を拡大すべきだと専門家の「主流派」が考えていないため、実施に移されないというのである。
■国民が危機感を抱かない背景には「不信感」がある だからと言って、感染者との濃厚接触者などにターゲットを絞って検査をし、感染ルートを突き止めるという感染症学者の当初の作戦も、事実上破綻している。 ようやく民間のサービスなどもあって大学で学生が自由に検査できる体制を整える動きなどが出ているが、感染拡大から1年以上経ってそんな有様なのだ。一方で、ワクチンの確保やワクチン接種も進まず、英国や米国の接種率が4割を越す中で、日本は1%。そんな中で、感染拡大を防ぐには緊急事態宣言の再発出は遅すぎた、いや、3月の解除はするべきではなかった、ということになるだろう。 もっとも、菅首相や知事らがいくら厳しい言葉を発しても、国民の行動を変えることはできていない。宣言発出後も通勤時間帯の電車は混雑し、人流は減っていない。日本でも新型コロナによる死者はすでに1万人を突破した。にも関わらず、国民が危機感を抱かない背景には、政府の新型コロナ対策への不信感があるのだろう。 ---------- 磯山 友幸(いそやま・ともゆき) 経済ジャーナリスト 千葉商科大学教授。1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。 ----------
経済ジャーナリスト 磯山 友幸
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