Source:https://news.yahoo.co.jp/articles/9710c8f7153c3ac7518c2ab966d15b5a1a9911f3
日本には、生活に困窮した人のためのセーフティネットとして、生活保護等の社会保障制度があります。しかし、そうであるにもかかわらず、生活に困窮して「刑務所に入るため」に犯罪に手を染める人もいます。なぜでしょうか。ノンフィクション作家・石井光太氏の著書『世界と比べてわかる 日本の貧困のリアル』(PHP研究所)から、一部抜粋してご紹介します。 【早見表】年金に頼らず「夫婦で100歳まで生きる」ための貯蓄額
日本の刑務所は犯罪を増加させる?
日本は世界的にみて治安のよい国である。刑務所についても、細かく見れば、収容人数が定員過多になっているなどの問題はあるが、途上国と比較すれば、健全な運営がなされているといって間違いない。 [図表1]、[図表2]は、刑務所内での一日の生活スケジュールと献立である。 正月などの行事には特別な献立が用意されているし、歌手の慰問コンサートが開かれたりもする。女子刑務所では、職業訓練としてネイルアートや美容の勉強をすることもできる。健康を害すれば薬をもらえ、症状が悪ければ手術も受けられる。 おそらくこれを読んだ方の中には、「今の自分の生活よりいいじゃないか」と思った方もいるのではないか。実際に、手取り10万円以下で生活していたり、お年寄りできつい年金生活をしていたりする人にとっては、社会で生きるより刑務所に収容されていたほうが人間らしい生活を営めるという現実がある。一般社会と刑務所の優劣が逆転してしまうのだ。 最近も、あるスポーツ紙に、40代の男性が「働くより刑務所に入っていた方が楽だから」とわざと銃刀法違反を犯した男性の記事が掲載されていた。男性は、建設関係の仕事をしていたが、1ヵ月半経った頃から無断欠勤していた。逮捕時の所持金は13円で、公園で寝泊まりしていたという。 野外に段ボールを敷いて、ホームレスとして寒さや空腹に耐えながら生きていくのは非常につらいことだ。死ぬまでそんな生活をするくらいなら、刑務所に入って雨風をしのいで三食とりたいと考える気持ちも理解できる。残念ながら、日本にはそのような理由で犯罪に手を染め、自ら刑務所に入ろうとする人たちが一定数存在する。 日本の刑務所では生活環境が整いすぎているため、そうしたことが起こり得るのだ。 こうした犯罪者の中には、知的・精神障害を抱えている人々も少なくない。「累犯障害者」と呼ばれる人々だ。障害ゆえに社会に居心地の悪さを感じ、刑務所に入ることを目的に軽犯罪をくり返す人たちである。 法務省の発表によれば、2020年度の新規受刑者は1万6,620人だが、このうち知能指数が69を下回る者(知的障害と認定されるレベル)は3,317人に及ぶ。さらにテストを受けることさえできない者が406人。つまり、新しい受刑者の4人に1人が知的障害者なのである。全員というわけではないが、このうちの一部は先述のように「刑務所で暮らすほうが楽」と考えて、故意に罪を犯す。
刑務所の暮らしに「安心」を見出す「高齢の受刑者」
また、最近では高齢の受刑者の問題も大きくなっている。2020年に検挙された人のうち、16.9%(4万1,696人)が65歳以上の高齢者だ。30年前と比べると5倍の数字である。 こうした高齢者が犯す罪のほとんどは軽犯罪だ。[図表3]を見てほしい。 全体の69.5%が窃盗であり、女性だけに関していえば89.5%にもなる。生活が立ち行かなくなった高齢者が窃盗に走ったり、刑務所のほうが満足な暮らしができるという思いでわざと無銭飲食したりして捕まるケースがあるのだ。 日本のコミュニティーが失われた町で、心身に問題を抱える高齢者が自力で生きていくのは容易なことではない。だが、刑務所に入りさえすれば、衣食住を用意してもらえるし、介護のサービスまでついてくる。これでは刑務所の暮らしに「安心」を見いだすのも無理はない。 かつて私はネパールの元政治家にこの話をしてみたことがある。すると、次のような答えが返ってきた。 「ネパールでは、知的障害者や高齢者が刑務所の生活のほうがマシと思って犯罪をすることなんて考えられません。刑務所は一般社会と比べて、生きるのに楽な場所ではありませんからね。それに、スラムや路上で暮らしている人たちは、知的障害があったり、高齢であったりすれば、家族や友人の誰かしらが助けてくれます。一応ネパールにも老人福祉施設はありますけど、先進国ほど数が少ないのは、家族や隣人がその人たちの生活を支えるからなんです。私には、なぜ豊かな日本で知的障害者や高齢者がそんなことになってしまっているのか理解できません」 こうしたことが起こる原因は、日本では「国が何とかしてくれる」「社会保障制度があるから大丈夫」「専門家に任せるべき」と考え、目の前で困っている人を突き放す傾向にあるからではないだろうか。しかし、一般に思われているほど「国」や「社会保障制度」は助けにならないのである。 石井 光太 作家



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