Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/4091dec2e46fb5059a61a4f3d56b524bb29b4e65
■ 自然豊かで多民族が暮らす地域 村の小さな対立がやがて深刻な紛争へと発展していく社会派サスペンス『ヨーロッパ新世紀』。舞台となるのはルーマニア中部のトランシルヴァニア地方のとある村。 【写真6点】映画『ヨーロッパ新世紀』より トランシルヴァニアと聞くと、やはり思い浮かぶのは「吸血鬼ドラキュラ」。ルーマニアは豊かな自然に恵まれ、数多くの世界遺産や歴史的建造物で知られる。いつか行ってみたい。映画はそんな妄想を一気に打ち砕く。 山脈に囲まれた、ヨーロッパ有数の野生動物の生息地であり、古くからの伝統行事が受け継がれているトランシルヴァニア地方。村にはルーマニア人とハンガリー人、そして少数のドイツ人やロマの人々が暮らしており、ルーマニア語、ハンガリー語、ドイツ語、英語、フランス語が飛び交う。 台詞の字幕もルーマニア語は白、ハンガリー語は黄色、その他のドイツ語、英語、フランス語はピンクに色分けされているという見たこともない複雑さだ。 クリスマス直前、村出身のマティアスは働き先のドイツの食肉工場で暴力沙汰を起こし、村に舞い戻る。村は鉱山が閉鎖されて以来、活気がなく、多くの働き手はより良い報酬を求め、マティアスのように西ヨーロッパの先進国に出稼ぎに出ていた。
■ 人手不足解消のために雇い入れた外国人労働者なのに 対照的に地元のパン工場は人手が足りず、求人しても応募がない。マティアスの元カノ、シーラの働くパン工場ではEUからの補助金を得て、人材派遣業者を介して外国人労働者を雇い入れることになった。 スリランカからやってきた3人はとても勤勉で、職場にもすぐ馴染んだが、村のSNSには「奴らがやるのは盗みと殺しだ」「ひとり雇えば、じきに群れになる」「ルーマニアから追い出せ」と彼らを異端視した嫌がらせの書き込みが多数投稿され、ついには殺害予告まで書き込まれてしまう。 多民族の村だから、新しい民族も受け入れられるかといえば、そうではなく、一触即発の状態だったところにスリランカ人がやってきたことで、街は大混乱に陥る。地元民vs移民。ルーマニア人vsハンガリー人。労働者vs経営者。 自分たちは外国に働きに出ているのに、なぜ、彼らがやってきてはダメなのか。自国の言葉で話す村人たちは相手に通じないと思っているのか、容赦なく差別的だ。スリランカ人を一瞥して、放った言葉は「(来るのは)日本人だとばかり(思っていた)。中国、ネパール……結局はスリランカ人」。
なんとなくアジア人が来るとはわかっていたのだろう。東洋人だったら、まだましだった。物語は2019年クリスマスから2020年の初めにかけて描かれているので、パンデミックの騒ぎの前。これがコロナ以降なら、東アジア人なんて、とんでもないとなったことだろう。有色人種のスリランカ人たちは一部の村人からテロを起こすムスリム扱いされる。 「毎日、食べるパンを彼らにこねて欲しくない。古い考えかもしれないが、気持ちが悪い」 村人たちの不買運動で、パン工場はあっという間に窮地に立たされる。「パン種は直接、触らせません」。さらには「パンには関係ない部署に移動させます。村から離れたところに住まわせます」。 村人たちの総スカンで、パン工場の経営者はパン職人として雇った彼らを飼い殺しにした挙句、追い出そうとする。 ■ 同じ人種、同じ宗教の者だけが同調 見た目で誤解されたようだが、彼らスリランカ人たちはカトリックだった。家族思いの真面目ないい人たち。人となりを知ったら、きっと、村人たちも気が変わるに違いない。スリランカ人たちが教会を訪れるが、村人たちは入れようとはしない。 ルーマニア人は正教会、ハンガリー人はカトリック、ドイツ人はルター派が多い。それだけでなく、ハンガリー人にはユニテリアン主義派、ルーマニア人にはギリシャ・カトリック、ドイツ人にはカルヴァン主義派もいて、いくつも教会があり、鐘の音さえも違う。 細分化されているだけに教会は私たちだけのものという意識が強いのか。なんだかんだ集会を行うのも教会である。同じ人種で同じ宗教で育った人たちが集うのだから、意見は当然、近く、同調しあった挙句、考え方はどんどん過激化していく。
「今や人々は自由に行き来します。移民もフランス人です。ロマも市民です」 フランスから来た活動家が、積極的に移民を受け入れているフランスの現状を説明するが、彼らは耳を貸さない。 「植民地を欲しがったツケだろ」 「シャルリ・エブドの事件から学ばなかったのか」 ■ 移民・外国人労働者をわれわれは受け入れられないのか 人種差別。自国の人が職業を奪われる。宗教の対立。テロや紛争の不安。 小さな村で噴出したトラブルは移民を受けいれているEU圏の国々で起きている社会問題でもある。 そもそも日本では在留可能期間を短く、家族の帯同は認めないなどのルールで、外国人労働者が移民となることを防いでいる。労働力は欲しいけれど、移民は受け入れない。日本の本音は彼らと変わらない。 変化して前進していくのか、停滞して滅ぶのを待つのか。育った環境、文化、宗教こそ違えど、食べて、働いて、恋して、親子で思い合う気持ちは変わらない。決して他人事と片づけられない、遠い国の小さな村の事情。世界中が今、岐路に立たされている。 『ヨーロッパ新世紀』 2023年10月14日(土)よりユーロスペース他にて全国順次公開 ©Mobra Films-Why Not Productions-FilmGate Films-Film I Vest-France 3 Cinema 2022 監督:脚本:クリスティアン・ムンジウ 出演:マリン・グリゴーレ、エディット・スターテ、マクリーナ・バルラデアヌ他 公式サイト:https://rmn.lespros.co.jp
髙山 亜紀

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